ミカドONLINEでは、昨年、オフィスの省エネ最新事情というタイトルで、LED照明や新しい空調の仕組みをご紹介いたしました。 ➡ オフィスの省エネ最新事情
今回は、農業分野での省エネをキーワードに、宮城県石巻市の水耕栽培ハウスでベビーリーフを生産している、株式会社 良葉東部(イーハトーブ)を取材させていただき、「植物工場と省エネ」というテーマで3回シリーズでお届けいたします。
株式会社 良葉東部(イーハトーブ)の水耕栽培ハウスは、東日本大震災で被災し、後に廃校となった大川中学校の跡地にあります。同地は津波の影響を受け、農業も大きな被害を受けましたが、水をかぶった地域でも農作物を生産できる水耕栽培という手法を選択し、スタッフを地元から採用し、平成26年(2014年)よりベビーリーフの出荷を開始しました。
根域だけの温度管理で省エネを実現
同社の水耕栽培ハウスは550坪(約1800㎡)で、ベビーリーフを通年栽培しています。ベビーリーフとは、発芽後10-30日程度の若い葉菜の総称で、サラダ用に数種類をミックスして出荷されています。
植物工場とも呼ばれる水耕栽培ハウスですが、同社のハウスでは次世代の水耕栽培システムを採用しています。これは「省エネ」「周年栽培」を目的としており、ハウス全体を空調でコントロールするのではなく、根域だけを温度コントロールすることにより、栽培にかかる消費エネルギーを極めて少なくした設備です。具体的には、植物が根を下ろしている培養水の温度をコンピューター制御で一定に保つ方式ですが、ボイラーをつかって室内全体を温める従来のハウスに比較すると、ランニングコストが40%も削減されるそうです。
省エネを支えるコンダクションチューブ
40%減という低ランニングコストを支えているのが、コンダクションチューブという高効率の熱伝導管(熱変換器具)です。コンダクションチューブは、一般的にヒートパイプと呼ばれる熱交換器を改良したもので、母管の中に細いパイプを通した二重構造になっています。
母管の中には少量の作動液が真空状態で封入されており、管内の細いパイプに水を通してやると、真空の作動液が水の温度で瞬時に気化し、母管の周壁に熱を伝えるしくみです。母管の周壁で放熱した気体は冷やされてまた元の液体に戻り、この動作の循環が、動力源を使わずに水を通すだけで実現します。
そのため、単に省エネルギーというだけでなく、温度管理が容易で、風も起らず、空気も汚れず、農業生産に向くクリーンなしくみであると言えます。
コンダクションチューブは当初、床暖房や寒冷地の融雪用に開発されましたが、その後、鳥小屋やハウス内の効率的な冷暖房に活用したいという予想外のニーズがあることがわかり、現在では農業分野でも多く活用されています。
水も省エネ再利用
(株)良葉東部では、このコンダクションチューブを培養水の下部に設置することで、培養水の温度管理をしています。8ミリという細いパイプを流れる温度管理用の水は、1mあたり約50㏄、30mのレーンでも1.5ℓという少量の水を制御するだけで、温度管理が可能です。また肥料を溶かし込んでいる各レーンの培養水は水流を起こし、菌の繁殖やアオコの発生を抑制すると共に、それを循環して利用することにより、新たな加水がほとんどないシステムになっています。
(株)良葉東部の親会社は、東松島や大船渡でタイヤやゴム加工品などのリサイクル事業を行っている株式会社東部環境ですが、同社も震災で大きな被害を受けました。ですが、社長の工藤豊和代表取締役以下、全員が一丸となって会社を復興させて今に至っています。リサイクルという資源の再利用事業を通して養われたエネルギーへの意識と、復興への熱い思いが大川中学校跡地での水耕栽培に結実しているように感じられました。
次回は、水温管理の心臓部でもあるチラーなどについて、基本的な解説を中心にお伝えいたします。
次回:②ヒートパイプとヒートポンプ
取材先:株式会社 良葉東部(イーハトーブ) 工藤豊和様 佐藤和隆様 阿部晋也様
取材日:2017年8月30日・9月12日 取材:ミカドONLINE編集部