農山漁村再生可能エネルギー基本計画に基づいて昨年建設された山形県庄内町の風力発電所は地元の3社がそれぞれ4基ずつ風車を設置して発電事業を行っています。前回の安藤組様に引き続き、今回もそのうちの1社である(株)大商金山牧場様をご訪問し、小野木重弥社長と佐藤昌幸取締役にお話を伺いました。
大商金山牧場では”元気のみなもとをつくって”います
(株)大商金山牧場(本社:山形県庄内町)は「循環型農業」を目標に掲げ”元気のみなもとをつくってます”をキャッチフレーズに、養豚から納品・販売までを一社で手掛けている総合食肉業の会社です。地元庄内で採れる飼料米や近県のホエーを配合したエサで育つ同社の豚は、やわらかな肉質とあっさりとした甘さが特徴です。
「米の娘(こめのこ)ぶた」と名付けられたこのお肉は、その美味しさが評価されて食肉産業展銘柄ポーク好感度コンテストで10年に一度のグランドチャンピオンに輝きました。
「米の娘ぶた」はホテルや飲食店などに納入されていますが、山形県内の大手量販店やドラッグストアでもご家庭向けのパックが売られており、山形県の皆さんにとっては、日常的に目にする大変知名度の高いブランド肉となっています。
その生産者である大商金山牧場様が取り組んでいる風力発電やバイオガス発電について、当社の沢田秀二がお聞きしました。
風力発電事業に新規参入「チャンスだと思いました」
沢田 今日はよろしくお願いします。まず最初に風力発電に取り組もうと思ったきっかけを教えていただけませんか?
小野木社長 今思えば笑い話なのですが、当社の佐藤取締役にお願いして、ある情報を役場に聞きにいってもらったのがきっかけです。
庄内町は余目町と立川町が合併してできた町ですが、旧立川町は日本でも有数の強風地帯なんです。その厄介者の風を逆手にとって、SDGsも脱炭素も全くなかった1990年代に、町が自治体初の風力発電にチャレンジしました。当時としては斬新だったその試みはNHKのプロジェクトXにも取り上げられました。
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ですので町内には当時の古い風車が残っていて、当社の近辺にもあったのですが、それがある日突然消えていたんです。老朽化して撤去されたのだと思いますが、であればその跡地にうちが風車を建てられるんじゃないかと思い、佐藤取締役に役場に詳細を確認しに行ってもらったんです。
佐藤取締役 そうしたらそれとは別に、町のほうで大規模な風力発電を計画していることがわかったんですよ。ちょうど参入事業者を公募している時期で、東京資本の大手さんが続々と名乗りを上げているようでした。社長にそれをすぐ伝えました。
小野木社長 その話を聞いてこういう事業は地元の企業が参加するべきではないかと思いました。いや、風車なんてやったことはないですよ。多額の資金がかかりますし、不透明な要素も多くて、聞けば聞くほど勇気が要る話でした。ですが、これはチャンスだ!と思ったんですよね。
佐藤取締役 町の事業なので、できれば地元の資本に参加してほしいという意向はあったと思います。
小野木社長 そうですね。地元の企業として安藤組さんも加藤総業さんも存じ上げていましたし「一緒にやってみませんか?」というお誘いの声もいただき、こんなチャンスは二度とないと考えて決断しました。我々は肉屋ですけど、肉屋が風車で地域のエネルギーに貢献できるなんて光栄じゃないですか。
その話を知ったのが5月で、締め切りまで半月もありませんでしたが、大急ぎで手を挙げて提案資料をつくって(笑)。計画段階から7年かかりましたけどようやく本格稼働して感慨深いです。ここにいる佐藤さんは、元は地銀の鶴岡支店長さんだった方で、私の無茶ぶりをいつも形にしてくれるんです。とにかくレスポンスが早く、地元にも顔が利くので本当に助かりました。
🌎 山形県企業3社、合計22MWの風力発電を稼働、農山漁村再エネ法で
ドイツの再エネ活用を知りバイオガスプラントを導入
沢田 農場のほうではバイオガス発電も手掛けていらっしゃいますが、こちらも何か経緯があったのですか?
小野木社長 はい。現在のウクライナ危機もそうですが、今から6~7年前もロシアが経済制裁を受けて様々な流通が滞りました。
当社の養豚事業にも影響が出たため、どうやって経営を維持できるか真剣に考えていたところ、「ドイツでは養豚業者が豚糞でバイオガス発電を行い、売電収益が養豚の収益を上回るケースもあるらしい」と聞いたんです。そこで早速ドイツに視察に行きました。
ドイツはバイオガス発電の先駆者ですが、まさに目からウロコでしたね。そもそもドイツは再生可能エネルギーの普及率が非常に高いんです。電気だけでなく熱供給のインフラも整っていて、バイオガスプラントの排熱を利用したお湯が9キロ先の集落までパイプラインで送られて、冬場の暖房に使われていました。
沢田 実際にドイツを視察されてどのように感じましたか?
小野木社長 大規模なジャガイモ農家が1メガも発電できるような大きいプラントに、ジャガイモのクズを大量に投入してる様子には感動しましたし、それに混ぜるバイオ用のトウモロコシも最初からエネルギー飼料としてつくられているわけです。廃液は肥料として撒けるのでその栄養でまたジャガイモが育つ。まさしく循環型農業ですよね。その点に魅力を感じました。
それを機にドイツのエンスパー社(現 biomas Germany)からプラントを購入し、設備の準備が整ったのが2017年(平成29年)です。エンジンだけは日本に代理店があるマン社製の250kWのエンジンを2基使い、500時間あたり最大5000kW発電できる発電機を搭載したバイオマスプラントになりました。
プラントではまず、豚の糞尿や食品残渣を投入して一定時間調整タンクで平準化させます。その後発酵タンクに移して、微生物が発生したガスからメタンガスだけを精製して発電しています。プラントでつくられた電気は「やまがた新電力」さんを通じて山形県内の学校や病院等の施設、民間企業へ売電しています。
一般廃棄物処理の免許取得で今後はさらに進んだ展開へ
沢田 ビデオや小野木社長のお話からは循環型農業への熱い思いが伝わってきますね。
小野木社長 元々養豚は豚の糞尿を堆肥にして地域の農家さんに使っていただかないと成り立たないんです。だから当社だけでなく、どの養豚事業者も”循環”は常に意識していると思います。
バイオマスプラントの電気や熱も様々な形で循環させていきたいのですが、実は課題も多く、ドイツとは事情が異なる日本でこれを成功させていくには、3つのポイントがあると考えます。
1つ目は初期費用とランニングコストです。バイオガスプラントは日本ではつくられていません。日本に代理店があるようなメーカーは代理店を通すと非常に高額になるので、当社では並行輸入のような形を取らざるを得ませんでした。けれど、ドイツのメーカーから直接購入すると、今度は日本国内にメンテナンスのノウハウがないんですね。それで多額の修繕費がかかるため、この夏、新潟の鉄工所さんと組んで大規模修繕工事を行い、発酵タンクを作り直す予定です。なんとかもっといい形にしたいです。
2つ目は糞尿だけではガス発生量が少ないので食品残渣をどれぐらい回収できるのかが大きなハードルになること。
3つ目は廃液の水処理です。本来は液肥として農地に散布すればいいのですが、土地が広大なドイツと異なり日本では撒く場所がありません。だからここに大きな処理費の問題が発生してしまいします。
沢田 今後は新しい取り組みにも着手されるそうですが?
小野木社長 取り組んでみてわかったことですが、日本でこれを事業化するためには、食品残渣が安定して入ってくる仕組みを持っていないと難しいです。つまり産廃事業者ですね。当社も産廃処理の免許は取得済みですが、今は一般廃棄物処理の申請も出しています。それがあれば飲食店や食品工場から出る厨芥残渣(ちゅうかいざんさ=生ごみ)も有料で回収できるようになりますから。
今日本では、手間と経費と安全性の観点から、燃やして処分している食品がとても多いんです。逆にゼリーのように糖度が高い食品や、ジュースの廃液のような液状の残渣は処理するのに高い経費をかけています。
それらを発電に活用できれば食品ロスとCO2の削減につながりますし、場合によっては安く処分できますよね。
今当社ではバイオガスプラントの熱供給のほうにも着目しており、夏でも暖房が必要な子豚の豚舎に活用したいと思っています。どんな形であっても資源を無駄にせず、当社が実践している循環型農業につなげていきたい、そう思っています。
沢田 おっしゃる通りですね。小野木社長のアンテナが高いからこそ、思わぬ偶然を引き寄せたり、様々な視点を持つことができるのではないかと感じました。本日はありがとうございました。
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【編集部より】当社(ミカド電装商事)の沢田と大商金山牧場の小野木社長は初対面ですが、小野木社長はこの数日前に開催されたエネルギー関連のオンラインセミナーで講師を務めており、それに参加した当社の社員が沢田よりも先に小野木社長のお話を聴いていました。偶然って面白いですね。今回はそんなお話からスタートした取材でした!
取材先:株式会社 大商金山牧場(本社:山形県庄内町)
*小野木重弥(おのきしげや)様/株式会社 大商金山牧場 代表代表取締役社長
*佐藤昌幸(さとうまさゆき)様/株式会社 大商金山牧場代 取締役管理本部長
取材日:2022年3月2日
取材者:ミカド電装商事株式会社 代表取締役 沢田秀二 ミカドONLINE編集部