ノーベル賞日本人受賞者(9)白川英樹博士は何をした人?~2000年(平成12年)化学賞を64歳で受賞~

    みかドン ミカどん2022年10月現在での日本人ノーベル賞受賞者は28人です。ですがいったい何をした人なのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は日本人9人目のノーベル賞受賞者 白川英樹博士 です。

    電気を通すプラスチックの共同開発者

    白川英樹博士はノーベル化学賞を2000年(平成12年)に64歳で受賞しました。日本工業大学出身の白川博士は、旧帝国大学以外の卒業生としては初の受賞者となりました。

    白川博士の授賞理由は「導電性高分子の発見と発展」です。わかりやすく書くと白川博士は同年、共にノーベル化学賞を受賞したアメリカのアラン・ヒーガー博士、アラン・マクダイアミッド博士と共同研究を行い、電気を通すプラスチックを開発したのです。

    それまでプラスチックは電気を通さない物質とされていましたが、白川博士らの発見は一気に常識をくつがえし、やがて電気を通すプラスチック(導電性ポリマー)はタッチパネルやコンデンサー、有機ELデバイスなどの身近な電子機器に数多く利用されるようになりました。

    しかし博士は最初からそれを目的に研究をしていたのではありません。白川博士のノーベル賞にまつわる記事を読むと、偶然の失敗や幸運な出会いなど、向こうからやって来たチャンスを素直に受け入れてきた結果のような気がします。

    留学生が間違えて1000倍の触媒を投入!

    ポリアセチレン樹脂(画像:筑波大学)

    白川博士は元々、アセチレンの重合反応を研究している化学者でした。重合というのはある物質を幾重にも繋ぎ合わせて分子量の多い複雑な構造を持つ高分子化合物をつくる反応です。

    あるとき、研究室の留学生が間違えて、アセチレンを化学合成するときになんと1000倍もの濃度の触媒を投入してしまいました。

    するとそこには想定された白い粉末ではなく、金属のように光るアルミ箔のような樹脂ができていました。白川博士はその金属のような光沢を見て「これは電気を通すのではないか?」と直感しましたが、調査の結果、確かに電気は通すもののそれは期待したほどの数値ではなかったようです。

    ですが博士は、失敗で偶然できたこの物質を新しい化合物ととらえ、安定して確実に合成できる方法を目指して改良を重ねました。

    そしてアルミ箔と見間違える程見事で面積の大きい均一な厚みの薄膜を作れるようになりました。これが有名な「白川法」です。

    数々の実験を重ねてポリアセチレンの構造を解析し、フィルム化の方法も確立した白川博士でしたが、残念なことに日米で論文を発表しても反響はまったくなく、またなぜ導電性を帯びたのかも未解決のまま、そのまま7年が過ぎてしまいました。

    来日した米国の研究者がオー!と驚愕!

    マクダイアミッド博士(左)と白川博士(中)とヒーガー博士(画像:Te Ara

    1975年、米国ペンシルバニア大学の研究者 アラン・マクダイアミッド博士が講演のために東工大を訪れました。

    白川博士はその講演のテーマには興味がなかったため出席しませんでしたが、終了後に講演会の世話人を務めた教授から実験室に電話があり「ポリアセチレンの薄膜をその先生にお見せするように」と言われました。

    アラン・マクダイアミッド博士が持参した硫化窒素化合物と白川博士のポリアセチレンの薄膜に相関性を感じた世話人の教授が二人を引き合わせてくれたのです。

    アラン・マクダイアミッド博士はその薄膜に非常に興味を示し「オー!」と飛び上がらんばかりに驚いたそうです。そしてその場で白川博士に共同研究を持ちかけました。

    白川英樹博士(画像:Wikipedia

    アラン・マクダイアミッド博士はそのころ、同じ大学の物理学教授であるアラン・ヒーガー博士と共同で、硫黄と窒素が交互に結合しているポリチアジルという無機の高分子化合物の研究を進めていました。

    マクダイアミッド博士は白川博士が開発したポリアセチレン薄膜との共通項が多いことに驚愕しただけでなく、このポリアセチレン薄膜をベースに研究すれば「電気を通すプラスチック」が可能なのではないかと考えたのです。

    招へいを受けた白川博士は翌年渡米して1976年にペンシルベニア大学のマカダイアミッドの研究室の博士研究員となりました。

    そして3人は同年、ドーピング(異物の添加)によってプラスチックに導電性が出ること、それにはヨウ素が最適であることなどを突き止め、これがノーベル化学賞の受賞につながりました。

    思いもよらない偶然の産物のことをセレンディピティと言いますが、白川博士の関連記事にはこの言葉がよく出てきます。ちなみにセレンディピティは準備ができている人にしか訪れないそうです。白川博士の地道で高度な研究の積み重ねが幸運を引き寄せたと言えるのかもしれませんね。

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用:10代のための「学び」考 白川英樹 失敗が新しい技術を生んだ VIEW21[中学版] 2007.04 -ベネッセ教育総合研究所 導電性ポリマー | コーデイングマテリアル | 松尾産業 「電気を通すプラスチック」の発見 ー白川 英樹|東京工業大学博物館 第26回日本脳神経超音波学会 教育文化講演 Serendipity と創造性 筑波大学名誉教授 白川 英樹(PDF) 2000 年ノーベル化学賞を受賞した白川英樹   など