ビジネスとSDGs(1)宮城十條林産様「〇〇×林業」で社会の課題を解決し循環するしくみをつくりたい

    みかドン ミカどん

    SDGsは国連が定めた「持続可能な開発目標」ですが、持続可能なビジネス、持続可能な取り組みなど、私たちが思っている以上に幅広い分野をカバーする考え方ではないかと思います。そんな視点で「SDGsな会社」をご訪問してお話を伺う新たなシリーズです。

    今回は当社の沢田秀二と編集部が宮城十條林産株式会社をご訪問して社長の亀山武弘様に持続可能な林業についてお話をお聞きしました。(文中の敬称は省略させていただきます)

     

    査定のために山の針葉樹のすべての木の太さを計ります

    亀山武弘社長(右)と沢田

    沢田 亀山社長とは、ある勉強会でお会いして以来ですね。今回はSDGsという視点からいろいろお話を伺わせてください。今日はよろしくお願いいたします。

    編集部 宮城十條林産様は林業の会社さんですが、具体的にはどういった業務をされているのですか?

    亀山 木を伐って売るのが我々の仕事ですが、その前にまず、山の木は必ず誰かのものなんです。よく「公共のもの」と捉える方もいらっしゃいますが、実は誰かの財産で、100%持ち主がいるんですよ。我々はその財産を買い取らせていただきお金に換えたり、間伐等、整備をして所有者の望む山林価値の向上に対応していくのが仕事です。

    木をお金に換えるためにはその山に生えている木の価値を査定する必要があります。私たちの一番の強みはこの査定能力です。昔はざっと山を眺めて100万だ、200万だと大雑把に査定していたと聞いたこともありますが、今は山に入って針葉樹と広葉樹のそれぞれの本数であるとか、針葉樹の場合はほぼすべての木の太さを計り、できるだけ正確に査定しています。うちの社員の半数は山歩きをする山林部員です。

    そうやって、このぐらいの金額をお支払いしますから売ってください、というのがうちの仕事です。その次の仕事が木を伐ることです。そちらは自社や伐採を専門とする協力会社さんに協力していただいています。伐った木(丸太)はその後、製材工場さん、合板工場さん、チップ工場さんなどに買い取ってもらいます。

    当社は製材工場もチップ工場も持っているので、丸太のまま販売するのがだいたい5割、自社製材工場消費が2割、残りは自社でチップ加工して製紙会社さんに納入するという感じでしょうか。

    変化しながら少しずつ大きくなってきました

    会社の歴史を話す亀山社長

    沢田 創業は石巻とのことですが、会社の歴史などもお聞きしたいです。

    亀山 宮城十條林産は戦後、私の祖父の亀山幸太郎がつくった会社です。創業者の亀山幸太郎は当時の河北町(今の石巻市)の出身ですが、長男ではなかったので、自分で仕事を見つけなければならず、最初は炭焼きをしたり山で木を伐って薪にして売っていたのだと思われます。

    でもきっと事業の才能があったんでしょうね、段々仲間が増えて行って、当時、石巻に東北パルプという会社があり、そこに原料を納入するという仕事を始めました。それがのちに合併して十條製紙(現:日本製紙)になったのですが、その頃、河北町には同じような事業を行っている会社が三社ありまして、この三社も十條製紙さんの助言を受けてひとつになりました。それが当社の始まりです。

    当時は製紙会社が(紙の原料となる)木材チップを自分たちでつくっていたので、我々はその原料となる木材を納入すればよかったのですが、段々形態が変わってきて「チップ(粉砕された状態)で納めて欲しい」ということになってきたんですよね。そこでその次は自前のチップ工場をつくって納入を始めたんです。

    沢田 そうやって会社が業務を変えながら少しずつ大きくなってきたんですね。

    亀山 まあ、そうですね、チップ工場を持ったことで、家の材料としては商品にならない木材や家を建てた後の端材も継続して処理できますし、製紙会社さんが動き続けている限り、材料も常に必要になるわけですから「明日、要らない」ということはありません。そう考えるとすべてを計画的に資源化できる強みがありますし、林業としてもやりやすかったと思います。

    SDGsを日本木青連の令和元年度スローガンに

    後任の会長が前任の会長に感謝状を手渡すのが恒例とのこと

    沢田 林業というのは環境に寄与する仕事なので業種自体がSDGsと密接に関わりがありますよね。

    亀山 森林は大気中の二酸化炭素を吸収して固定するので、SDGsによって我々の仕事の注目度が上がり、ビジネスとしても追い風になっています。新卒で応募してくる人の質も変わりました。ただ、今までずっとやってきたことがこれに当てはまったという感覚で、意識して何かをやっているという感じはないんです。

    沢田 なるほど。確かに当社(ミカド電装商事)も蓄電池を扱っていて、電気を溜めるという方向でエネルギーに貢献する業種なので同じ気持ちはあります。似ているかもしれませんね。

    亀山 SDGsを初めて知ったのは平成30年位だと思います。本や勉強会などでその前のMDGsからわかっていたのですが、先進国の目線が強いMDGsと比べて、SDGsはとてもいいと思ったし、「これは使える」と思いました。

    そこで令和元年度に日本木材青壮年団体連合会という全国組織の会長になったときに、その年のスローガンにしました。これはその年その年の会長が1年単位で任期中にやりたいことを目標に掲げるものですが、私はまず全会員にSDGsを知ってもらおうと思ったんです。

    当時はまだ知らない人が多くて一番先に言われた言葉が「それは何?」「それって儲かるの?」でした(笑)。他にも「国連の回し者か?」とからかわれたこともありますが、その年のうちに日本中に言葉が浸透して行ったので、本当にいいタイミングで推進していくことができたと思います。

    「〇〇×林業」で社会の課題を解決し循環するしくみを

    内外に発表された様々な資料

    沢田 林業には様々な課題もあると思いますが、持続可能な事業として取り組んでいることなどはありますか?

    亀山 林業は結果が出るまで50年かかる事業です。そこでまず今から30年のうちに何をやっていきたいか?ということを今後の経営を担うメンバーと話し合って策定し、社員にも伝えました。それに伴ってホームページも来年変える予定です。

    作業的なところでは林業のスマート化(IT化)ですね。GPSで境界線を確認したりドローンで測量したりスマートフォンで積まれた原木の材積を計ったり、これらは少しずつ導入し始めています。出退勤の管理も今はタイムカードではなくスマホでやっています。

    それとやはり木を植えたいです。木を伐ったあとにまた木を植えて再造林すればそれが未来の資源になっていくのですが、実際は伐ってそのままというところが非常に多いんです。「なぜ植えないのか?」と我々が言われたりしますが、最初にお話をしたとおり、木は基本的に誰かの持ち物なので、持ち主さんがそのままでいいと判断すればそのままになってしまうんです。

    木材価格が下落する一方なので、木を売ってお金を得ても再造林するためにはその3倍ぐらいの経費がかかります。そうなると誰も植えたいとは思いませんよね。ですがそのままでは林業が循環していきません。

    編集部 再造林のために重要なものは何ですか?

    亀山 「想い」ですね。林業に関わる人たちは、木は時期が来れば切らなくてはいけないし、そのあとには植えなくてはいけないと皆が思っているんですよ。けれどそのためにはどうしてもお金が必要になる。当社も少しずつ植林事業も始めています。

    林業が持続可能な事業として継続していくためには、林業を環境や温暖化防止などの様々な価値と掛け合わせて今までとは違う利益を生み出すしくみをつくっていかないと循環していきません。その利益を再造林に回して循環させていきたい。そのためにも我々は「林業×〇〇」を合言葉に、林業を社会の課題を解決する事業として位置づけ、森林の価値を最大化したいと思っています。

    沢田 それがSDGsの大きなテーマである「持続可能」にもつながるわけですね。大変興味深いお話を今日はありがとうございました。

    編集部より
    亀山社長のお話を伺って、今まで知らなかった林業の世界や課題が理解できました。SDGsの17の目標の中には、「産業と技術革新の基盤をつくろう」という項目もあります。環境や温暖化対策だけでなく、事業の在り方を再考するのも立派なSDGsだと思いました。

    取材先:宮城十條林産株式会社 代表取締役 亀山武弘 様
    取材日:2023年1月18日
    取材者:ミカド電装商事株式会社 代表取締役 沢田秀二 ミカドONLINE編集部