(95)リチウムイオン電池が発火するメカニズム、便利な電池の知っておきたい一面

    外出先でモバイルバッテリーを使用し、家ではコードレス掃除機で掃除をする。電動アシスト自転車で買い物に出かける人もいるでしょう。電源コードを気にせず使える製品が増え、私たちはさまざまな場所へ電気を持ち運べるようになりました。

    その暮らしを支えているのが、リチウムイオン電池です。小型で軽いですが、多くのエネルギーを蓄えられ、充電すれば繰り返し使える。私も意識せずともワイヤレスイヤホンなどで毎日使用しています。

    リチウムイオン電池

    ところが、その電池から突然煙や炎が出る事故が起きています。火を使う製品でもないのに、なぜ燃えてしまうのか。手がかりは、電池の内部にあります。

    なぜ発火してしまう?

    リチウムイオン電池の内部には、プラス側の「正極」とマイナス側の「負極」があり、その間をリチウムイオンが行き来することで充電や放電を行います。イオンが移動するための液体が「電解液」、正極と負極を隔てる薄い膜が「セパレーター」です。

    セパレーターは、イオンを通しながら、正極と負極が直接触れるのを防いでいます。電池の中では、充放電に必要な移動を保ちつつ、接触してはいけない部分をきちんと分けているのです。

    普段は見えないこの薄い仕切りが、安全のために重要な役割を果たしています。落下や強い圧迫などで傷つき、正極と負極が接触すると、内部でショートが起こるおそれがあります。

    ショートした部分には大きな電流が流れ、熱が発生します。さらに温度が上がると、電池の材料が分解するなどして、熱を出す反応が進むことがあります。その熱が次の反応を促し、また温度が上がる。こうして発熱の連鎖が止められなくなる現象が「熱暴走」です。

    一般的なリチウムイオン電池の電解液には、燃えやすい有機溶剤が使われています。異常な発熱によって電解液や内部で生じた可燃性ガスに引火すれば、炎が噴き出したり、破裂したりする危険があります。外から火を近づけなくても、電池自身が発火につながる熱を生み出してしまうのです。

    「少し落としただけ」「置いておいただけ」が事故のきっかけに

    電池を傷つけるのは、分解や改造のような特別な行為だけではありません。機器を床に落とす、荷物の下に押し込む、かばんごと硬い物にぶつける。日常の何気ない扱いも、強い衝撃や圧力になれば内部の損傷につながります。外側のケースに大きな傷がないからといって、中の電池まで無事だとは限りません。

    もう一つ気を付けたいのが、高温です。直射日光の当たる窓辺や、暑い日の車内は、電池の置き場所には向いていません。高温にさらされると内部で異常な反応が起こり、発熱や発火に至るおそれがあります。

    「夏だけ気を付ければよい」とも言い切れません。充電中のスマートフォンを布団や枕の下に入れるなど、熱が逃げにくい使い方にも注意が必要です。充電する場所は、機器を覆わず、周囲に紙や衣類などの燃えやすいものを置かないようにしましょう。

    まだ使える=安全に使えるではない

    電池の異変は、日々の小さな変化として現れることがあります。本体が膨らんできた、以前より異常に熱くなる、充電できなくなった。そんなとき、買い替えや修理が面倒で、つい様子を見ながら使い続けたくなるかもしれません。

    内部のバッテリーが膨張したスマートフォン(画像:Photo AC)

    しかし、電源が入ることや充電できることだけでは、安全かどうかは判断できません。膨らみや異常な熱などに気付いたら、使用と充電を中止し、メーカーや販売店に相談しましょう。

    特に、膨らんだ電池を押して元に戻そうとしたり、穴を開けて中身を抜こうとしたりするのは危険です。機器から取り外そうとして無理にこじ開けることも、電池を傷つける原因になります。自分で何とかしようと手を加えず、製品の状態を伝えて対応を確認してください。

    また、目立つ前兆がないまま出火することもあります。東京消防庁の資料では、充電中だけでなく、充電していない状態での火災も報告されています。「コードを抜いてあるから大丈夫」とは考えず、使っていない機器の保管場所や状態にも目を向けたいところです。

    買い替えて使わなくなったスマートフォンや、充電できなくなったモバイルバッテリー。手元を離れた後にも、電池が火災を起こすことがあります。ほかのごみに混ざった電池が、収集車や処理施設で押しつぶされると、内部が損傷して発火するおそれがあります。使っているときに避けるべき「強い圧力」が、ごみの処理工程で加わってしまうのです。

    不要になった製品は、自治体やメーカーが案内する回収方法に従ってください。

    回収ボックスがあっても、すべての電池を入れられるわけではありません。膨張・破損したものなどは受け付けられない場合があるため、事前に状態を伝え、引き渡し方を相談する必要があります。

    リチウムイオン電池は、私たちが電気を使える場所を大きく広げてくれました。その便利さを支えるエネルギーは、内部が傷ついたり、異常な反応が起きたりすれば、火災の原因にもなります。普段どこで充電しているか、無理な力を加えていないか、使わなくなった製品をどう処分するか。いつもは意識しない電池の存在を、暮らしの中で少し気に留めてみてください

    参考:Vol.477 5月27日号 「外出中のスマートフォン、モバイルバッテリー、携帯用扇風機による事故」,『夏バテ(夏のバッテリー)』にご注意を
    ~「リチウムイオン電池搭載製品」は3つのCで事故を防ぎましょう!~
    ,リチウムイオン電池搭載製品の出火危険,火災事故について