連休の谷間の2日間、有給休暇をとってお家でのんびりしている方も多いんじゃないでしょうか?
おくつろぎのところ、暗い話題で恐縮ですが、海外ではウクライナやスーダンで悲惨な戦争状態になっています。
かたや私達が暮らすのは平和な日本ですが、かつて長く苦しい戦争と敗戦を経験しています。
私たち現代の日本人にとって、戦争は「いざとなったら駐留アメリカ軍や、自衛隊がやってくれるもの」というイメージが強いですが、実際に国土が戦乱に巻き込まれれば、そんな悠長な事も言っていられないと思います。
もしも、自分自身や家族が兵士として戦争に参加しなくてはいけなくなったらどうなるか?
先ごろ亡くなった松本零士さんの読み切り戦場漫画、「ザ・コックピット」シリーズは、そのことを考えたいときにぴったりだと思います。
今回私がご紹介するのは、全11巻のうちの第2巻。
40数年前の中学生の時分に、プラモデルづくりに夢中になる元になった、水冷式エンジンを積んだドイツの戦闘機フォッケウルフ190D-9が登場する「ベルリンの黒騎士」と、南方戦線で高性能レーダーを搭載したアメリカの夜間戦闘機P61ブラックウィドゥに苦戦する日本を描いた「妖機 黒衣の未亡人」が掲載されていたので手に入れました。
ドイツ軍や日本軍のかっこいい飛行機や戦車などの兵器が登場して、負ける運命にある悲運の主人公が雄々しく戦って死んでいく、そんなストーリーに魅せられていた、中学生の時の私でしたが・・・
60歳を過ぎてもう一回読んでみると、松本零士さんの意図するところはぜんぜん違うんだ、というところに今さらながら気がつきます。
主人公は格好いい歴戦のパイロットや、美しい恋人と離れて戦場に赴く悲劇のヒーローだけではありません。
薬屋、農家、坊さん、元レーサー、音楽家、宿無しなどなど、さまざまな経歴を持つ一庶民たちが、一兵卒として戦争に巻き込まれ、自動小銃や操縦桿を握り、互いに殺し合わなければならなくなる悲喜劇。
そんな兵士たちの操縦、操作に従い、殺し合いをただただ見つめ、朽ち果てていく、意思を持たない鉄の兵器たち。
反戦でも好戦でもない、人間の持つ愚かしさと崇高さがごちゃまぜになった姿がそこには描かれています。
内容はもちろんフィクションではありますが、数々の戦場や、作戦、そして兵器の数々は現実かと思えるほどに写実的。
そして敵役のアメリカ軍やイギリス軍の兵士たちも、時に弱気、時に勇敢、時に残酷な、戦闘員になるまでは普通の暮らしをしていたはずの一個人として丁寧に描かれていました。
もし自分が、当時の日本に生まれていたら?、当時のドイツに生まれていたら?、もし現代のウクライナやスーダンに生まれていたら?そしてロシアに生まれていたら?
ザ・コックピットはそんなことを考えるきっかけになるのではないでしょうか??
☆松本零士さんの一連の戦場漫画の主人公は、第二次世界大戦が舞台ですが、その主人公は日本人兵かドイツ兵。悲劇・悲恋のヒーロー物はドイツ兵、庶民が必死に戦うのは日本兵が主人公、というのが基本です。
☆ひ弱だったローティーンの頃読んだ「妖機 黒衣の未亡人」は「こっちが見えていて、向こうが見えていなければ、弱くても勝てる」という私の生存戦略の元になりました。しかしあらためて読み返してみると、P61を倒すため、平凡な整備兵3名が無理やり将校の格好をさせられ、たまたま居合わせた慰問団の美しい女優たちと一緒にオンボロの飛行機に詰め込まれ、オトリとして飛ばされる、というドタバタもの。強いはずのP61も、その偽VIP機を深追いして夜明けをむかえると、とたんにレーダーの威力を失い日本軍に囲まれてしまうという、どんくさい役回り。かっこいいシーンやヒーローになる人物も一つもなく、こういうのを好きになるのが実に私らしいと思いました。
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