世界はみなつながっている?

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今回はむかーしむかしの30年以上前、まだ私が独身の20代だった、この会社に入りたての、会社の建物も倉庫みたいだった頃のお話です。

当時、会社の正面のガラス戸から入ってすぐのところに煙突付きのストーブがあり、そのまわりが簡易応接のようになっていたんです。

四季を通じて3日に一回のハイペースでそこの丸椅子に座り込んで、当時の総務部長さんとダベっている人がいました。

その方はHさんといって、前はうちの会社にいた人らしいんですが訳あって退社。

その後は一人で会社を作り、当社はじめ何社かの仕事を請け負っている、今で言えばフリーランスのようなオジサンでした。

社名を「〇〇技研」とは名乗ってましたが、特に特筆すべき技術や資格があるわけではなかったので、簡単な点検業務などをお願いしていることが多かったと思います。

この人はいつもピンク色の大判の角2封筒を持っていて、私はその封筒の中身を知っていました。

そのピンクの封筒は当時店頭では買えず、年間契約が必要だった「日経ビジネス(日経BP社)」が送られてくるときのもので、私もそれを購読していたのです。

作業着にピンクの封筒を膝において、目が合うとニカッと笑顔で会釈するこの人に会うたびに、

「よっぽど暇なんだろうな〜 ウチのS部長くらいしか話を聞いてくれる人がいないのかな〜」

と微妙な気持ちで会釈を返していたものです。

何を話していたのかそのときはよくわかりませんでしたが、後々S部長に聞くと

「うーん 世界経済がどうしたこうしたって話だね。おれも良くわかんないから相槌だけ打ってるんだ。」

ということでした。

それを聞いた時、私は

「しがない一人親方が世界経済もへったくれもないでしょ」

「そんな暇あったら、もっとちゃんとした仕事して!」

(実際ミスも多かったので)

と、かなり冷ややかな気持が芽生えたことを正直に告白します。

そんなある日、いつものようにピンクの大型封筒を膝において座っているSさんの前を、ろくに目も合わさずすーっと通り過ぎようとした時

彼は私をこう呼び止めました。

「坊っちゃん(後にも先にもそう呼ばれたのはこのときだけです)」

「あなた、私のようなものがこんなビジネス雑誌なんか読んでおかしい、と思ってるでしょう?」

図星を突かれて私は思わず立ち止まりました。

「でもね」

彼はさとすような口調でこう続けます。

世界はみなつながっているんですよ」

「世界のどこかでおきた出来事が、後々めぐって自分の仕事や生活に関係してくる。

だから、世界で起きていること、経済界で起きていることを知っておく必要があるんですよ。」

その後も彼の仕事ぶりはあまり代わり映えせず、数年して自分の仕事を人に譲り、引退しました。

それから30年

私はバブル崩壊、中国の台頭、リーマンショック、東日本大震災、そして新型コロナウィルス禍など

様々な世界の出来事が、自分の決して大きいとは言えない会社に大きなインパクトを与えることを肌身に感じながら過ごしています。

いまご存命でしたらたぶん100才近い高齢になっているはずのSさんに会えるとしたら

「ホントですね、世界はみなつながっていますね。」

とあの時の非礼をお詫びしたいと思っています。

「今目の前で起きていることは、少し前に世界のどこかで起こったことの結果。」

「今起きていることが、少し後の世界を形作っていく。」

やっとそんなことがわかりかけて来た58才の私。

封筒は透明になりましたが、日経ビジネスも未だ購読中です。