省エネ最新事情⑩ヒートパイプとヒートポンプ~Ⅱ.株式会社良葉東部

    農業分野での省エネをキーワードに、宮城県石巻市の水耕栽培ハウスでベビーリーフを生産している、株式会社 良葉東部(イーハトーブ)を取材させていただきました。今回は「植物工場と省エネ」というテーマの2回目です。

    前回は、根域の温度管理についての記事でした。

    前回:①根域だけを温度管理する次世代の水耕栽培システム

     

    コンダクションチューブで根域だけを温度管理

    根域だけの管理で40%減

    今回は、良葉東部(イーハトーブ)で導入されている、次世代水耕栽培の省エネのしくみについてお伝えします。まず、全体としての省エネですが、ハウス全体を温めるのではなく、植物の根が下りている水だけの温度を管理することで、従来の送風式暖房と比べて、ランニングコストが40%の軽減になるそうです。

    栽培床の構成図と実際のコンダクションチューブ

    設備のエネルギーはすべて電力でまかなわれていますが、エネルギーを無駄にしないよう、従来型の施設栽培とは異なる様々な工夫がされています。その根幹をなすのが、前回もご紹介したコンダクションチューブという熱交換パイプです。

    コンダクションチューブは母管(チャンバー)と内管(コアパイプ)から成る二重構造の管で、ヒートパイプ(人工衛星内部の放熱に使用)の技術を改良したものです。これを栽培床の下部に埋め込むことで、培養液の温度を自動調整しています。

    母管には作動液が入っていますが、内部が真空のため、低温で気化します。気化した気体は母管の内壁に熱を運ぶと同時に、内壁で冷やされて再び液化するときに発熱して効果を高めます。これらは「液体は減圧すると沸点が下がる」「気体が液体に変わるときには発熱する(潜熱)」という2つの原理で高い効率の熱交換が行われていますが、その温度調整を行うのが、コアパイプの中を流れている水です。

    コンダクションチューブのしくみ(出典:MINOURA)

    担当の佐藤部長によると、コアパイプの中に流す水は、冬場は60度ぐらいとのことですが、取材に伺った9月はまだ暑いため、冷却運転中でした。案内していただいた中央制御盤で表示されているコアパイプの水の温度は、8.7度。夏場は冷水、冬場は温水を流すことで、通年の栽培が可能になっています。

    中央制御盤を指さす佐藤和隆部長

    水の温度管理はヒートポンプ式チラーを使用

    良葉東部の次世代水耕栽培では、コンダクションチューブのコアパイプに流す水の温度管理を、屋外に設置したヒートポンプ(チラー)で行っています。ヒートポンプという言葉は最近よく聞きますが、少しわかりにくいですよね。

    ヒートポンプのしくみ(出典:一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター)

    ヒートポンプというのは、少ない投入エネルギーで、空気中などから熱をかき集めて、大きな熱エネルギーとして利用する技術のことです。冷蔵庫やエアコンのしくみと言えばイメージしやすいかもしれませんが、実際にはビルの空調/給湯から身のまわりの家電製品に至るまで、広い範囲でつかわれています。

    しくみとしては、常温で気化する液体(冷媒)をつかい、加圧→液化→発熱減圧→気化→吸熱 を繰り返しながら装置のパイプの中を循環させて、少ないエネルギーで吸熱(冷却)と放熱(暖房)の両方を行います。ポイントは電気エネルギーを電気ストーブのような熱源に変換するのではなく、冷媒の加圧(凝縮)に使用すること。そして、循環サイクルの冷却部分に外気の温度を活用していることです。ヒートポンプは、冷媒の凝縮熱(放熱)や気化熱(吸熱)を利用して高効率の温度調整を行う方式ですが、冷媒は常温で気化しますので、天然の外気の温度でも状態の変化が促進されるというわけです(冷却に水をつかうヒートポンプもあります)。

    屋外に設置されている良葉東部のチラー

    従来の施設栽培は、重油ヒーターでの温度調整が主流でした。しかし、エネルギー効率の面だけでなく、CO2の排出や、重油価格の変動で収益が大きく左右されることなどから、現在ではハウス栽培の室温管理は、ヒートポンプをつかったエアコン型空調設備との併用が推奨され、補助金等の制度もあるようです。良葉東部の次世代水耕栽培では、空冷ヒートポンプ式のチラー(温冷水発生装置)をつかって、根域だけを部分的に温度管理していますので、よりいっそう省エネ型の水耕栽培と言えるでしょう。

    さて、良葉東部の次世代水耕栽培ではシステムを自動で管理していますが、収穫が安定する現在に至るまでには、人手による工夫も多かったそうです。次回はその点についてお伝えいたします。

     

    次世代水耕栽培の運転イメージ図

    取材先/資料提供:株式会社 良葉東部(イーハトーブ)
    お話:工藤豊和様 佐藤和隆様 阿部晋也様
    取材日:2017年8月30日・9月12日 取材:ミカドONLINE編集部