『BCP~事業継続の課題を解決』シリーズをお読みいただきありがとうございます。本編は前回で終了しましたが、今回は番外編として、全8回を執筆した沢田社長に、連載を終えた感想などを編集部がインタビューしました。※画像は昨年秋に撮影(全記事はこちらです)
ボトルネックの洗い出しが最優先
編集部 沢田社長、8回にわたるBCP記事の執筆、お疲れ様でした。全編を通して読者の皆さんにお伝えしたかったことは?
沢田 やっぱり、まずはボトルネックの洗い出しを早期に行ってほしいということですね。BCPというのはBusiness Continuity Planの略で、災害などのインシデントが発生したときに最短で営業が再開できるための事業継続計画ということなんですが、ここでいうボトルネックとはそのために一番の障害になる重要項目ということです。
2007年に起きた新潟中越地震のときには、柏崎市内の部品メーカーが被災したことで、国内の大手自動車メーカー全12社が操業を一部または全部停止する事態になりました。
この事例でもわかるように、特に製造業などは、「これがなくては製造ができない」という部品や用品が必ずあると思うんです。それを緊急時にどう確保するか?代替手段をどうするか?ということを事前に対策しておかないと、設備のダメージだけでなく、経営そのものを揺るがす大ごとになりかねないわけです。
当社のボトルネックは?
編集部 当社の場合は何がボトルネックと思われますか?
沢田 そうですね。蓄電池は受注生産品なので、お客様への納品は短くても2か月ぐらいはかかります。その頃になると世の中はかなり復旧していると思われるので、当社の場合は製品そのものよりも、むしろ、通信手段やガソリンだと考えています。
実際に東日本大震災が発生したあとに、秋田県のお客様から「来てほしい」というご依頼があったんですが、ガソリンがまったく手に入りませんでした。
電気も止まっていてそれどころじゃなかったということもあって、そのときは丁寧にお断りしたんですが、今思えば、日本海側は地震の影響がほとんどなかったので、こちら側(太平洋側)の惨状がまだリアルに伝わっていなかったのかもしれませんね。
編集部 対策は取られましたか?
沢田 うん、対策と言うか・・・実はあとから気付いたんですけど、当社は都市インフラに関わる公共機関や公共設備などのお客様が多いので、緊急車両の件をハッと思い出して、すぐに登録したんです。
で、これでようやくお客様の電源設備の復旧に動けると思っていたら、途中から20リッターの制限がかかったんですよ。当時をあれこれ思い出すと、なんだか、日に日に配給が少なくなる戦時中みたいでしたよね。
だけど、お陰で一般車両が入れなかった高速道路に入ることができたので、高速のガソリンスタンドで給油したりしました。こういうのはね、経験してみないとなかなかわからないです。
それから通信手段は、結論から言うと模索中なんですが、これも本気で衛星電話を検討したんです。ですが、その後、自分で調べたり展示会で話を聞いたりすると、思った以上に高額で、そちらは検討の対象から今は外れています。
気が付いたのはあとからだった災害時の地域貢献
編集部 当社は電源設備の会社なので、営業再開イコール復旧活動みたいな側面もありますよね。
沢田 それがね、周りがもうメチャクチャになっているから、電源設備だけ復旧させてもまったく意味がないし、思ったより緊急出動的な出番は少なかったの。
編集部 そうなんですか。
沢田 それよりも何よりも、今でも一番強く思うのは、蓄電池に100ボルトのインバーターを繋げて、地域に開放してあげればよかった、という痛恨の気持ちですね。
実はミカド電装という看板を見たのか、学生さんらしき若い男性が会社に来たんですよ。携帯電話を持ちながら「ここってバッテリーを充電できますか?」って。
おそらく、GSユアサの看板やバッテリーの文字があったので「携帯の充電器なんかもあつかっているのかな?」的な発想で声をかけてくれたと思うのですが、当社は建物や通信基地局などの大型のバッテリーを主に扱っており、携帯電話のバッテリーなどは扱っていないので、「携帯の電池はやっていないんです」と帰しちゃったんです
ところが、あとから、携帯電話への充電なら、会社にある蓄電池でもインバーターを繋げれば可能だったことに気が付いて・・・。しかも、そのとき、車に積んでいたインバーターがあったんですよね・・・
今回は連載の4回目や5回目で、「産助」という言葉を紹介して、災害時の企業の支援や、地域との共生と貢献をはかる重要性にも触れたんですが、自分の身を守る「自助」、共に助け合う「共助」、公的な支援の「公助」に加えて、産業分野が支援する「産助」は最近よく使われる言葉です。
あとで、いろいろ考えたときに、あ!ああいうのを産助として実践するのがうちの会社の役目だったし、それをやったらもっともっと地域に貢献できたのに、と思うと、自分の思考の至らなさに本当にがっかりしました。そこまで頭がまわらなかったことに、今も申し訳ない思いが非常に強いです。
リスクマップをつくる
編集部 今回、BCPの連載記事を書かれてみて、ご自身の感想はいかがでしたか?
沢田 自分は震災後、BCPに関するいくつかの勉強会に参加して、宮城県防災指導員の認定もいただいたのですが、時間が経つにつれて曖昧になってきていることもあったので、それらを再認識するいいきっかけになりました。
会社としては、元々震災前から、災害対応マニュアルはあったんです。その中で安否確認の手順などは役に立ちました。でも、役に立たないものもあったので、今あるこれは、それらを踏まえた改訂版ですね。そんなことを思い浮かべながら書きました。
それから、書き手としては、少し震災に寄り過ぎた面もあるかもしれないという反省があります。
われわれは東日本大震災を経験しているので、BCPというとすぐに地震や津波をイメージしてしまいますが、それだけじゃないですよね。連載でも書きましたが、「大地震等の自然災害、感染症の蔓延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーンの途絶、突発的な経営環境の変化」など、考えられるあらゆる事象に対して頻度と重要度をマッピングした、リスクマップをつくるべきだと思います。
編集部 確かに普通に考えたら、巨大地震よりも火災のほうが、より身近に発生しうるインシデントの気がしますし…
沢田 そうそう。大雨で水没したらボートが必要かな?とか、それによって対策も変わってきますよね。
ネットワークの構築が大事
沢田 それとね、手段だけでなく、100%は到底無理でも、ここまで確保できたらなんとかやっていけるというレベルを決めておくことも大事なんですよ。
そうやって大きな視点でとらえてみると、製造業などではメーンの仕入れ先がダウンしたときに、最悪、ライバル会社からの仕入れも念頭に置かなくてはならないなど、視野を広げて様々なケースを考えておく必要があるかもしれません。
編集部 ライバル会社!?・・・あ、そういえば、農林水産省のこの資料にこんな事例が載っていました。
ライバル関係にある企業であるため、本来ならば代行保証先としては難しい。しかし代表者同士が長年深めてきた信頼関係を土台として、代行保証契約が成立している。
(出典:食品産業事業者における緊急時に備えた取組事例集)
そうなってくると周囲との信頼関係ってすごく大事ですね。
沢田 そうですね。やっぱりまずは、グループ会社、そして系列会社。
当社の場合も同じ系列の工事店同士では、契約書というレベルまでいかなくとも、「何かあったときには」みたいな、なんとなくの口約束や暗黙の了解はできているんです。他店になくてもうちにはあるような道具などはたまに貸し借りがあったりするので、普段から関係性は良好ですし、同じ創業者から枝分かれした自動車バッテリーのミカド電機さんともよく情報交換し合うなど、やっぱり連携のためには普段の交流も大事なんじゃないかと思います。
編集部 その意味ではネットワークの構築もBCPには必要なんですね。
沢田 ですね、あと、これも記事に書きましたけど、地域とのお付き合いも大事です。
編集部 本当におっしゃる通りだと思いました。今回は当時のファイルを確認しながら、丁寧なお話をありがとうございます。8年前の震災時の資料がきちんと整理・保存されてあって、そちらにも少し感激しました。
沢田 これはまだ震災の名称が正式に決まっていなかった、震災直後からのファイリングなので、名前が「東北大震災対応」になっていますけどね。
編集部 当社で震災を経験していない私ですが、当時の様子がよくわかりました。どうもありがとうございました。