電池産業の軌跡(8) ~密閉型鉛電池は直流電源装置の主流の電池です~

    denshi-kiseki 電池産業の軌跡

    みかドン ミカどん前回は産業用鉛蓄電池の開放型について書きました。今回は鉛の密閉型蓄電池について解説をしていきます。このシリーズの本編はこれで終わりです。

    密閉型(制御弁式)鉛蓄電池とは?

    構造 極板構造 形式(※) 放電性能 期待寿命
    開放型
    (=ベント型
    =液式)
    ベント形 クラッド式 CS – □ 標準 10~14年
    ペースト式 PS – □ 標準 8~12年
    HS – □ 高率放電 5~7年
    触媒栓式ベント形 クラッド式 CS – □E 標準 10~14年
    ペースト式 PS – □E 標準 8~12年
    HS – □E 高率放電 5~7年
    密閉型
    (=シールド形
    =制御弁式 )
    ペースト式
    (負極吸収式)
    HSE – □ 高率放電 8~12年
    MSE – □ 高率放電 5~7年
    ※□には10時間率容量の数値が入ります。
    (画像:電池工業会

    密閉型鉛蓄電池は制御弁式鉛蓄電池とも呼ばれ、電解液をガラス繊維などのマットに染み込ませたり、電解液をゲル化させるなどして密閉させた構造をしています。1970 年に生産が始まりましたが、それまでは不可能と思われていた密閉型の登場によって、鉛蓄電池の用途はさらに広がりました。

    制御弁式鉛蓄電池は発生するガスを外に出さない工夫がしてあります。それは充電時に正極板から発生する酸素ガスを負極板で吸収させること。充電終期に正極から発生した酸素ガス(O2)は負極活物質の海綿状鉛(Pb)と反応して硫酸鉛(PbSO4)と水(H2O)を生成します。

    つまりここで水が再生されて補水の頻度が大きく減るため、そこがメンテナンスフリーといわれる理由です。

    この電池は密閉式と呼ばれていますが完全に密閉されているわけではありません。大量のガスが発生した場合は、圧力によって制御弁が開き、圧力を外に逃がして安全を保ちます。

    直流電源装置に使われる蓄電池は密閉型(制御弁式)が主流です

    GSユアサの制御弁式鉛蓄電池の一例(画像:GSユアサ

    密閉型鉛蓄電池は現在、直流電源装置に内蔵される蓄電池の主流です。更新時期が来て開放型から密閉型に交換されるお客様もいらっしゃいますし、設計事務所様からの指定などはMSEが多いです。

    上の図でSNSと書かれている蓄電池はMSEシリーズと外形寸法や容量等が同一で、MSEをさらに長寿命にしたものです。

    鉛蓄電池はJISの規格でサイズが決まっているため、MSEやCSEなど電池の形式を表すアルファベットは各社共通です。

    一方、GSユアサのSNSのような「長寿命型MSE」はJISで統一された名称がないため、各社で形式(製品の記号)が異なります。

    密閉式鉛蓄電池は直流電源装置だけでなく無停電電源装置(UPS)にもよくつかわれますが、GSユアサ製のREHという”超”効率放電型の小型蓄電池は無停電電源装置だけでなく、ヤンマー製の発電機にも標準搭載されています。REHは従来製品の1.8倍の高率放電性能を実現させた蓄電池ですが、その分寿命が短く期待寿命年数は5~6年です。

    100年経っても「鉛」が主流

    同じ密閉型の鉛蓄電池でも様々な種類の蓄電池があるので、どこに違いがあるのか一見わかりにくいと思いますが、大きさだけでなく、高率型(大きな電流を放電)、長寿命型、そしてそれぞれの価格の差などでお客様のご要望も変わってきます。

    余談ですが、多数のビルを所有して都市開発を手掛けるある大手不動産会社は、長年の実績と信頼性を重視して、(今回ご紹介した密閉型ではなく)いまはあまりニーズが少ない開放型の蓄電池を使用されているそうです。

    東日本大震災後に公共施設などに多数設置された防災対応型太陽光発電では、電気を溜めておく設備としてリチウムイオン電池が採用されました。またリチウムイオン電池が搭載されているEV(電気自動車)も普及してきています。

    そういった状況から、産業用の据置型蓄電池もすべてリチウムイオン電池に置き換わっている印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、金額の面で鉛電池との開きがまだ大きく、現在も産業用据置型蓄電池の分野では、鉛電池が独走状態です。

    GSユアサの前身のひとつである日本電池の島津源蔵(二代目)が、1897年(明治30年)に日本で初めて10アンペアの容量を持つペースト式鉛蓄電池を完成させてから124年経ちました。(GSは島津源蔵のイニシャルを商標にしたものです)

    けれど100年以上経っても蓄電池の原型はさほど変わりません。そして今でも産業分野では「鉛が主役」です。そう考えてみると1859年に蓄電池を発明したガストン・プランテ(1834 – 1889)はもっと賞賛されてもいいのかもしれませんね。

    これからの100年後、蓄電池はどう変わっていくのでしょうか?そんな未来につながる記事をこれからもここで発信していきたいと思います。(本編終わり)

    (ミカドONLINE編集部)


    出典/参考記事:

    鉛蓄電池 構造の種類 -ベント形とシール形(制御弁式) など