とてつもない失敗をやらかした時には、迷うことなく本書をお読みください。
これは私の文章ではなく、この本の裏表紙に書いてある紹介文の冒頭です。
トム・フィリップスはロンドンを拠点とするジャーナリスト兼ライター。BuzzFeed UKの編集長を務め、英国の独立したファクトチェック慈善団体FullFactの編集者として活躍しているとか。
深刻だけどユーモアあふれる内容を、禰宜田亜希さんという方が軽妙な筆致で訳してくれています。
彼は、人間がとてつもない失敗をやらかす理由としてこの本の第1章に「人類の脳はあんぽんたんにできている」というタイトルをつけて、こんなふうに説明しています。
まず人間の脳は賢いことは間違いない、しかし何事にもパターンを見つけようと躍起になってしまうのが人間の脳の悪い癖。
そう言われてみれば、私自身も電車に乗っている時など車窓から見える家々が全部人の顔に見えてしょうがない、という時がありますが、これも私のあんぽんたんな脳がパターンを見つけようとしてしまっているんでしょうね。
この本には、そんなあんぽんたんな脳のおかげで人類が犯した大失敗の数々が収められています。
戦争や政治上の大失敗は気が滅入りますので、ここでは動物に関わる大失敗を二つ紹介しましょう(これでも十分気が滅入りますが)。
1、スズメ退治で死者3000万人
毛沢東といえば、現在の中国「中華人民共和国」の建国の父と言われる偉人です。
彼は中国を安全で衛生的な国にするために1958年に「四害駆除運動」というのを始めます。
マラリアを広める蚊、ペストを広めるドブネズミ、とまあここまではよかったのですが、数合わせのためか「うっとうしいから」ハエ、さらに「人民の大事な穀物を食べるから」という理由で「スズメ」が駆除の対象に選ばれました。
中国人民は義務を果たすために熱に浮かされたように駆除に精を出し、運動の始まった初日に上海だけでも20万ものスズメが死んだと推定されるそうです。
この駆除運動で合計1億羽(!)ものスズメが殺され、運動は大成功、と思った矢先これが大失敗だったことがわかります。
実はスズメが食べていた穀物はほんの少しで、普段は小さな虫、とくに作物の害虫であるイナゴをたくさん食べてくれていたんです。
突如として1億羽もの天敵のいなくなったイナゴが大繁殖!とめどない巨大な雲のようになったイナゴの大群が中国の作物を荒らしまくり、これが元凶となった大飢饉のせいで、最大3000万人の死者が出たと言われています。
2、シェイクスピア好きのニューヨーカーが放ったムクドリ
製薬会社を営む裕福なニューヨーカー、ユージン・シーフェリンが1890年に60羽のムクドリをセントラルパークに放ちました。
理由は大好きなシェークスピアの戯曲「ヘンリー4世」に「ムクドリ」というセリフがあったから。
このムクドリはたちまち環境に適応し、現在では全米で2億羽もいるそうです。
小麦やジャガイモを荒らすだけでなく1960年、飛び立ったばかりの飛行機が約1万羽のムクドリの群れに突っ込んでしまったことにより墜落、62名の死者が出る事故まで起きています。
イギリスかぶれの好人物シーフェリンは、自身の牧歌的な試みが、70年後人の命を奪ったり、アメリカ全土の農作物に多大な損害をもたらしたりするとは思ってなかったでしょうね。
他に有鉛ガソリンとフロンで二度も地球を汚染した物静かな発明家トマス・ミジリーのエピソードも紹介されています。
ミジリーは55歳で亡くなっていますが、下半身不随になった彼が発明した、滑車を使った独りでベッドから起きられる装置のロープに絡まってしまったことが死因だそうで、これが彼の3番目で最後の大失敗というわけです。
これを読めば、どんなあんぽんたんな失敗をやらかしても「メガトン級の大失敗よりはまし」と思うことができるんじゃないでしょうか?
あなたが、世界の破滅を導くあのボタンを押したのでなければね。
☆私が好きなエピソードは「インドのデリーの害獣コブラを減らそうと政府はコブラを殺して持ってきたものに報酬を出した。だから人々は報酬欲しさにコブラを育てた。これに困った政府は報酬を出すことをやめた。だから人々は価値のなくなったコブラをそこらへんに放した。結果は、前よりコブラだらけ。(ほぼ原文のまま)」という、またまた動物ネタです。
メガトン級「大失敗」の世界史 河出文庫
トム・フィリップス(著者), 禰冝田亜希(訳者)
定価 ¥1,078 ブックオフで¥550定価より528円(48%)おトク