未来に向かう新しい発電技術を3回シリーズでお届けします。第2回目の今回は「宇宙太陽光発電」です。
壮大な宇宙太陽光発電の計画
2月15日、TBS系の「夢の扉」という番組で、宇宙太陽光発電の研究に取り組む京都大学教授
篠原真毅さんの映像が紹介されました。
高度36,000kmの宇宙空間に、巨大なソーラーパネルを設置して太陽光を集め、宇宙で作られた電気を地球に送るという壮大な計画です。
「宇宙衛星から電気を送信」と聞くと未来少年コナンを思い出しますが、現実にはアニメの世界だけでなく、2013年1月の「宇宙基本計画」や2014年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」にも盛り込まれ、宇宙太陽光発電は国の施策として推進されています。
これを受けて産学官の取り組みが新たに始まり、経済産業省や三菱電機などが参加して、昨年12月から京都大学で電気を電波に変えて無線で送る地上送電実験が始まりました。
高度36,000㎞は地球が3個入る高さです。そのため昼夜の影響を受けず天候にも左右されないので24時間の発電が可能です。
しかも宇宙には大気による光の散乱や吸収がなく、ソーラーパネルに当たる太陽光のエネルギーは、地上の5~10倍にも上ります。
計画によると静止軌道上に設置されるパネルは2.5㎞四方。そこで発電した電気を、
海上などにつくった直径4㎞ほどの地上受信装置へマイクロ波で伝送します。パネルも受信装置も、とても広い面積なんですね。
この技術は米国の宇宙工学者、ピーター・グレーザー氏が1968年に提唱し、米国、欧州でも
様々なアイデアが生まれましたが、財政上の問題や政策上の方針などで国としての研究はなくなり、日本だけが開発を継続してきたものです。
電波を電気に変換するレクテナ
電波は電気の波なのでエネルギーを運びます。それを受信し電気に変換するのがレクテナという装置です。
レクテナ(rectenna)はrectifying(整流)とantenna(アンテナ)を組み合わせた造語で、
マイクロ波のエネルギーを直流電流に整流変換するデバイスです。
そのため用途は宇宙に限らず、日常生活でのワイヤレス給電でも活用が期待されています。
日本電業工作はボルボテクノロジー・ジャパンと共同で4m離れた場所へ10kW級の電力を
無線伝送する技術をすでに開発しており、このレクテナは京都大学でも使われて
2012年に電力伝送に成功しました。
つまりエネルギーを無線で送る原理はすでに実証されており、現在、日本はこの分野で世界をリードしているのです。
電子レンジの加熱にも使われるマイクロ波ですが、広大な面積で受電するので電波の力は弱くなり人体への影響はほとんどないと言われています。
しかし、宇宙から地球に電気を送るためには解決しなくてはならない課題がほかにもたくさんあり、実際の実用化はJAXAが目標に掲げている2030年代よりももっと先では?ともいわれています。
技術的な課題や安全の面だけでなく、何よりも重量のある設備の打ち上げと設置に、巨額の費用がかかることが最大のポイントです。
試算によれば原子力発電所1基分に相当する100万キロワットの発電能力を持つ衛星1基のコスト目標は衛星打ち上げ費用込みでざっと1.2兆円、発電した場合のコストは1kw当り数百円になるとのこと。
まだまだ先の技術ですが、番組では篠原教授が「自分が生きているうちには実現しないかもしれない。でも次の世代、次の世代と夢をつないでいってほしい」と穏やかに、けれど確かな口調で語っていたのが大変印象的でした。