2022年10月現在での日本人ノーベル賞受賞者は28人です。ですがいったい何をした人なのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩博士です。
光るクラゲから緑色蛍光たんぱく質GFPを発見
下村脩博士(しもむら おさむ 受賞時:米ボストン大名誉教授/1928年 – 2018年)は2008年(平成20年)に80歳でノーベル物理学賞を受賞しました。
授賞理由は「緑色蛍光タンパク (GFP)の発見と開発による生命科学の発展への 顕著な貢献」」というものです。
下村博士は京都府生まれで長崎大学を卒業。戦後、名古屋大学の研究生となりウミホタルから発光物質を取り出すことに成功しました。
その後、アメリカ・プリンストン大学に招かれて1960年代にクラゲの一種オワンクラゲが光る仕組みを解き明かし、緑色蛍光たんぱく質(以下GFP)を発見しました。
下村博士が発見したGFPは細胞内でのタンパク質の動きを観察する技術に応用され、生命科学研究に革命を起こすほどの必須ツールとなりました。
下村博士の研究を発展させた2名の科学者も同時受賞
2008年のノーベル化学賞は下村博士を含め3名の研究者に授与されましたが、この年の受賞者はすべてGFPの研究に携わっている方達でした。
下村博士は、オワンクラゲからGFPを最初に単離するとともに、紫外線を当てるとこのタンパク質が緑色に光ることを発見しました。
Chalfie博士は、GFPが様々な生物学的研究のツールとして使えることを実証しました。
Tsien博士は、GFPの蛍光発光メカニズムの全般的理解に貢献するとともに、緑以外の色に光る関連タンパク質を開発して、いくつかの異なる生物学的過程を同時に観察することを可能にしました。
こうして下村博士の発見から約30年後にGFPの遺伝子が同定され、さらに遺伝子組換え技術を利用してGFPを別の調べたいタンパク質に「印」としてつけることが可能になり、がん細胞が広がる過程やアルツハイマー病で神経細胞がどのように壊れていくのかなどの医学上の重要な解明につながりました。
クラゲの水族館も大混雑
下村博士の研究の原動力は、ただオワンクラゲという生物の発光の不思議を明らかにしたい、という探究心と純粋な好奇心でした。
朝6時から夜まで毎日家族総出で海に行き17年間で85万匹ものクラゲを捕ったという逸話は当時の報道で有名になりましたが、この受賞でクラゲの人気が急上昇。
数多いクラゲの展示で知られる山形県の鶴岡市立加茂水族館では、同館でオワンクラゲを飼育していることがわかると入場者数が激増し、その様子を知る当社の沢田会長の話では「狭い水族館に何台もの観光バスが入って来て周辺は大混雑していた」そうです。
晩年、体調を崩した下村博士は住まいのある米国から帰国し、幼少期や学生時代を過ごした長崎で療養をしていましたが、2018年に老衰で亡くなりました。
博士は生前ご自身の研究について「役に立つとは思っていなかった」と語っていますすが、下村博士が発見したGFPは複数の科学者の研究を経て細胞を生きたまま観察するための「光る目印」として活用され、難病治療のための新薬開発などにも大きく貢献することになりました。
旧帝国大学出身者が多いノーベル賞受賞者の中で、長崎大学出身の博士の受賞は今も地元の大きな誇りになっているようです。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用:下村 脩 博士 2008年ノーベル化学賞 | 化学科の偉人・ノーベル賞 | 名古屋大学大学院理学研究科 物質理学専攻(化学系)/ 名古屋大学理学部 化学科 下村脩|人物|NHKアーカイブス 【評伝】下村脩さん 孤高の道、ひたむきに クラゲから奇跡の光 – 産経ニュース など