分散電源を活用したP2P(ピア・ツー・ピア)電力取引のニュースを目にすることが多くなりました。日本では関西電力が昨年から豪州パワーレッジャー社と共同で実証実験を始め、今年の4月には東北電力も東芝エネルギーシステムズと共同研究契約を締結しました。でも、P2P(ピア・ツー・ピア)電力取引っていったいなに?(※このシリーズのすべての記事はこちらです)
P2P(ピア・ツー・ピア)電力取引とは
P2P(ピア・ツー・ピア)電力取引とは、発電事業者と需要家が電力会社を通さずに直接取引をすることです。太陽光や風力など、再生エネルギーの発電設備を持つ会社や個人と、割安な電力を使いたい会社や個人同士がお互いに電気を直接売買し合える仕組みのことで、従来の電力会社のような特定の管理機構を持たずに自律的に運用される、エネルギーシェアのネットワークのようなイメージです。
P2Pは元々インターネットの通信技術で、中央集権的な管理サーバーを介さずにクライアント同士が直接データをやりとりする仕組みを指していました。今となってはP2Pの天才先駆者として早逝が惜しまれている、故金子勇氏が開発したファイル共有ソフトWinnyを覚えている方も多いと思いますが、現在P2Pの技術はSkypeの一部にもつかわれ、やがて仮想通貨の流通を下支えするブロックチェーンの仕組みとして発展しました。
つまりP2P(ピア・ツー・ピア)電力取引とは、そういった技術を活用し、気象条件で発電量が上下する再生エネルギーの平準化をはかりつつ自律的な直接売買が可能なシステムとして開発され、FIT終了後の再エネ普及のカギを握る次世代の仕組みとして注目されているわけです。
電気を有償で不正なく融通し合うシステム
たとえば太陽光発電は、昼間にガンガン電気をつくりだしますが、その持ち主が一般住宅の個人だった場合、平日の日中は学校や会社があるので誰もおらずせっかくの電気が余剰となります。それを誰かが買い取ってくれるのなら、電気の無駄がなくなる上に利益にもなるので一石二鳥ですよね。
ですが、電気は水道管に似ていて「つなげば流れる」という性質を持ちます。しかも水のように「(電位の)高い方から低いほうへ」流れて行くこともあり、電線の中を流れている電気は、水道管の水のようにいつ誰がどのぐらい流したものか、そのままではまったくわからない状態です。(たとえは美しくありませんが、むしろ下水のほうがわかりやすいかも?^^)
そこで必要になってくるのがP2Pの仕組みです。P2Pでやりとりされるのは電気そのもではなく、誰が発電した電気を誰がどのぐらい買ったか?という情報を通信して全体で監視し合い、不正のない正当な取引を実現するためのものです。
それを地域単位で行ったり、現在電力会社が高精度で行っている電力の需給バランス制御の自立運用が可能かどうかを見極め、より新しいシステムを模索するのが各社の実証実験といえます。
地球温暖化防止に向けて
一説によると、世界中の地面をソーラーパネルで覆っても、世界で必要なすべての電気をまかなうことはできないそうです。また、安心して頼れる強固なバックアップ電源という意味でも、電力会社の電気は必須です。
ですが、地球温暖化防止に向けた温室効果ガスの削減が世界の大命題となっているいま、再生エネルギーの普及と活用に貢献する事業には世界の投資家が大金を投じている背景があるようです。P2P(ピア・ツー・ピア)電力取引もその流れを受け、欧米のベンチャーによるプラットフォームの開発や実証実験が盛んにおこなわれています。
実用化にはビジネスモデルがいまだ不透明で国内では法改正も必要になるなど、大きな課題がたくさんありますが、インターネットの普及で世の中が大きく変わったように、電力流通の世界も今後大きく変貌していくのかもしれません。