ミカドサイエンス&テクノロジー講座(11)~燃料電池のしくみとミライの未来~

    みかドン ミカどん

    昨年の12月に水素燃料電池車(FCV)の新型ミライが発売されました。様々な改良により走行距離が3割伸びて外観もスタイリッシュになった新型ミライですが、FCVの昨年の販売台数はわずか624台です。けれど水素社会の実現は国の方針であるため燃料電池車の開発は休むことなく続けられています。そこで今回は燃料電池と燃料電池車(FCV)についてまとめてみました。

    水の電気分解を逆にすると電気が発生します

    水に電気を通すと電気分解が起こり水素と酸素が発生します。逆に水素と酸素を化学反応させさせれば電気を起こすことができるのではないか?この考えをもとに開発されたのが燃料電池です。

    ”電池”といっても電気を溜めるものではなく、”燃料”を実際に燃やすわけでもありません。

    電気を起こす方法は、電磁誘導の原理を用いた物理的な方法(発電機)と、異なる物質間のイオンの移動で電流を発生させる化学的な方法(電池)の2通りがあります。燃料電池は化学的な方法で電気を起こし、そのための素材を燃料のように外から供給できるので「燃料電池」と呼ばれています。

    燃料電池の「燃料」にあたる物質は水素、炭化水素、アルコールなどが挙げられますが、現在一般的に燃料電池と呼ばれるものは発電に水素をつかっています。

    水素は単体では自然界にほとんど存在しませんが、化合物としてならあらゆるところにある物質です。ここから発電できる安価で効率のいい方法が確立できれば資源のない日本でも世界をリードしていけるため、日本では水素立国を目指し国が先導して開発が進められています。

    都市ガスやLPガスに含まれる水素を活用する燃料電池は、お湯を沸かして発電も行う家庭用コージェネレーションシステムとしてすでに30万台以上が普及しています。コージェネレーションシステムについては以下の記事も合わせてご覧ください。

    (過去記事)コージェネレーションの基礎知識。地産地消の熱電併給

    FCVは水素+空気中の酸素で電気を起こして水を出す

    燃料電池自動車では原料となる水素を圧縮した水素貯蔵ボンベをつかいます。車にボンベなんてまるでタクシーみたいですよね。そこから供給された水素は燃料電池の中の触媒に触れて水素イオンになり、そのときに電子を放出します。

    電子は銅線から取り出されて電気エネルギーとなり、水素イオンは最終的に空気から取り込まれた酸素(こちらも触媒で活性化)と反応して水になり外に排出されます。

    (画像:燃料電池自動車(FCV) – 環境技術解説|環境展望台:国立環境研究所 環境情報メディア

    燃料電池の「電池」に相当する部分をスタック(燃料電池スタック、FCスタック)といいますが、スタックでは燃料極(陰極)と空気極(陽極)からなるセルが積層構造(スタック)に連なっています。

    燃料電池自動車はこの方法で発電した電気でモーターを回して走る電気自動車ですから、排気ガスを一切出さない究極のエコカーです。当然CO2を出すこともなくマフラーもありません。でも、水を排出する様子はけっこうカッコ悪いです。動画としてアップされている方がいらっしゃいますので、一番わかりやすい?映像を以下にご紹介します。

    普及しないミライに未来はあるのかな?

    FCVの世界販売数は2019年の実績では約2500台だそうです。国内でも昨年は624台しか売れておらず思った以上に普及していません。

    何と言っても値段が高い(新型ミライは710万~860万)うえに、ネックとなる水素ステーションも昨年末の段階で135か所しかなく(設置費が通常のGSの5倍)将来を絶望的とみなす意見も多数あります。

    また、水素を圧縮する過程で膨大なエネルギーをつかうため、そこで大量のCO2を発生させてしまったら「むしろ地球温暖化防止に逆行するのでは?」という大きな課題もあります。

    しかし、FCVには活躍が期待される分野があります。それはトラックやバスなどの輸送分野です。

    今回の新型ミライと同等の大型乗用車を電気自動車で実現すると必要な蓄電池は700kg。トラックやバスを電気自動車にした場合はそれ以上の巨大な蓄電池の搭載が必要になり、多大な重量を増やすばかりでなくスペースもおおいに圧迫します。

    また充電時間も1時間以上かかってしまい、時間もエネルギーも人やモノを運ぶ空間も効率よく長距離走行をしなければいけない輸送系の車両にとって電気自動車はあまり相性がよくありません。

    ですが装置が軽量で小さく、ガソリン車並みの短い補給時間で済むFCVであれば輸送部門の自動車もクリーンなエネルギーに変えることが可能です。トヨタとならぶFCV先進企業といわれてきた独ダイムラーがFCVのトラックやバスを手がける子会社「ダイムラートラックフューエルセル」を設立したのもそういった背景があるからです。

    乗用車では普及が難しいFCVも輸送系ディーゼル車の代替えとしてなら将来有望な道が開けそうです。ただしそのためにもFCVはもっと売れてコストが下がらないといけませんし、開発も継続していかないと状況が改善していきません。

    ちなみに上の動画でご紹介したミライ(旧型)の持ち主は、国と東京都の補助金と残価設定プラン使って総額840万円のミライを165万円相当で購入したそうです。自宅の近くに水素ステーションがあり補給に問題がなかったこともコメント欄に書かれています。(余談ですが、この方も動画の最後に排水シーンを掲載)

    ミライが乗用車にこだわっているのは、公用車や富裕層の購入を念頭に置いているからだそうですが、FCVは国が支援している車なので補助金も整っているようです。そして乗用車で確立された技術がほかのタイプの車にも適応されているのが開発の流れとのこと。

    輸送系車両のFCV化がもし進んだら、きっと排水量もかなり大いに違いありません。今後は自動車にも専用トイレ?が必要になるのでは?と思ってしまったのは私だけではないかもしれませんね。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典/参考記事:家庭用燃料電池「エネファーム」累積 30 万台突破について(PDF) トヨタ新型「MIRAI」に込めた販売10倍増の成算 トヨタ新型「MIRAI」に込めた販売10倍増の成算 【売れないクルマを作る訳】なぜトヨタは燃料電池車のミライを作るのか? ビジネスとして成立する理由とは 新型MIRAIで見えたトヨタの本気の狙い 高い理想を実現するため上品で安く作る!! 「トヨタ・ミライ」のフルモデルチェンジでFCVの普及は進むか? ミライの未来に暗雲! 究極のエコカーといわれた燃料電池車が成功できないワケ 新型と初代でトヨタ MIRAIの価格差は? 補助金や残価設定の違いを調査してみた 水素はディーゼルの代替? EVでは実現不可? FCVが普及確実なワケ など