<2015年4月号の過去記事 「未来に向かう発電技術~③水素エネルギーとは~」>のその後
今回の特集シリーズは「検証!あの記事は今?」と題して、ミカドONLINEで過去に掲載した内容が現在どうなっているのか?をテーマに3回シリーズでお届けしています。
日産の燃料電池車が話題になったそのわけは?
今年(2016)の6月14日、日産が燃料電池車「e-Bio Fuel-Cell」を発表しました。燃料電池車とは、化学反応で起こした電気を使って走る車です。ガソリン車のように燃料を燃やしてエンジンを動かすのではなく、主に水素などの化学反応で発電した電気の力で、直接モーターを回して車を走らせます。そのためCO2を排出せず、エンジンがないので音も静かです。
ミカドONLINEで水素エネルギーを取り上げたのは、昨年の4月でした。その前年にトヨタから世界初の新型燃料電池車「MIRAI(ミライ)」が発表され、新聞等で「水素エネルギー」「水素社会」などの見出しを目にすることも多かったと思います。
その後、トヨタに次いでホンダが今年の3月に新型燃料電池車「クラリティ」を発表。そして6月には日産も「e-Bio」を発表しました。ですが日産の「e-Bio」には驚きを隠せない反応がありました。なぜなら「e-Bio」は先行二社のように外から供給する水素を利用するのではなく、車内でバイオエタノールを改質して水素を取り出す仕組みだったからです。
これは水素ステーションが不要であることを意味します。そのため、直前に決定した、水素ステーション普及拡大の国の施策とは方向性が異り、水素ステーションを否定する動きではないか?と、捉える向きもありました。(「e-Bio」は仕組み上、CO2も排出します)
その後水素ステーションはどうなった?
昨年の記事を書いた時点では、水素を使った燃料電池車は遠い未来に向けた、息の長い世界的な挑戦ではないかと感じていたのですが、今現在は、電気自動車と水素自動車(燃料電池車)を同じ土俵で当分に比較して、電気自動車に軍配を上げる論調が多いようです。
その理由として真っ先に挙げられるのが、やはり、水素ステーションの問題です。2014年1月に閣議決定された国内100か所の設置目標は残念ながらまだ達成されていません。現時点で稼働しているステーションは約80か所にとどまっており(計画中は10数か所)、場所もほとんどが大都市周辺と愛知県に集中しています。
ステーションの建設には最低でも4億円かかるため、従来のガソリンスタンドの約4~5倍とも言われる高額な建設費用がハードルとなっていますが、このままでは燃料電池車の普及は見込めないため、国は新たに「25年度までに320か所」という目標を定め、大手各社共同で新会社を設立する検討も始まりました。ですが、今のガソリンスタンドが全国で3万か所ですので、それでも圧倒的に少ないですよね。
一方、電気自動車は急速充電設備の普及が進んでおり、その数は全国で6000か所。また、車のオーナーの多くは自宅にも専用充電器を設置しているため、以前と比べて利便性は格段に向上しています。最近では私も高速道のサービスエリアや大規模店の駐車場などで自動車用の充電設備を見かけることが多くなりました。
本当に水素自動車に未来はないの?
電気自動車ベンチャー、米テスラ・モーターズ社のイーロン・マスクCEOはかつて水素燃料電池車を「馬鹿げている」と評しました。ほかにも、普及は困難と明言する評論家がいたり、水素ステーションの営業時間が短く休業も多いため「インフラ側にやる気が見られない」とユーザーに書かれたり、現状ではまだまだ評価が定まらない水素自動車ですが、水素をエネルギー活用の視点から見た場合、日本の技術は世界で一番高いとのこと。
あまり知られていませんが、日本ではかなりの規模で捨てられている水素があります。それは鉄鋼や化学品の製造過程で高炉やプラントから発生する排出ガスに大量に含まれるものです。水素を使った燃料電池自動車を官民挙げて推進する背景には、高い技術で参入障壁をつくりたい思惑と共に、エネルギー資源を持たない日本が水素の再利用に活路を見出しているとも言えます。
たとえ燃料電池車の未来が明るくても暗くても、水素活用の技術開発は日本が先行しているのは事実です。どんな時代でも革新は「馬鹿げている」「現実的でない」と言われた技術や発想から始まることがよくあります。自動車でうまくいってもいかなくても、ひょんなことから意外な部分が注目を浴びて、ある日、大化けするようなことになったら、面白いですよね。でも、それって自動車にあまり関係のない第三者だから、他人事のように気楽に言えるのかもしれませんね。(関係者の皆さん、すみません・・・)
ちなみに、私達ミカド電装商事のある宮城では、3月に燃料電池車3台(トヨタ2台、ホンダ1台)が県に納入され、それらの公用車向け水素ステーション(SHS)も宮城野区に開所しました。またその近くの県有地には、来年の2月完成を目途に東北初の商用水素ステーションが着工する予定です。
スマート水素ステーション開所式並びに燃料電池自動車納車式 合同式典(宮城県HP)
(画像出典:SankeiBiz、hydrogen.st、宮城県)