特集記事「デンキのお仕事」です。暮らしの中で電気の重要な部分を担当しながら、普段あまり表に出て来ない分野に焦点を当てて最新事情をお伝えします。前回(こちら)に引き続き、福島県福島市に本社を置く北芝電機株式会社の後編をお送りいたします。営業本部営業推進部の五十嵐吉雄部長にお話を伺い、営業本部営業推進部企画グループの神野真由美グループ長にもご同席いただきました。※文中の敬称は省略させていただきます。
北芝電機では、環境に配慮した地球にやさしい変圧器を目標に掲げ、絶縁油に菜種(ナタネ)油をつかった変圧器を、東北電力と共同で2009年に開発しました。しかし、菜種油のコストなどが課題となって、電力会社の積極的な導入にはつながりませんでした。
同社はその後、地道に改良と開発を続け、ついに昨年(2016年)7月に初号機が山形県桜田変電所(山形市)で運転を開始し、8月には新設された岩手県住田変電所(住田町)にも導入されました。東北電力では、菜種油を含む植物油を使用した配電用新型変圧器を標準採用し、更新時期にあわせて順次導入することにより、年間で25台程度が新型変圧器に更新される見込みになりました。改良された新型の環境調和型変圧器は、どこがどのように大きく変わったのでしょうか?
新型変圧器は今までの製品とどこが違うのですか?
編集部:改良された新型の環境調和型変圧器「ULTrans(ウルトランス)」の最大の特徴は?
五十嵐:長寿命化を実現したことです。従来は30年だった変圧器の寿命を倍の60年にまで伸ばすことができました。
編集部:倍の60年!それはすごいですね!改良のきっかけは何だったのでしょう?
五十嵐:その頃私は、変電所全体の設計をする別な部門にいたため、直接は関わっていなのですが、2011年、2012年頃から、我々の変圧器が環境にやさしいだけではなくて、もっと良いところがあるのではないかというところから始まって、たまたま東北電力の技術者の方が別件で北芝にきたときに、「菜種油、これもうちょっといいところないの?」と言われたのがきっかけだと聞いています。
編集部:長寿命化の鍵は、やはり菜種油だったんですね。
五十嵐:はい。当時の変圧器の設計者が菜種油に関して、「倍の寿命(60年)が期待できる海外の文献があります。だったらこの変圧器も寿命が倍に伸びますと言えないでしょうか?」という話になりました。実は寿命が延びるというのは分かっていましたが、しかしそれを世の中に出す場合、文献でそう言っているから長寿命です、とは言えないので、東北電力で不要になった変圧器に我々が実際に菜種油をいれて、破壊するまで試験をしました。
編集部:その結果として検証ができたんですね。
五十嵐:はい、検証できました。実際に60年かけて試験することはできないので、専門的に言うと加速劣化試験というのを行います。変圧器に定格電流の倍以上の電流を流し、通常温度が55℃のものを120℃まで上昇させます。机上計算ですが、55℃が120℃になれば何年間運転することに相当するのか?といった等価計算ができるんです。例えば120℃で一か月運転できれば何年分の寿命に値しますよ、という考え方です。実際にはもっと大幅に長持ちする数字も得られているのですが、堅実にわかりやすく「倍の60年」ということにしました。
菜種油が変圧器の寿命を延ばすわけは?
編集部:鉱油よりも菜種油のほうが長持ちする理由を教えてください。
五十嵐:菜種油には高い水分吸収性があり、それが変圧器の劣化を防ぐんです。
編集部:???
五十嵐:変圧器の寿命を決めるのは絶縁紙なんです。変圧器の中は絶縁のために油が満たされていますが、コイルはその中で紙で巻かれて絶縁されています。この紙の絶縁が熱によって劣化するんです。変圧器がなぜ劣化するかといいますと、熱だけでなく、紙が長年かけて絶縁油の中に存在する水分を吸ってしまうからです。菜種油は、菜種油自体が水分を吸ってくれますので、水分が紙へ行きません。熱による劣化はありますが、「熱+水分」の組み合わせで起こる劣化はなくなるので、劣化が遅くなります。
編集部:そうなんですか!油の中に水分が含まれるという話も意外でしたが・・・
五十嵐:最初の状態でどの程度の水分が存在するかというと、だいたい50ppm~500ppmです。500ppmが限界であるとして、我々は5ppmで管理しています。5ppmですと、ちょっと空気が入っただけで8ppmや10ppmになってしまいます。
編集部:厳重で緻密な管理が必要なんですね。
五十嵐:そうですね。ULTransで使用する油はかんでんエンジ(大阪)と提携して供給してもらっていますが、かんでんエンジでドラム缶に詰めて出荷する際にも乾燥した場所で入れ替えますし、我々も脱気装置を使いながら作業するので手間ひまがかかります。かんでんエンジは関西電力100%子会社で、菜種油を唯一日本で生成しはじめた会社です。といってもそれまでは生産数が少なかったのですが、ULTransで需要が高まるということで生産ラインも増やし、専用のタンクローリーも2台新規導入してくれました。タンクローリーで水分が管理された状態で持って来れれば、現地でそのまま変圧器に注入すればいいだけです。脱気した状態で持って来れれば脱気装置も使わずに済みますしね。脱気装置って一回使用するのに30万円~50万円もかかるんですよ。
編集部:生産体制も整い、今後に期待が持てますね。最後に読者の方にお伝えしたいことはありますか?
五十嵐:このULTransは寿命が60年。倍の寿命があれば設備投資も減価償却が半分で済むので、導入には非常にメリットがあります。また、電力損失を抑えて15%の省エネに貢献し、コンパクトにして価格も低減させました。変圧器というのは技術革新がなく、仕組みや原理が変わることなく続いてきた製品です。これ以上変圧器は変わりようがないところで、顧客のニーズや価値は何だろう?と考えましたら、2009年に開発した菜種油の変圧器にものすごい価値があったことに気が付きました。これからも環境への配慮に加え、お客様に必要とされる製品開発を続けていきたいと思っています。
編集部:とても共感できました。本日は大変ありがとうございます。
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お話/営業本部営業推進部:五十嵐吉雄部長 取材日/2017年2月3日
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