ミカドサイエンス&テクノロジー講座(10)~米国発!樹木の400倍のCO2を回収する冷蔵庫サイズの吸収装置は藻類とAIのコラボ~

    みかドン ミカどん

    藻類の光合成と旺盛な繁殖力を利用して空気中のCO2を吸収する装置が米国で発表されています。今回は日本語に訳すと極超巨星というビッグな名前のAIソリューションスタートアップ(米国)ハイパージャイアントインダストリー社が開発したEOSバイオリアクターをご紹介します。

    400本分の木に相当するCO2吸収装置

    上の装置はEOSバイオリアクターという製品です。藻類が光合成で空気中からCO2を取り込む活動をAI制御し、高い効率でCO2を隔離・固定するために考案されました。

    大きさは3フィート(約91㎝)×3フィート(約91㎝)×7フィート(約213㎝)。なんとこの装置1台で400本分の木の働きに相当するCO2を吸収するそうです。作成したのはハイパージャイアントインダストリーという米国のスタートアップ企業です。

    藻類も木と同じようにCO2を使って光合成をしますが、成長の速度が速いため木よりも多くのCO2を吸収できます。そこでハイパージャイアント社ではAIを活用して光、温度、pHレベル、生体密度を調整し、最適な環境で効率よくCO2を吸収できるようにこの装置をつくりました。

    藻類はCO2の多い汚れた空気を好むので、エアコンなど空調システムの排気管や工業用パイプの近くで繁殖します。また、温度変化に強く広い農地を必要とせず、わずかなスペースでも安い費用で大量に育てることができます。

    池の表面をびっしり覆う藻は景観を損ねる厄介者ですが、その繁殖力の強さにCO2回収のヒントを得たハイパージャイアント社のEOSバイオリアクターは、摂取した空気に含まれるCO2やその他の汚染物質の60〜90%を消費した後、酸素が豊富なきれいな空気を吐き出します。

    繁殖した藻類は収穫して固形化し、バイオ燃料、油、栄養豊富な高タンパク食品、肥料、プラスチック、化粧品などへの活用を想定しています。

    残念ながらお値段は公表されていないようですが、発表後は多くの企業や政府機関から問い合わせがあり、革新的な製品としてFastCompany賞やグリーンテクノロジー賞など、いくつかの賞も受賞しました。同社の試算ではこの装置1台で年間2トンのCO2回収が可能とのことです。

    AIIソリューション会社が開発しました

    EOSバイオリアクターのAIシステム(画像:INHABITAT

    この装置を考案したハイパージャイアント社はグリーンエネルギーの専門会社ではなく、実はAIソリューション企業です。

    そのAIコンサルティングの多くは、フォーチュン500企業や政府機関向けの航空宇宙、ヘルスケア、防衛アプリケーションなどを支援しており、運輸および地方自治体のインフラストラクチャ、食品および飲料、小売などを含む業種などにもサービスを提供しています。

    創設者であるCEOのベン・ラムは39歳ながらすでに4つの会社を設立していて(売却済み)ハイパージャイアント社が5つ目の会社になります。

    同社ではNASA、GE Power、Apple、Twitterなどの人工知能製品も開発していますが、それだけではなく昨年(2020年)の7月には米国空軍と衛星システムに関する提携を結び世間を驚かせました。

    そのため米国内では革命児のような見方をされているようですが、EOSバイオリアクターに関して言えば、当初はペットの研究開発プロジェクトとして始まったそうです。

    しかし気候変動危機に対する企業の役割を考え始めた社内チームが環境への用途を模索し始め、2019年6月には気候関連ソリューションの顧問として科学者のビルナイを新たに起用しました

    CO2の回収に藻類をつかうアイデアは決して新しいものではありませんが、この装置の最大の特徴はAIを駆使して自律的に動作することです。そこがまさにハイパージャイアント社らしい製品と言えるでしょう。

    ちなみにハイパージャイアント社には2019年に日本の住友商事も出資しています。

    (参考)米国AIソリューション関連企業 HyperGiant Industries, Inc.への出資について/住友商事

    広い普及と汎用化が狙い

    年末までフォートワース博物館に展示されていたコンパクトサイズのバイオリアクター(画像:DALLAS INOVATES

    ハイパージャイアント社ではこの装置が世界の気候変動を変えるとは思っていません。それよりも一家に一台冷蔵庫があるように、この技術を使った類似の製品がたくさん出回って普及しインフラの一部のように機能することを望んでいるようです。

    そのためEOSバイオリアクターの技術はオープンソース化されることが決定しており、リリース後は一般の人も家で同じ機能の製品が自作できるようになります。

    ビル屋上の設置イメージ(画像:BROWNSOTNE

    また産業用としては多くのビルの屋上に設置されて、排気口から出てくる空気をきれいにする清浄機のような使い方が想定されています。

    しかし、新型コロナウィルスの影響を受けて今のところプロジェクトの進捗は足踏みしているようです。

    CEOのベン・ラムもハードワークがたたったのか、昨年1月に体調を崩すなど、開発のスピードは以前よりも少し落ちているようです。(DIY用オープンソースは予定では2020年リリース)

    個人的には同社のホームページからEOSバイオリアクターのコーナーが消えてしまったことも気になりますね。消えたコーナーはこちら(Internet Archive)から確認できますが(表示に時間がかかります)、これがフェイドアウトではなく、新しいステップへの準備であることを祈りたいものです。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典/参考記事: AI(人工知能)事例集 vol.141 米ハイパージャイアント社が藻類とAIを活用し気候変動と戦う技術を開発 Hypergiant is building a reprogrammable satellite constellation with the Air Force Agtech startup Pivot Bio snags $100 million amid busy April for climate tech Hypergiant Is Using AI And Algae To Take on Climate Change など