農業分野での省エネをキーワードに、宮城県石巻市の水耕栽培ハウスでベビーリーフを生産している、株式会社 良葉東部(イーハトーブ)を取材させていただきました。今回は「植物工場と省エネ」というテーマの最終回として、皆さんに再びお話を伺いました。
前回は、コンダクションチューブやヒートポンプについての記事でした。今回は省エネや栽培の工夫などについて伺いました。お話は、同社の佐藤和孝取締役部長と遠藤栄美取締役生品管理部長です。(記事中敬称略)
第1回:①根域だけを温度管理する次世代の水耕栽培システム
第2回:②ヒートパイプとヒートポンプ
オール電化水耕栽培での省エネ対策は?
佐藤:最初は自動運転にしていました。根域の水温も言われた通り20℃に設定していたのですが、初年度の電気料が予想外に大きく、色々と試行錯誤を繰り返しました。よく考えたら自然界の植物が育つ土の温度は、秋冬でも20℃はないので、温度を落とす試験をしてみたところ、14~15℃でも大丈夫ですし、逆にしっかりしたものができることがわかりました。
また夏場の冷却に関しても、秋が近づくと夜の温度が下がるため、外気で自然に水の温度も冷やされますし、春はその逆。そういったことがわかってきたので、春や秋は、手動運転に切り替え、あえてヒートポンプを止めて、ほぼ、電気をつかわない月もあります。
人手による温度管理や換気も重要
佐藤:ハウスの中の温度管理も、本当は自動でできるんです。25℃で設定すると、設定温度以上になったときは自動でハウスのカーテンが巻き上がって外気が入ります。ですが、自動の場合は全部開くか、完全に閉まるかのどちらかで、任意の場所で止められないんです。すると、その日の気象条件に合わせた調整ができないため、人手による開閉を行うことも多いです。
例えば、西風が強い時に全開にしてしまうと、植物によくないので、東は一杯開けて、西は少しにするとか。そういう作業はやはり、「人」でしかできませんし、自動運転をやめて細かく管理することが省エネにもつながります。
それと、植物にとっては換気も大事です。家も空気が淀むとカビますよね。植物も同じで、風通しを良くしてあげないと、病原菌がつきやすくなります。外気の取り入れはカーテンを開けることで可能ですが、風が全くない日もありますから、そういったときには扇風機をまわして空気を循環させています。
編集部:自動運転が可能でも、実際は、思った以上にマメな管理が必要なんですね。
佐藤:水耕栽培は歴史が浅く、文献なども少ないため、まだまだ手探りの部分が大きいです。今年のように、宮城県では32日間連続で雨が降り続くなど、天候が悪い時には、いかに植物に病気を付けないか、そこに尽力します。
水道水も季節で成分が違う!
佐藤:土耕栽培と水耕栽培の大きな違いのひとつは、土のように緩衝材の役目を果たすものがなく、植物が肥料を溶かした溶液の影響をまともに受けやすいことです。実は、夏場の溶液のpHがなぜか高くなるので、変だと感じてふと思いつき、水道企業団に問い合わせてみたところ、夏場と冬場では水道水の成分を変えていることがわかりました。暑い季節は、塩素を少し強めるなど、雑菌が繁殖しないようにしているそうです。
遠藤:溶液のpHが適正じゃないとすぐに障害が出るんです。根っこが焼けるんですよね。茶色くなって根の張りも悪く長さも短くなりますし、葉っぱの色が変わり葉脈が汚くなって見栄えも悪くなります。それで「変だ、変だ、機械の故障では?」などと言っていたんですが、佐藤さんが電話して、初めて原因がわかりました。
佐藤:pHは6.3から5が適正なんですが、そもそも肥料を溶かす水道水の成分が季節で異なるので、それに応じて変えていかないとダメなんですよね。
競争力のある野菜作りで夢は世界へ
編集部:今回の記事のタイトルは「植物工場と省エネ」ですが、実際には思った以上に人手を掛けていると感じました。
遠藤:佐藤部長にはいつも「葉っぱの顔色を見ろ」と言われるんです。私は品質を管理する立場ですが、商品を生き生きとした状態で消費者の皆さんに手渡すためには、やはり、植物の健康を保ってあげるのが一番です。うちのベビーリーフはほかと全然違いますよ。収穫もスタッフが葉っぱを確認しながら手で刈っているので、しなった葉っぱが交ざることがなく、切り口もきれいで、見た目が本当にいいです。収穫も安定してきて、あとはお客さんを増やすだけ!(笑) 水耕栽培の野菜はクリーンな環境で育つので虫も付かず衛生的で見た目も美しいです。
編集部:皆さんのこれからの夢は?
遠藤:夢はまず日本全国に販路を広げることです。ですが、社長が常に「夢は大きく」と言っていますので、「世界を目指す」と書いてください(一同爆笑)
(編集部)良葉東部の次世代水耕栽培システムは、東日本大震災で大きな被害を受けた大川中学校の跡地に造られています。自動運転のしくみがあっても、自動運転だけに頼らず、手を掛けて競争力のあるベビーリーフを石巻で生産する。そんな皆さんの熱意と復興への思いが伝わってきた取材でした。いただいベビーリーフはとても美味しかったです。
取材先/資料提供:株式会社 良葉東部(イーハトーブ)
お話:工藤豊和様 佐藤和隆様 遠藤栄美様
取材日:2017年8月30日・9月12日 取材:ミカドONLINE編集部