エネルギーを陰で支えている会社や人を訪ねてお話を伺う取材シリーズです。昨年、山形県庄内町では同市の農山漁村再生可能エネルギー基本計画に基づく風力発電所が稼働を開始しました。合計12基の風車は地元企業の3社が4基ずつ建設したものです。今回はそのうちの一社で総合建設業の安藤組グループ様を当社の沢田社長と編集部がご訪問いたしました。
安藤組グループ(本社:山形県庄内町)は建設や生コンクリート生産、運輸、産業廃棄物などを手掛ける建設業のグループです。2014年(平成26年)に最初の風力発電所を秋田県三種町に作り、2019年に庄内町沢新田地区に二基目を建造。
そして昨年(2021年)は庄内町の農山漁村再生可能エネルギー基本計画に基づいて公募された12基の風力発電所のうち大堰台(おおせきだい)地区に4基を建設して(動画)、他の二社と共に発電による収益の一部を庄内町に寄付する協定も結びました。
東京資本の大手ではない地域の建設会社が風力発電を手掛ける意義や思いについて、安藤組グループの安藤政則代表と実務を担当される斎藤徹(株)安藤組執行役員開発部部長にお話を伺いました。
最上川の砂利で育ったようなものです
沢田 会社案内を拝見すると最初は農機具販売からのスタートだったんですね。
安藤社長 そうです。創業は1946年(昭和21年)です。私の父が、国が戦後に食糧増産を掲げていた時期に、農業もそれまでの人力から動力化・機械化が進んでいくだろうということで農機具販売を始めて、農業機械を作ったり修理をしたりしていたのですが、農協さんの力が強くなってきて段々頭打ちになってきたんです。
その頃は国家再建の真っただ中ですし、この最上川にも砂利船(じゃりぶね)で砂利を採っている人たちがいて、父は面白そうだなと思って見ていたそうですよ。
そこも少しずつ機械化が進んできて、そのタイミングで父も新たに砂利採取事業に参入したのですが、その機械というのがしょっちゅう故障するらしいんです。
父親は元々機械は得意ですから修理も上手だったみたいで「安藤さんがやったほうが効率がいいからうちの機械を買ってくれ」と言われて機械を譲ってもらい、そこからこの辺で砂利採取と販売をするようになりました。そうして今に至っています。
だから私は最上川の砂利で育ったようなものです(笑)
環境にいいことをやりたい
沢田 グループ全体で様々な事業を展開されていますが、風力発電に取り組もうと思ったのはなぜですか?
安藤社長 環境にいい仕事をしたいと思い始めたのが一番の理由です。天然資源から有用なものを作り経済や社会の発展に役立てる事業を動脈産業と言いますが、砂利採掘も後に始めた砕石業も国家建設に貢献する動脈産業だと思って、使命感に燃えてずっと頑張って来たんですよ。
ところがあるときから、砂利を採ったり砕石で山を崩したり、今まで世間に役立つと思ってやってきましたけれど、その一方で実は環境に負荷をかけているということに気付いて気になり始めました。
そこで環境負荷を軽減する目的で1995年(平成7年)から産業廃棄物処理も手掛けるようになり、そんな思いがあったところで再生可能エネルギーの存在を知ったんです。
直接のきっかけは今から20年位前に、大手ゼネコンさんがこの辺にいらして、風力発電を計画されたことです。あいにくその会社は途中で他社に吸収合併されて計画は立ち消えになってしまいましたが、自然を生かして世の中にも貢献できるんだということが印象に残りました。
風車の建設は地域の皆さんと会話を重ねて
沢田 一番最初の風車は新規事業としてどうやって進めて行ったのですか?
安藤社長 実はそれからしばらくして、再エネ導入の大手コンサルさんとご縁ができまして、先ほどの話をしたらまさに今伸びている事業だとおっしゃるんです。私も経営者ですから、社会に役立ちたいという自分の願いが叶うだけでなく、これはビジネスチャンスでもあります。それで「じゃ、やりましょう!」と。
斎藤部長 手順としてはまず土地の選定。土地は購入する場合もありますし借りる場合もありますが、一番はやはり事業が成り立つかどうかというところです。風況がよく事業が成り立つような場所であれば、今度はそれを進めるうえでクリアすべき部分などを国の方針に従って対策を立てて計画立案し、電力さんへの売電の申請や法律関係の許認可など手続き的なところを地道に進めて行きます。完了したら今度は地域の皆さんへの説明です。
安藤社長 そうですね、利害のある集落のところにご案内を出してそれで事前に説明会をやります。町内会長さんのところにご挨拶に行ったりするわけですが、人生の先輩たちですから「こいつはどんなやつだ?」と、人相なども見られているんじゃないですか?(笑)
斎藤部長 説明会では風車の音や影などを気にされる方からのご質問や反対意見なども一定数あります。そういった皆さんと何度も話し合いを重ねながら進めていくのですが、基本的には「それはいいことだ」と捉えてくださって協力的な方たちがほとんどです。
沢田 それは東京資本ではなく地元企業の安藤組さんだからじゃないですか?
安藤社長 どうなんでしょう。そういえば安藤組という名刺を配ると「あんたのところの親父さんは」と先代に話が及ぶこともありました。地元で商売をしている企業は逃げ場がないですから、正しいことを正しくやっていかないと生き残れないですね。
社員が胸を張って事業を語れる会社を
沢田 安藤組グループさんの風車はブレード直径が100m近くあって大きいですね。今後もどんどん建てられるのですか?
安藤社長 高さも120~130mあってどれもドイツのエネルコン社製です。出力は1基が約2メガです。昨年庄内町の事業として三社で同時竣工した風力発電は全部で12基ですから、合計年間発電量は約6万メガワット時で約1万7000世帯分に相当します。
地域の風で起こした私たちの電気が電力さんを通じて地域に供給されるのはうれしいですしワクワクしますね。調印式や合同竣工式には多くの報道陣の方が見えて記事にも取り上げていただきました。
🌎調印式の様子が山形新聞に掲載されました!(安藤組グループ)
🌎大規模風力発電機12基 山形・庄内で完成(日経電子版)
🌎大堰台・鶴ヶ峰・座頭塚風力発電所の竣工式が行われました!(安藤組グループのブログ)
斎藤部長 風車はとてもお金がかかる事業なので、私共ぐらいの規模の会社が風車一本建てるとなると本当は相当悩まなくてはいけないんです。幸い地元の金融機関と組んでこの事業を推進させていただいていますので、今後もそれがベースになっていくのではないかと思います。
🌎山形銀、安藤組が計画の風力発電を支援 協調リースで(2013 日経電子版)
ですが、それよりも何よりも地元の会社がこういうことをしているということに意義があると思うんです。
安藤代表 風車のような再生可能エネルギーは買取価格も随分下がってきています。国の方針にも大きく左右されますし、建てられる場所もますます限られてくるでしょう。ですが自分の揺るぎない価値観に合致していて条件も悪くない事業があればそれは当然、風車に限らずどんどんやっていきたいです。もし条件のハードルが高くても、ならばどうすればいいだろう?と考えてそれでもダメならまた考えて、ちょっと違う場所とか分野とか、しつこいですよ、だから(笑)
環境の負荷を減らしながら、尚かつ安藤組グループの社員の皆さんが「うちの会社はこういうことをやっているよ」と胸を張って人にも家族にも話せるようなことをやっていきたいです。それがたぶん組織としての存在意義だと思うんですよね。
会社にとってはいいけれど、世間にとって悪いというのでは長続きはしません。社会のニーズと社会貢献と。この両方を整えていきたいという判断を、たぶん私たちは昭和21年の創業時から変わらず継続しているのだと思います。
沢田 おっしゃる通りですね。私も安藤社長のようにもうちょっと”しつこく”を目指さないといけませんね(笑)。今日は参考になりました。本日は貴重なお話を大変ありがとうございます。
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【編集部より】当社(ミカド電装商事)代表取締役の沢田の母方の祖父は鶴岡の方で、しかも苗字が安藤(!)と言うそうです。取材中はそのお話で盛り上がり、最後には沢田が幼少時に鶴岡で食べたトマトがいかに美味しかったか?というお話にまでなりました。
地場の農業分野は今回取材させていただいた安藤組グループ様でも”いずれ取り組むべき事業”という位置づけだそうです。忘れられない美味しいトマトをいつか私も食べてみたいです!
取材先:安藤組グループ様(本社:山形県庄内町)
*安藤政則(あんどうまさのり)様/安藤組グループ代表・(株)安藤組代表取締役
*斎藤徹(さいとうとおる)様/(株)安藤組執行役員開発部部長
取材日:2022年2月18日
取材者:ミカド電装商事株式会社 代表取締役 沢田秀二 ミカドONLINE編集部