エネマネ最新事情(35) ~実はこんなに差が付いている北米と日本の地熱発電!そのワケは?~

    みかドン ミカどん火山国・日本は米国、インドネシアに次ぐ世界第3位の地熱資源国と言われていますが、実は知らないうちに大きく水をあけられています。カナダや米国では「高温岩体発電」と呼ばれる次世代地熱のスタートアップ企業がすでに実証実験を終えている段階です。今回はその背景に迫ってみました。

    閉じたパイプに流体を循環させるEavor社の高温岩体発電

    (画像:Eavor Technologies Inc.

    従来の地熱発電(フラッシュ型)は地下の熱水から得られる蒸気でタービンを回すものでした。けれどこの方法は地中に熱水が溜まっている貯留層がなければ熱を取り出すことができないため建設できる場所が非常に限られていました。

    また蒸気や熱水中の溶存成分により生産井や配管内に目詰まりや腐食が生じる場合があり、高額な掘削調査や建設の費用ばかりでなくメンテナンスにも時間とお金と労力が必要となり、収益性が悪いのが大きな難点でした。

    そこで今注目されているのが高温岩体発電と呼ばれる次世代地熱発電です。これは岩体が高温となっている地中深くまでパイプを通し、中を流れる水や流体などの熱によって発電する方法です。

    (画像:Eavor Lite to James Joyce Animation

    中でもカナダのスタートアップ Eavor Technologies(エバーテクノロジー)が開発した巨大なラジエーターのようなこの仕組み(Eavor-Loop™/エバーループ)は、従来のように貯留地下水を使わないため世界中どこにでも建設可能で、しかも帯水層を汚染せず水圧破砕で環境に影響を与えることもありません。

    現時点で150℃の熱が得られるというこのしくみは、場所を選ばない上にプラントの規模も柔軟に設置できるので、非常に拡張性のあるスケーラブルな方法として注目されています。

    Eavor社が今年の2月、石油メジャーのBP(英)とシェブロン(米)から4,000万ドル(42億円)の資金調達に成功したのも、その点が評価されたものと思われます。

    技術の進歩を背景に石油メジャーが地熱に資金を注ぎ始めた

    (画像:エコロジーオンライン

    一方、日本での高温岩体発電は長期安定性やコスト面で課題があり一度研究が途絶えました。今は再び研究開発が進められていますが、今年7月に公表された第6次エネルギー基本計画(素案)を達成するには、国内の地熱発電の設備導入量を現在の2.5倍にしなければならず日本でも新しい技術開発が望まれています。

    日本の場合は人工的に熱水の貯留層をつくる方式です。岩盤に水圧で亀裂を入れて水が溜まる隙間をつくり、片方の坑井から水を注入し、地下で熱くなった蒸気や熱水をもう片方の坑井で回収します。そして回収した熱水はまた元に戻されて循環します。

    といっても図を見ると、前述のEavor社の「Eavor-Loop™」と比べてなんとなく旧式のイメージがあり、少々見劣りする印象は否めません。

    左の図は初期に提案されていた「Eavor-Loop™」の原型です。3.5kmの深さの地中を5kmのパイプが横に何本も伸びています。

    私などはこんなことが本当に可能なのか?とつい思ってしまいますが、実は北米にはシェールオイル掘削の過程で培われた高い技術があり、水平掘削、地盤調査、水圧破砕法の開発が地中深くの岩盤層を化石燃料の供給源に変え、米国は世界最大の産油国となりました。

    そのハイテクロジーが北米の高温岩体発電スタートアップ各社の土台となっているというわけです。

    そしてその技術の高さを一番よく知る石油メジャー自身が、今まで「儲からない」と見向きもしなかった地熱発電にようやく注目し始めたというのが現状のようです。

    それは地熱発電(次世代)への投資の準備が整ったことを意味します。

    Eavor Technologies社が石油メジャーのBP(英)とシェブロン(米)から投資を受けたのは前述の通りですが、トタル、ロイヤル・ダッチ・シェル、エクソンモービルなども、石油以外のエネルギー源獲得のため、この分野のスタートアップとの協力を模索しているようです。

    高温岩体発電の実現で地熱をベースロード電源に

    アルバータ州にあるEavor社の実証施設(画像:GaiaDiscovery

    現在北米にはEavor社以外にも高温岩体発電のスタートアップ企業がいくつかあり、それぞれ実用化に向けてしのぎを削り、活発に活動しています。

    米国のFervo Energyはビル・ゲイツのBreakthrough Energy Venturesなどが参加する投資グループから2800万ドルの資金提供を受け、Googleと提携してネバダ州全域のデータセンターに電力を供給する計画です。

    また、米国のGreenFire Energyの技術は超臨界CO2などの熱媒を地中に送り込み、熱を取り出して蒸気をつくり発電する方式です。同社の実証施設には日本のJ-POWERも技術参加しています。

    気象や天候に左右される太陽光発電や風量発電と違い、地熱発電は24時間安定した発電が可能です。加えてEavor社のEavor-Loop™はパイプ内の流体の速さで発電量も調節できるとのこと。

    そうなるとこれが実現すれば、太陽光や風力の不均衡な発電量の平準化にも活用できますし、Eavor社ではこの次世代地熱発電をベースロード電源として普及させたい思惑もあるようです。そのためにはコストダウンが急務となるでしょう。

    シェールオイルの生産に目を向けると、1990年代に利益が出ていたシェール井は全体のわずか10%でしたが、この割合は今では90%を超えています。北米のシェール革命と大幅なコストダウンを支えたハイテク技術の進歩は地熱でも新たな革命を起こすのでしょうか。

    Eavor社は2021年以降にEavor-Loop™を日本でも建設したいとしており、日本でのビジ
    ネス展開や日本企業とのパートナーシップも視野に入れて今年5月にジェトロのイベント(オンライン)に参加しました。

    もし同社のEavor-Loop™が日本でも建設されたら、そのときはまたこちらでご紹介をしたいと思います。

    (ミカドONLINE編集部)


    参考/引用記事:大きな再生可能エネルギーを生むと期待される「地熱」を得る方法はどんな進化を遂げているのか? 巨大な地下ラジエター構造の地熱発電(Eavor-Loop™) 高温岩体発電システムの開発 未来の再エネ(その2 高温岩体発電) The First Truly Scalable Form Of Clean Baseload Power Eavor-Lite™ – Eavor – Demonstrating a New Energy Solution Impact:石油メジャーは地熱へ向かう 世界3位のポテンシャルを持つ日本の地熱発電 普及が進まない事情とは 202111 「グローバル・サステナビリティ・スタートアップ・ピッチ」オンラインで開催(PDF) など

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