エネルギーを陰で支えている会社や人を訪ねてお話を伺う不定期の取材記事です。今回は風力発電のブレードを輸送する海外製大型トレーラーの保安基準緩和申請などを手掛ける全国でも数少ない行政書士法人「ワンチーム」さん(山形市)を当社の沢田社長と編集部がご訪問いたしました。
風力のブレードを運ぶトレーラーはすべて海外製なんです
編集部 今日は山形市の行政書士法人 ワンチームの代表社員で行政書士の今田早百合(こんたさゆり)様と社員で行政書士の寺澤公彦(てらさわきみひこ)様にお話を伺います。どうぞよろしくお願いいたします。
沢田 まずは基本のところからですが、風力発電のブレードを載せた大型トレーラーが公道を走るまでにはどんな手続きがあるのですか?
今田 そもそものお話なのですが、風力発電のブレードを運べるような大型で馬力のある特殊車両は日本で作っていないんです。
ブレードを運ぶ時のけん引する側をトラクター、けん引される側をトレーラーと言いますが、日本で4社しかないメーカーさん(いすず、UD、三菱ふそう、日野)ではブレードを運べるものは作っていないので、トラクターであればスカニア(スウェーデン)、ボルボ(スウェーデン)など、トレーラーであればゴールドホファー(ドイツ)とかシュナイベル(ベルギー)などの海外製になります。
こういった車両が必要な運送屋さんやクレーン屋さんはヨーロッパのメーカーから並行輸入※で購入されるので、まず輸入代行屋さんから書類をもらってNALTEC(自動車技術総合機構)に並行輸入届を出すところからなんです。
1台1台でその都度たくさんの書類が必要ですが、日本の役所が要求するものを揃えるのって大変なんですよ。翻訳の部分は輸入代行業者さんにやってもらったり、EUであれば書式に統一感があるのでだいたいの勘所がわかり、ドイツ語の下にも英文が書いてあったりしますが、このあとの緩和申請や通行許可にもそれなりに時間がかかりますので、車両がお客様のところに届いて実際に走れるようになるまでには、2年ぐらいかかるときもあります。
※並行輸入)正規代理店ルートとは別のルートで真正品(正規品)を輸入すること。海外メーカーの日本支社や輸入販売契約を結んだ正規の代理店以外の第三者が個別に輸入します。トレーラーの場合はユニットを組み合わせた独自チョイスの一点ものが多いため並行輸入が一般的ですが、費用が安く抑えられる反面、日本の法律に合った許認可の取得や、メーカー側の書類がすべて現地語であることなどで、手続きが複雑になりがちです。
ナンバーを付けて道路を走るためには緩和申請が必要です
今田 それとほぼ同じ時期ぐらいに運輸局に保安基準の緩和申請をします。日本では道路運送車両法の保安基準によって車のサイズが「全長12.0メートル/全幅2.5メートル/全高3.8メートル」よりも大きくなってはいけないのですが、ヨーロッパの車はノーマルで車幅が2.55メートルなんです。それを上回る大型車両にナンバーを付けるためには緩和申請をして認定を取らないと道路は走れません。
ですがこれも、そのサイズである必然性がないと通らないんです。大型車両は道路を傷めるのでお役所のほうでもなんでもかんでも簡単に認めるわけにはいきません。なので、なぜこのサイズの車が必要かという点をすごく指摘されます。要するに荷物ありきなんですけれど、幅が2.55メートルあるヨーロッパ仕様の車にピッタリの2.55mの荷物はなかなかないんですよね。
ですので以前、近畿の運輸局でそう言われたときにはメーカーさんの担当者と3人ぐらいで行ってカタログを持参して日本車とヨーロッパ車の違いを話して説明文を付けて・・・そういった膨大な作業を地道に行っていくんです。
なので並行輸入をしたのはいいけれど、ナンバーを付ける段階(緩和申請)で担当の方が作業量の多さと複雑さにくじけてしまって、お手上げ状態になったまま長く放置されている車両の緩和申請を依頼されたこともあります。うちは頼まれたものは断らないし、最後までやるし、しつこいんです(笑)
開業してすぐに引き受けた仕事がたまたま運輸関係だった
沢田 とても分厚いファイルですね。これで申請書類1台分ですか?
今田 そうです。これで1台分です
沢田 これではくじける気持ちもわかりますね(笑)今、運輸関係を得意とされているのは何かきっかけがあったのですか?
今田 うちはもともと昭和61年に行政書士を開業したんですけど、始めから来た仕事が運送業の免許依頼だったんです。「誰もやる人がいない」ということで、夫の知り合いの司法書士さんからご依頼があって、そのときは開業したばかりで仕事もそれほどなかったので、半年かけてやることができました。
そこから運輸業界の方とご縁ができて、それからしばらくして特殊車両通行許可という申請の仕事もあるよ?と、仙台の行政書士が聞きつけて5~6人で勉強会をやっていたんです。そうしたら、車両メーカーの営業担当の方がふっと来て「ディーラーさんに聞いたら今田さんのところで運輸関係してるって聞いたんだけど、保安基準緩和やってくれませんか?」って。「1件だけ僕がやったやつあげます」って言われて。
そしたら今度はそのお客様つながりで、ある商社さんからコメットというイタリアのトレーラーを並行輸入したいというご依頼をいただきまして。
これ、荷台部分が入れ子構造になっていて写真のようにビヨーンと伸びるんですよ。
それでドンとドイツ語の書類をよこされてなんとか夏休みかけて横浜に申請を出して、そこからまたご縁ができて今に至っているという感じですね。その中で風力のブレード(のトレーラー)は・・・どのぐらいやったんだろう?
寺澤 初めてやったのが平成27年です。ブレード専用で4、5件。風力発電用のタワーや組立用のクレーンの部材運搬など、関係するトレーラーを合わせると7~8件ぐらいやっていると思います。1年に1台プラスアルファという感じですね。私も2台やってますし。
編集部 お仕事ってそうやってご縁が広がっていくんですね。
今田 緩和申請などの運輸系は、やっている行政書士がそもそも少ないんです。
沢田 それは大きな強みですね。
増えていく見込みの風力発電に道路整備が追い付かない
沢田 風力発電のブレードに関することで何かお困りのことはありますか?
今田 道路の整備です。それはもう本当に困っています。今までは運送屋さん任せだったスーパーゼネコンさんが海外製大型トレーラーを自社で持とうかという話も聞こえるぐらい、風力発電は今後伸びていく分野かもしれないのですが、道路の整備が遅れていて通行許可が取れないんです。30tとか50tのトレーラーを買ったとしても、減トンされたり、夜間通行になってしまうので、夜の21時から6時までしか走れないんです。
ですが、働き方改革で、ゼネコンの現場は夜は閉まってしまうことが多いので運べないんです。入り口で待機していればいいのでは?という話ですが、あのような大きな車両がどこで待機するのか。あるいは分解して運べばいいと言われることもありますが、それをまた組み立てるための人や時間、組み立てに必要な真っ平な土地など、それを誰が準備してくれるのだろう?と思ったりします。
寺澤 道路の整備に関してですが、私が聞いたケースでは、大手の運送屋さんだと、例えば周りの道路の邪魔になるポールを抜いたり、障害物をのぞいたり、鉄板を敷いてわざと広くしたり、道路を整えてどうにかして通したあと元に戻す…みたいに苦慮しているケースもあるようです。噂ですが、個人の所有の土地の上をどうしても通らないといけない場合、そこの土地を切って買うらしいという話もあります。
今田 秋田県は県を挙げて風力発電に取り組んでいるのでかなり配慮してくれるらしいのですが、山形県は地域で反対運動が起こって建設中止になったり、まだそこまでは行っていません。
沢田 なるほど。これから増えていく見込みの風力発電ですが、実際には道路の整備などまだまだ課題も多いのですね。大変参考になります。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
今田・寺澤 ありがとうございました。
----------
代表の今田様は仙台のご出身で、なんとご実家は当社から車で数分の距離でした!風力発電設備の運搬に関わる苦労を伺いながらも、地元の話で盛り上がるなど大変温かい雰囲気の中で取材を終えることができました。今田様、寺澤様、このたびはありがとうございます。
取材先:行政書士法人 ワンチーム様(山形市)
代表社員/行政書士 今田早百合(こんたさゆり)様、社員/行政書士 寺澤公彦(てらさわきみひこ)様
取材日:2021年12月15日
取材者:ミカド電装商事株式会社 代表取締役 沢田秀二 ミカドONLINE編集部