著者のジョン・スカリーといえばペプシコーラの事業担当社長をしていた時に、あのスティーブ・ジョブズから
「このまま一生砂糖水を売り続けたいのか、それとも私と一緒に世界を変えたいのか?」
の口説き文句でAppleの社長に引き抜かれた人として有名です。
しかしその後販売不振の責任をめぐってジョブズと不仲になり、彼を追い出し、さらには世界初の携帯端末Newtonの開発・販売に失敗してAppleを去ったことから、あまり高い評価はされていません(携帯端末はその後15年の時を経て、Appleに復帰したスティーブ・ジョブズの手によってi-phoneとして世界中に広まります)。
しかしスカリーだって「ペプシチャレンジ」と呼ばれるコカコーラとの飲み比べキャンペーンで、万年2位だったペプシコーラをアメリカナンバーワンコーラに押し上げるなどの実力の持ち主。
そんな彼が、Apple・Google・Amazon・Uberなど、世界を変えたアメリカの10億ドル規模のビジネスのスタートアップについて書いた本です。
ちなみに本のタイトルにもなっている「ムーンショット」はアメリカのアポロ計画に代表される宇宙技術のように、ごく少数で世界を変えてしまうような大きなイノベーションのことを指すそうです。
彼はかつては敵対したジョブズの天賦の才能を素直に賛美するとともに、10億ドルビジネスの成功には必ずしも彼らのように時代を創るような天才的なイノベータ(改革者)である必要はなく、時代の変化に柔軟に対応できる「適応型イノベーター」であることが必要であると条件づけています。
そして先に挙げた他にも、彼が活躍した時代の世界のビジネスの豊富な事例(その中には彼が何らかの形で関係したビジネスも含まれます)を紹介しながら「適応型イノベーター」の輪郭をはっきりさせていきます。
事例の中には「ユニクロ(彼自身も愛用者だとか)」やかつてのソニー(ジョブズとともに何度か訪れているそうです)といった日本の企業も登場します。
彼が経験を通じて感じた「適応型イノベーター」に必要な6項目は
「好奇心」「アイディア展開力」「学びを重ねる」「もっと良い方法を見つけるまで諦めない」「準備する」「顧客中心のビジネスコンセプト」
という極めて当たり前だけど実行するにはそれなりの努力が必要なものばかり。
逆に言うと努力をすればだれでも「適応型イノベーター」になれるっていうことなのかもしれません。
また自身の失敗や解雇についても悪びれず書いていて、失敗が許されるアメリカ社会の優位性についても述べています。
その章の扉には「リスクを取らない人は年に二回ほど大きな失敗をする。リスクを取る人はやはり年に二回ほど大きな失敗をする。」というドラッカーの言葉が紹介されています。
後半のほうの失敗が何かと多い私にとっては、勇気を奮い立たせてくれる言葉ですね。
いま世界はこれからも不動の地位を占めていくと思われていた巨大IT企業群、GAFAなどの一角が崩れ始め、製造業のユニコーンとして独走していたテスラにもきしみ始めています。
世界ではきっとまた新しい10億ドルビジネスがその隙間を埋めるように生まれてくるのではないでしょうか?
円安・インフレで苦しんでいるように見える日本企業にも、同じように新たな適応型イノベーターが生まれる隙間ができているような気がしてなりません。
「十年一昔(じゅうねんひとむかし)」なんてことをいいます。
10年前の10億ドルビジネスの当事者の著作から学ぶのも悪くないんじゃないかと思いますよ。
不人気本で220円だし(笑)
ムーンショット! ジョン・スカリー(著者), 川添節子(訳者)
定価 ¥1,760 ブックオフで¥220 定価より1,540円(87%)おトク