産業用蓄電池や周辺装置の歴史をピックアップするシリーズです。前回はセレン整流器についてお届けしましたが、今回は次に登場したサイリスタ整流器についてです。
サイリスタは1957年にGEで開発されました
前回お伝えしたセレン整流器は、1883年に発見されたセレンを使い1930年代後半に市販が開始されました。
セレンというのは原子番号34の物質で、半導体の性質を持ちます。そのセレンをニッケルメッキした鉄またはアルミ板に塗り、さらにその上にカドミウム-スズまたはカドミウム-亜鉛合金にタリウムなどを添加したものを塗布して整流性を安定させたものが整流器の素子として使われ始めたのです。
(前回)電池産業の軌跡 ~③シリコン登場まで主役だったセレン整流器~
ところが金属整流器は動作温度、電流密度、およびセルあたりの耐電圧が低く、かさばる上に損失も大きいものでした。ここで整流器の歴史を変える大きな出来事が起こります。それは1940年代に半導体の単結晶が発明されたことでした。
半導体ダイオード(シリコンとゲルマニウム)は、金属整流器の1,000倍の電流を流すことができるためコンパクトでした。中でもシリコンダイオードは、ゲルマニウム(65℃)と比較して、はるかに優れた耐熱特性(175℃)を持っていました。
そこで整流器の分野でも半導体を使う研究が進み、高純度のシリコン結晶が作れるようになるまで時間はかかったものの、1957年に米国のGE社(ゼネラルエレクトリック社)から世界で最初のシリコン制御整流器「SCR」が製造されました。
「SCR」というのはSilicon Controlled Rectifierの略称で、直訳するとそのまま「シリコン制御整流器」ですが、この整流器はやがてサイリスタと呼ばれるようになりました。
サイリスタというのは当時普及していたサイラトロンという真空管の一種(大電力開閉器)と、トランジスタという言葉を部分的につなぎ合わせた造語です。サイラトロンは前々回取り上げた水銀整流器の原理となっているものですが、誰かが使い始めたこの用語が人々には好評で認知度も高かったため、GE社が開発したシリコン制御整流器は、サイリスタを正式名称とすることがIEEEによって1963年に決まりました。
サイリスタはON/OFFでコントロールする半導体素子
4層以上のp-n-p-n構造から成る半導体素子で、制御電極の電圧を変えることによって,電流を制御する機能をもった半導体素子です。回路記号で表すと通常のダイオードにもう一本足を延ばしたような形をしており、この図からも端子が3つあることがわかります。
トランジスタはベース電流に応じて増幅しますが、サイリスタは増幅でなくON/OFFのどちらかでコントロールする半導体素子であるため、損失が少なく小型で大電流な部品となります。そのON/OFFを担っているのが3本目の足というわけです。
小型で長寿命,小さな制御電力で大電力の制御ができ,スイッチング速度が速い,構造が簡単であるなどの特性をもっている。サイリスタの登場で、それまであった水銀整流器やセレン整流器は駆逐されていきました。
パワーエレクトロニクスの幕開け
そしてここから本格的なパワーエレクトロニクス時代の幕開けとなりました。
パワーエレクトロニクスは、高耐圧・大電流容量の半導体デバイスのオンオフ動作を利用して電力を断続し、電力の変換と制御を行う技術です。このような使い方をする半導体デバイスを、半導体バルブデバイスといいます。その特徴として、微小な電気や光などの信号によって、高電圧・大電流を電気的にオン・オフすることができ、損失が少なく、 1秒間に数千回,数十万回と、きわめて速い動作を行うことができます。
1965年、GE社は250A、1200Vの高周波サイリスタを発表しました。日本でも充電各社がその技術を導入して大電力のサイリスタを増産し始めました。
サイリスタは今も電力会社や通信設備や工場などの大きな電力を必要とする直流電源装置の整流器として使われています。
出典/参考記事: DC Power Transmission Mercury-Arc to Thyristor HVdc Valves A Short History on the Thyristor Valve トランジスタは何者だ! パワーエレクトロニクスと半導体デバイス サイリスタ・チョッパからデジタル電源への道 など