(62)マイクロガスタービンは中小規模でも活用できる脱炭素の発電装置

    みかドン ミカどん

    風力、水力、と再生可能エネルギーを使った発電装置の小型化と活用事例についてお伝えをしてきたマイクロシリーズの最終回はマイクロガスタービンによる発電です。今回も地元、東北の話題から秋田県の実証事例をご紹介します。

    秋田県の農業ハウスでアンモニアマイクロガスタービンが実証実験中

    秋田県大仙市の農業用ハウスでアンモニアマイクロガスタービンを活用した実証実験が続けられています。アンモニアマイクロガスタービンがつくる電気と温水をハウスに送り、豪雪地帯の秋田でイチゴやトマトを周年栽培する取り組みです。

    ガスタービンは燃料を燃やして動力を得る内燃機関の総称です。

    一般にはタービンの回転で電気を起こす大小の発電機として使われていますが、軍用船など特殊船舶のエンジンにも採用されています。(高温・高圧の燃焼ガスをエンジン後方に噴射するジェット機のエンジンもガスタービンの仲間です。)

    2021年に始まったこの実証実験は農業における脱炭素を模索するもので、灯油を大量に使用する冬場の寒冷地のハウス栽培における代替策を探り、かつ、化石燃料に由来する電力の使用も抑えることで農業分野でのゼロエミッションを目指しました。そしてすでに一定の成果を上げているそうです。

    ガスタービン発電の特長

    ガスタービンの特長のひとつ目は様々な燃料を使えることです。

    従来のガスタービンでは灯油や軽油、天然ガス、液化天然ガス(LNG)などの化石燃料が使われてきましたが、それ以外にも多様な燃料を使えるガスタービンはカーボンニュートラルと相性がよく、食物残渣等を原料とするバイオガス発電では発生したメタンガスを燃料に使用しています。

    今回の実証実験では燃えにくいアンモニアを専焼燃料とするガスタービンの開発に成功した(株)トヨタエナジーソリューションズが代表事業者となり、農業コンサルティングを行う(株)秋田農販や大学の研究機関などがタッグを組んで、CO2を排出しないアンモニアが農業の現場でも使えることを立証しました。

    ふたつ目の特長は電気と温水の両方を得られることです。

    ガスタービンによる発電は発電効率が低いのが短所ですが、それは多くのエネルギーが熱になって逃げてしまうからです。しかしその熱による温水を暖房に使えるという点では、寒冷地に向いていると言えるかもしれません。

    ハウス栽培を担当している秋田農販によれば、近年の気候変動により秋田県でも猛暑が続き、夏場にはハウスを冷やす対策が必要になったそうです。けれどその課題も温水を利用する吸収式冷凍機の導入で解決したとのこと。

    吸収式冷凍機は熱源を必要とするしくみの冷房専用装置ですが(「冷凍」という名前ですが製氷機ではありません)その熱源にガスタービンによる温水が活用できるのです。

    温水は冷房にも使えるんですね。個人的には驚きでした。

    マイクロガスタービンは地味ですが重要な脇役です

    従来のガスタービンは大型で出力が大きく、おもに発電所や工場の自家発電などで使われてきました。しかし現在は小型化が進み、大型ガスタービンを設置できない場所(ホテル、病院、店舗など)で自家発電や予備電力として利用されています。また最近ではバイオガス発電の発電機として下水処理場などにも導入されているようです。

    現在では出力100kW以下のガスタービンをマイクロガスタービンと呼ぶことが多いようですが明確な定義はありません。往復運動を回転運動に変えるガス”エンジン”よりも直接回転運動が生じるガス”タービン”のほうが窒素酸化物の排出が少ないため、当初は米国で自動車用に小型化の開発が進みました。(残念ながらそちらは一部の実用化にとどまっています)

    マイクロガスタービンの特徴として、発電効率が低いというデメリットがあります。一方、小型で場所をとらず、構造がシンプルで部品が少なくメンテナンスが容易というメリットがあります。また、ガスエンジンとは異なり、タービンが回転することにより発電するので、振動が少なく、発する音も高周波のため、対策が容易です。

    今年の2月、前項でご紹介した秋田農販は今回の実証実験やもみ殻ボイラーなどの取り組みが評価されて、あきたSDGs2023アワードで表彰されました。今後の課題は再エネ由来のブルーアンモニアを地産地消できるようにしたいとのこと。今は神奈川県から運んでいる燃料のアンモニアを秋田県内で調達できるようになれば、サプライチェーンの強化だけでなく、コストの削減も大いに期待できるそうです。

    ㈱秋田農販様が「あきたSDGsアワード2023」を受賞 TOYOTA ENERGY SOLOTIONS

    日々のニュースで話題になる太陽光や風力発電と異なり、マイクロガスタービンは再生可能エネルギーの現場では脇役で目立たず地味な存在です。しかし中小規模の脱炭素対策では重要なアイテムです。

    高価な耐熱性材料が必要なため設置コストが高いという難点もありますが、産業分野でのクリーンなコージェネレーション(熱電併給)の担い手としてこれからも静かに「いぶし銀」の実力を発揮してほしいものです。

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用記事: カーボンニュートラルを実現する技術の開発|一般財団法人カーボンフロンティア機構(PDF)  アンモニアを燃料とするガスタービンの研究開発について|産総研(PDF) 大仙市におけるアンモニアガスタービンを活用したゼロエミッション農業の技術実証|秋田商工会議所(PDF) アンモニアマイクロガスタービンのコジェネレーションを活用したゼロエミッション農業の技術実証|環境省(PDF) 令和 3 年度環境省CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業「アンモニアマイクロガスタービンのコージェネレーションシステムを活用したゼロエミッション農業の技術実証」プロジェクトを本格スタート| トヨタエナジーソリューションズ(PDF) 5月25日(水)農林関係視察 | 石田ひろしの日記 ゼロエミッション農業の実現を目指し、持続可能な地域づくりに貢献したい|農業経営者の横顔|みんなの農業広場 カーボンニュートラルを実現する技術の開発|一般財団法人カーボンフロンティア機構 ゼロエミッション型未来農業・地域サプライチェーンによる
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