未来に向かう新しい発電技術を
3回シリーズでお届けしています。
最終回の今回のテーマは「水素エネルギー」です。
身近になりつつある水素エネルギー
「水素は遠い未来のエネルギー」。
つい最近まで、多くの人がそう考えていました。
ところが、水素を使って家庭でお湯と電気をつくる
ガス会社の家庭用燃料電池「エネファーム」は
2009年の発売開始後わずか4年で5万台を超え
昨年9月には10万台を突破しました。
価格も340万円から160万円にまで大幅に下がっています。
また昨年の12月、トヨタが世界に先駆けて
水素の量産型燃料電池車をついに市販化したニュースは
記憶に新しいところです。
水素の発電は化学反応を活用
化石燃料や自然エネルギーをつかった発電と異なり、
水素をつかう発電は化学反応を利用します。
私達は中学校のときに水の電気分解を習いました。
水(正確には電解質の水溶液)に
電極を二本入れて電気を流すと、
それぞれに水素と酸素が発生するあの実験です。
この反応は逆も成り立ち、
水素と酸素を反応させて水が生成されるときに、
電気(正確には電気と熱)が生まれるのです。
「2H2 +O2 →2H2O+電気」の
化学式を見てもわかるとおり、
水素を使った発電は炭素Cが存在しないため
水が発生するだけで、CO2の排出が全くありません。
そこで水素は究極のクリーンエネルギーと
呼ばれるようになりました。
また同時に発生する熱も、すでにエネファームで
コージェネレーションシステム
(熱電併給)として活用されています。
水素H2は、従来の化石燃料のように採掘の必要がなく、
石油や液化天然ガス、バイオマス、
下水汚泥など様々な物質から取り出すことができます。
エネファームの水素も
ガス管を通じて供給される都市ガスから取り出されています。
水さえあれば無限に生み出すことができるとも言われています。
電気自動車と水素自動車の違い
では今までの電気自動車と
水素をつかった燃料電池自動車はどこが違うのでしょう。
電気自動車は充電した電気を溜めて走ります。
一方、燃料電池車は水素を補給して
電気をつくりながら走る電気自動車です。
つまり燃料電池は、
電池という名前がついていますが、
実際は電気を溜める装置ではなく、
その場でリアルタイムに電気をつくり出す
移動型の発電装置なのです。
燃料電池車の普及には現在のガソリンスタンドのように、
街中にも郊外にもたくさんの
水素ステーションの設置が望まれますが、
ガソリンスタンドの設置が数千万円で済むのに対して、
水素ステーションは約6億円かかると言われています。
水素は化学反応で直接電気をつくるため
エネルギー効率が高いのも特徴ですが、
自然界には単体で存在しないことから、
燃料として実用化する段階で
大きな非効率と膨大なコストを発生させます。
一方、都市ガス・天然ガス・石炭ガスからの改質という
比較的安価な製造方法では
CO2を排出してしまう矛盾を抱えています。
(エネファームもCO2を出します)
昨年6月、燃料電池車の試作モデル発表時、
トヨタの加藤光久副社長は
「長い長いチャレンジ」という言葉を使いました。
前回の宇宙太陽光発電でも篠原教授(京大)が
「自分の代では終わらないかもしれない」
という印象的なコメントを残しています。
そこには、時間がかかることを承知しながら、
未来への価値ある技術と信じて取り組む
技術者の確固たる姿勢と熱意が伺えます。
水素を当たり前のように広く使える日は
確かにまだ遠い先なのですが、
それでも注目が集まっている背景には、
エネルギーのほとんどを輸入に頼る日本にとって、
水素を課題解決の一助にしたい考えがあります。
また、世界的に競争が激しい自動車産業では、
後発のメーカーが技術的に追いつけない未来型の自動車をつくり、
先行者として利益を取っていきたい狙いもあります。
水素社会の推進は、日本の未来をかけて進められる
国をあげての大きな挑戦と言えるのかもしれません。