今回のテーマはサーキュラーエコノミーです。サーキュラーはサークル(円)から派生した言葉で「円形の」という意味です。サーキュラーエコノミは直訳すると循環型経済ということになり、ここで循環するのは資源です。けれど今までの資源の再利用とは意味合いが違うようです。(※このシリーズのすべての記事はこちらです)
自分ですべての部品を交換できるスマートフォン
上記はオランダの「フェアフォン」というスマートフォンの動画です。紛争鉱物と呼ばれ、武装勢力の資金源になっている国の金やレアメタルを使っていないばかりでなく、古くなったり故障した部品を自分で交換できるDIY型のスマートフォンです。
このスマートフォン(日本では未発売)の価格は日本円で8万円もするそうです。しかもスペックは凡庸で、Androidの更新ができないなど課題が多い機種でありながら、欧州では2013年の発売以来13万台以上を売り上げ、現在も予約待ちになるほどの人気とのこと。
フェアフォンでは製品の「透明性」を重視しており、人権侵害や環境破壊に加担しないよう、取引先はすべてウェブで公開されていますが、部品が100%リサイクル・リユースできるようにデザインされていることも特筆事項です。新しいものに買い換えるのと比べ、二酸化炭素の排出量を3割減らせ、従来の製品をリサイクルするよりも環境に負担をかけないそうです。
そのためユーザーは使い勝手や最新の流行よりも、そのコンセプトに賛同して購入しているものと考えられます。といっても、レアな商品として一定の話題性があるため、完全に「流行を追っていない」わけではないと思いますが、壊れて返送された部品が新しい部品の製造に活用されるという点に、今後の世界の潮流を占う大きなヒントがあります。
サーキュラーエコノミーとは?
皆さんは、サーキュラーエコノミーという言葉を聞いたことがありますか?直訳すると「循環型経済」(サークル:円、サーキュラー:円形の)ですが、これまで生産→消費→廃棄だった直線型経済(リニアエコノミー)から脱却し、資源を最大限に活用して循環させながら更なる価値を創造していこうという考えです。
サーキュラーエコノミーを最初に提唱したのは、今から14年前に28歳の若さでヨットによる世界単独一周の最短記録を打ち立てた、英国のエレン・マッカーサーとその財団です。彼女は外から食糧などの補給が一切得られない厳しい航海のさ中に「地球もまさにこの船と同じではないか」と気付きました。そして「いまの消費型経済ではすべての資源が枯渇する」と警鐘を鳴らしサーキュラーエコノミーを推進する活動家に転身しました。
現在の大量生産・大量消費型のビジネス形態を継続した場合、2030 年には世界で約 80 億トン分の天然資源が不足し、その経済損失額は 2030 年時点で 4.5 兆米ドル、2050 年時点では 25 兆ドルに達する見込みが発表されています。
そこでサーキュラーエコノミーは、欧州における重要な成長戦略として位置づけられ、EU共通の枠組み構築を目的とする新提案「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」として2015年に欧州委員会に採択されました。数値目標としては以下の通りです。
・2030年までに、加盟国各自治体の廃棄物の65%をリサイクルする
・2030年までに、包装廃棄物の75%をリサイクルする
・2030年までに、すべての種類の埋め立て廃棄量を最大10%削減する
数値目標だけを見ると目新しい感じがしませんが、サーキュラーエコノミーは経済政策であり、目標としているのは循環型社会への大転換です。いま当たり前に行われている”売る人から買う人への一方通行”を根底から覆す社会です。
業態転換をはかりつつある欧州メーカー
そのためサーキュラーエコノミーは、従来型の3R(Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル))とは発想が大きく異なり、製造段階からサーキュラーエコノミーに対応する設計が必要となります。
いままでは「捨てられるものを有効活用する」のが主旨でしたが、サーキュラーエコノミーでは最初から「モノの廃棄を防ぐ」ことを前提にした製品デザインや、モノが資源として循環し続けるしくみやサービスへの転換を目指しているということです。
そのためサプライチェーンや雇用の在り方も大きく変わってきますし、今まではモノをつくって販売していたメーカーも、欧州を中心に業態変換を模索する動きが活発化しています。具体的には製造・販売から(モノではなく)サービスを売る形態へのシフトです。
たとえばタイヤメーカーのミシュランは、運送会社向けにタイヤのリース業を始めています。これは走行距離に応じたリース料を受け取るだけでなく、エンジンとタイヤにセンサーを搭載し、得られたデータにより専門家がメンテナンスや交換時期のアドバイスをするものです。使用済みのタイヤは回収して再利用されます。
オランダのジェラード・ストリート社製のヘッドフォンは部品に耐久性のある素材を使い、簡単に分解できるように組み立てられています。そのため部品の85%が再び新製品に活用でき、その一方で使用中のヘッドフォンを最新型と交換できる有償サービスも提供しています。ここでも回収されたヘッドフォンは分解されて使える部品が再利用されます。
イギリスのあるベビー服レンタルサービスでは定額の月会費で、子供の成長に合わせて大きなサイズの服と交換できます。返却された服はクリーニングされ別の幼児に渡されます。そして最後は縫いぐるみ用の生地や詰め物として使われるそうです。
これらの事例に共通するのは、サービスと回収と再利用が一体化していることです。TSUTAYAなどのレンタルショップでは在庫処分のためにレンタル品を廉価で販売していますが、消費者に売った場合、たとえどんな名盤でも持ち主が亡くなれば最終的には処分(廃棄、焼却)という道をたどるのですから、結果的に一方向。資源として循環することがないため、この場合はサーキュラーエコノミーとは言えませんね。
これを消費者に渡してしまわず、回収して「何かの原料に再利用する」ことで、初めて循環型経済が成立すると言えます。その意味でこれからは、モノを売ることよりも、手段の提供を重視したレンタルや共有型サービスが増えてくると思われます。それにより消費者側も”所有”にこだわらない価値観が求められてくるのではないでしょうか。
ほかにも医療機器の販売をリースに切り替えて大量に廃棄されていた機器の90%が自社に戻るしくみをつくったフィリップス社や、自動車メーカーでありながらカーシェアリング事業を行っているBMWなど、ヨーロッパでは一見トレードオフと思われる新形態のサービスを展開するメーカーが増えてきており、サーキュラーエコノミーは想像以上に浸透し、欧州企業の本気度が伺えます。
サーキュラーエコノミーの先にあるもの
さてここまでリース・レンタルを中心にまとめてきましたが、それだけがサーキュラーエコノミーではありません。世界的なコンサルティング会社のアクセンチュア社は下記の5項目をサーキュラーエコノミーのビジネスモデルとしています。
1. サーキュラー型のサプライチェーン(再生可能な原料を使用)
2. 回収とリサイクル(廃棄前提だったものを再利用)
3. 製品寿命の延長(修理、アップグレード、再販売)
4. シェアリングプラットフォーム(保有しているものを貸して収入を得る)
5. サービスとしての製品(顧客は所有せずに、利用に応じて支払う)
そして今後懸念されるのは、EUが対策を強化してきた場合、日本から輸出される製品にもやがて対応が求められるのでは?ということです。たとえば、部品の再利用を前提に作られた製品でないとダメとか、長寿命対策が取られていない製品はNG、とかそんな感じでしょうか。強化の先には認証ビジネスへの移行があるとも言われており、先にルールが決まってしまうと、後発者は不利になりますよね。
また、メルカリで一番儲けているのはしくみをつくったメルカリ自体であるように、今後はIoTやビッグデータを駆使して循環ビジネスを行う循環プロバイダーといわれる事業者が力を持ってくる可能性も指摘されています。一刻も早く多くのユーザーが利用するしくみをつくりあげた事業者が発言権を強め、やがて立場が逆転していきます。
そうなると、携帯キャリアと端末メーカーの関係のように、今後は循環プロバイダーからの指示でメーカーが製品を開発するようなことも起こり得るのかもしれません。実際にその分野では覇権を争う動きがすでにスタートしているとのこと。
日本では古くからモノを再利用する文化が根付いており、その意味ではサーキュラーエコノミーとは親和性がありますが、ヨーロッパ各国に比較すると全体的に温度が低く、言葉としてもまだあまり浸透していません。
ですが国内のグローバル企業はサーキュラーエコノミーへの取り組みをすでに開始しています。サーキュラーエコノミーという新しい経済政策で世界標準をつくろうとしている欧州に負けないように、国内企業にもぜひ頑張ってほしいし、できれば世界が注目する画期的なしくみをつくってほしいものです。
ちなみに当社が代理店をつとめるGSユアサは蓄電池リサイクルの広域認定事業者となっており、それに沿い私達も場所やメーカーを問わず、産業用「鉛」蓄電池の回収を行っております。回収された鉛蓄電池はリサイクルされて、新しい鉛蓄電池の原料の一部となります。
今まで意識したことがありませんでしたが、こうやってみると、うちの会社もサーキュラーエコノミーな会社なんだな~と、今回改めて思いました。
参照記事:
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