皆さんはSBTというエネマネ用語をご存知ですか?編集部も以前参加したことがある異業種交流会「仙台ビジネスターミナル(SBT)」のことではありませんよ(笑)?正解は本文をご覧ください。(※このシリーズのすべての記事はこちらです)
SBTとは?
企業の”科学的根拠に基づいた”温室効果ガス排出削減目標
SBTはScience Based Targets の略で、そのまま訳すと「科学ベースの目標」ですが、エネルギーマネジメント分野では「”科学的根拠に基づいた”温室効果ガス排出削減目標」と定義され、企業向けの「2℃目標」と捉えるとわかりやすいと思います。
地球温暖化への対策としては、2020年までにCO2排出量を20%削減するという、よく知られたわかりやすい目標がありましたが、実際には各企業が業種・業態を問わず一律に自社のCO2などの温室効果ガス(以下、GHGと記載。GHG=greenhouse gas)排出量を20%削減しただけでは不十分で、企業がそれぞれ独自に、もっと全体を細かく見て行かないと正確な数字にはなりません。
つまり、自社が燃料を消費して直接排出するGHGだけでなく、電気・蒸気の使用量や、仕入れ品が製造される段階での排出、輸送段階の排出、廃棄物処理にかかる排出、そして従業員の移動や出張など、普段の営業活動からサプライチェーン全体にいたるまでを丹念見ていかないと、有効な目標とは言えない、という考え方です。
そのため、気候変動対策に関する情報開示を推進する機関投資家の連合体であるCDP、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)の4団体によってSBTイニシアチブという組織がつくられ、 産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑えるため、「企業による科学的根拠に基づいたGHG排出削減目標達成」を推進しています。
スコープってなに?最新の日本の認定企業は39社
SBTはスコープと呼ばれる3つの区分と15のカテゴリから成り立っています。
【Scope1】事業者又は家庭が所有又は管理する排出源から発生する温室効果ガスの直接排出
(燃料の使用(工場・暖房器具・自家用車等))
【Scope2】電気、蒸気、熱の使用に伴う温室効果ガスの間接排出
(購入電気の使用等)
【Scope3】Scope2を除くその他の間接排出
(事業者:原材料の調達、従業員の出張、廃棄物の処理委託等、家庭:製品の購入、旅行、廃棄物の処理委託等)
15のカテゴリと排出量の一例は、2017年2月にSBT認定を取得したコニカミノルタのデータをご覧ください。(出典:コニカミノルタ)
各企業はそれぞれのスコープやカテゴリにおけるGHG排出量を算定し、それを踏まえたうえで目標値を算出してSBTイニシアチブに申請します。そして審査が通るとSBTの認定となり企業名がウェブで公開されます。
環境省の2019年3月の資料によると、現在、日本で認定を受けている企業は39社だそうです。世界では食料品製造業が多いそうですが、日本では電気機器業、建設業が多いとのこと。
SBT認定を受けたGHG削減目標は各社で異なる
次に認定を受けた企業の実際の目標をいくつか見てみましょう。会社によって異なるのがわかると思います。(取得順)
社名とプレスリリース | Scope1 | Scope2 | Scope3 |
LIXILグループ 2017.11.24 |
2030年までに2015年度比で30%削減 | 2030年までに2015年度比で15%削減 | |
積水ハウス 2018.04.09 |
2030年までに2013年比で35%削減 | 2030年までに2013年比で45%削減 | |
住友林業
2018.08.15 |
2030年までに2017年比で21%削減 | 2030年までに2017年比で16%削減 | |
住友化学 2018.10.18 |
2030年度までに2013年度比で30%削減
2050年度までに2013年度比で 57%以上削減
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当社の主要サプライヤーが、2024年度までに科学に基づくGHG削減目標を設定するようエンゲージメント(目的をもった対話)を実施 | |
凸版印刷 2019.02.26 |
2030年までに2017年比で30%削減 | 2030年までに2017年比で20%削減に設定 |
ところでイニシアチブってなに?
最後に余談ですが、SBTイニシアチブの「イニシアチブ」とは何でしょう?単純に考えれば主導権のことですが、どうやら英語圏では「何かをよくするための積極的な活動」という意味合いを含むようです。
欧米では、日本でいうところの「主導権争い」や「妻が主導権」のように、率先して何かいいことを行うわけではなく、単なる力関係を指すような場合はイニシアチブとは言わないそうです。
精選版 日本国語大辞典によれば、「物事を多くの人で行なう場合に、その先頭に立って全体の動きをリードしてゆくこと。また、その権利。主導権。主体性。」とありますので、そういった動きに前向きに取り組み、主導権を持って推進していく団体や組織の名前にも、最近では好んで使われ始めたということなのかもしれません。