【電気を送るしくみの今とこれから】03_冷やして送る超電導直流送電

    これまでの二回は、交流送電について書いてきました。変圧の仕組みが簡単なため、発電した電気を高圧にして送り、需要家近くの変圧器で電圧を下げて使うことが容易な現在の送電方式は、100年以上前に考案されて、世界中に普及しました。

    ところが今、それに代わる新しい送電の方法が注目されています。超電導線をつかって直流で電気を送る超電導直流方式です。交流送電の損失率は5%と言われていますが、それは原発数基分に相当するものです。このロスをなくすために、一定の温度に冷却すると電気抵抗がゼロになる超伝導体をつかった送電が研究開発されてきました。そして昨年(2015年)の8月に北海道の石狩地区で500mの送電試験が成功し、翌9月には太陽光発電から同地区のインターネット事業者のデータセンターに電力を送るシステムが稼働を開始しました。

    石狩超電導直流送電プロジェクト 工事~完成まで
    (石狩市)

    超電導は水銀をマイナス269℃(絶対温度4.2K)まで冷やすと電気抵抗が突然消滅したことから名づけられた現象です。近年では、従来よりも高い温度で超電導状態になる物質が発見され(と言ってもマイナス200℃~100℃ですが)、安価な液体窒素などでも冷却が可能になったため、様々な分野で実用化が進んでいます。

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    超電導直流送電でつかわれるケーブルは、芯材の銅線にビスマス系やイットリウム系などの超伝導体を薄いテープ状に巻きつけたものです。これを循環する液体窒素で満たした管に収納して冷却を実現します。超伝導体を冷やしながら送電するので電気抵抗はなく、熱が発生しません。この管の外側をさらに真空の外管で覆い、外気と遮断することで断熱性を高めています。

    ところが、ここで課題があります。超電導は磁場が発生すると適正な低温でも電気抵抗がゼロにならない性質を持っていますが、交流電流は電圧が周期的に変化して磁場が発生するため、電気抵抗が完全にゼロにはならないのです。結果的に熱が生じてしまうので、超伝導のメリットを最大に生かすには、直流送電の方が望ましいということになります。

    最近の電気製品は電子機器を搭載したものが増えていますが、これらは直流で動くため、内部に変換装置を内蔵していたり、PCのように外付けのACアダプターで直流に変えています。そういった変換時のロスも増大しているため、電子機器への給電は、最初から直流のほうが効率も品質もいいのです。また、ここ数年で大きく普及した太陽光発電のエネルギーも直流で出力されるため、直流交流の変換に伴う電力損失を減らすためにも、直流送電のニーズが高まっていました。

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    こうしてみると、太陽光の電力とIT事業者のデータセンターを超電導直流送電で直接つなげた石狩のケースは、まさに好事例といえるかもしれませんね。

    現在では、半導体素子の進歩により、直流変圧器の価格も変換効率も交流変圧器と遜色ないレベルになっています。そのため送電網を新しく構築している新興国などでは、直流送電を採用するケースも増えています。また、日本でも、本州と北海道の間などの長距離伝送では直流送電が採用されている場合もあります。

    今の仕組みを根底から変えることは難しいと思いますが、最寄りの変電所から大口電力利用者(データセンターや工場など)への経路だけを直流化するだけで、4割の電力削減になるという試算もあるそうなので、これからは少しずつ普及していく仕組みなのではないでしょうか。

    (写真の出典:WirelessWire News、石狩市)