今回はこれまでとは趣向を変えて、私の読書のダークサイドといいますか、あまり人生にプラスにならない本をご紹介します。
「人はなぜ人を殺すのか」という重いテーマをあつかった町田康さんの「告白」という小説です。
ブックオフでもワンコインで買えず750円、ページ数も600ページを超える大作ですが、これを読んでも人生が豊かになるかどうかは保証しかねます。
それでもこの本をおすすめしたいのは、人生に「後味の悪さ」も必要じゃないかな?と思うからです。
この本の題材は、明治26年におきた「河内十人斬り」と呼ばれる事件。
大阪、河内に住む博打打ちの城戸熊太郎とその舎弟の谷弥五郎が、金銭・交際トラブルの相手10人を殺害するという凄惨な出来事は当時のビッグニュースとなり、大阪の伝統芸能、河内音頭の代表的な演目にもなりました。
「告白」は終始、この事件の主犯格城戸熊太郎の目で語られます。
「安政四年、河内国石川郡赤坂村字水分の百姓城戸平次の長男として出生した熊太郎は気弱で鈍くさい子供であったが長ずるにつれて手のつけられぬ乱暴者となり。明治二十年、三十歳を過ぎる頃には、飲酒、賭博、婦女に身を持ち崩す、完全な無頼者に成り果てていた。」
という物語の中盤を最初に語る一文から始まるこの小説は、甘やかされて、気弱に、しかし鈍くさいながらも論理的な思考で自己に忠実に生きようとしていた熊太郎が、世間の荒波にもまれるうちに、少しづつ道を外れ、取り返しのつかないところまで行ってしまう様を克明に刻んでいきます。
ある日、切り立った崖に生えている羊歯(しだ)が、自分をどこかに招くように緩やかに上下するさまを見た熊太郎は「当然それはよいところではないだろう」とわかりつつも「いってこましたろやないか」と決意してしまいます。
もちろん熊太郎は、自分の意志で様々な悪行をなし、最後は10名(正確には11名)の無抵抗な人々の命を奪うという凶行にいたり、共犯の弟分をも殺し、自分も殺してしまうわけですが、なにかこう巻き込まれていくというか・・・
本人は真っすぐ進んでいるつもりがどんどんズレて、それに気づいても結局はヤケクソになってしまい、いつのまにか人の道から外れていくようにも思えます。
私は人の道から外れたことはありませんが(たぶん)、気がつくと仲間の群れからはぐれていつの間にか一人ぼっちになってしまう事が多いので、熊太郎に共感しながら一気に676ページを読み切ってしまいました。
読んだ後は、爽快感や納得感は一切なく、ただただ後味が悪いだけ。
それでもくりかえし読んでしまう中毒性の高い一冊です。
著者の町田康さんは、ロックバンドのボーカルや、映画俳優としての活躍でも知られていますが、2023年4月より武蔵野大学文学部教授としてもご活躍だそうです。
新著の「口訳 古事記」も「汝(われ)、行って、玉取ってきたれや」「ほな、行ってきますわ」といった感じの480ページの本らしいですが、ストレスが溜まったらぜひ読んでみたいと思います。
ブックオフで750円