当社が扱っている産業用蓄電池について解説しているシリーズです。今回は産業用蓄電池と組み合わせて設置されることが多い非常用の直流電源装置についてお伝えいたします。※全記事はこちら
GSユアサの直流電源装置
災害時は電池が頼り
ミカド電装の所在地は宮城県仙台市です。
東日本大震災が発生した2011年は、コンビニやスーパーの店頭に食料品が戻って来るまで2週間以上かかりましたが、流通システムが復旧しても乾電池だけはなかなか手に入りませんでした。
我が家では電気が復旧するまでに5日間かかりましたが、夜は家にも町にも一切あかりがなく、暗闇の中では懐中電灯がなければ何かを食べることもできませんでした。
震災の発生直後はネットはおろかテレビも電話も遮断され、自分達に何が起こっているのか全くわからず、それを知る唯一の手がかりがラジオでした。誰もが乾電池に殺到したのは当然といえますし、大きな災害を経験した人は皆、電池の必要性を痛感したはずです。
重要なシステムが直流で動く理由
災害用の機器装置や通信システム、発電プラントの制御用電源など、社会的に重要な設備は、非常時には蓄電池で電源をバックアップするしくみが浸透しています。そのためこれらのシステムは、万が一停電が起こっても産業用蓄電池から直接電源が供給できるように直流で動くものがほとんどになっています。
防災装置
火災報知機や非常用の案内放送、照明、誘導灯などは、火災発生時の停電でも機能し続けるように義務付けられています。蓄電池からの直接給電は耐熱性を要する電子回路の必要がなく、確実な動作が可能なため、防災用の各種装置は直流が標準的です。
通信設備
NTTの通信機器は -48Vの直流で動作します。極性がマイナスなのは、電話線と大地の電気的な関係上、そのほうが腐食しにくいからのようです。また、なぜ48Vか?という点に関しては諸説あるようですが、鉛蓄電池4個分では?という見方が多いようです。通信設備は直流が標準のため、携帯の基地局や放送局の送信設備や中継所のシステムなども直流です。
発電プラントの制御用電源
制御用電源とは、主回路をコントロールする別回路の電源のことで、主回路の電源が停止したときには、非常用発電機の電源を入れたりブレーカーのオフオンで経路を切り替えたりするなど重要な役割を担っています。そのため、発電プラントに限らず、どんな施設でも制御用電源は主回路から独立した電源である必要があり、停電時は蓄電池から電気が供給されて稼働し続ける直流システムです。
その他
ほかにも万が一の停電が許されない交通機関の制御システム、ビルの非常照明設備、浄水施設・下水処理施設なども蓄電池がバックアップする直流の設備です。また、電圧の変動がなく電流の変化を検知しやすい直流の電気は計測用の信号としてもつかわれています。
こうやって見てみると、重要なシステムと言うのは、緊急の停電時にも必ず蓄電池が電源をバックアップできるように、蓄電池のほうに合わせて直流で設計されているということがわかると思います。
直流電源装置ってなに?
さて、蓄電池が出力する電気は直流ですが、ご存知のように商用電源(電力会社が発電する電気)は交流なので、そのままでは蓄電池を充電することができません。
そこで重要なシステムの電源をバックアップする蓄電池を充電するためには商用電源を直流に変換する装置が必要になります。それが整流装置です。
また、一瞬の停止も許されない設備の場合は停電と同時に、シームレスに蓄電池から電源が供給されなければなりません。それらをまとめてひとつの装置にしたのが直流電源装置です。
上の図は当社の工務部長に直流電源装置を簡単に略式図解してもらったものです。(文字や記号等は編集部で加筆)
直流電源装置はサーバーやオフィス機器や空調設備などに電源を送る線とは異なる系統に配置し、通常は接続している蓄電池を充電しながら、後続の装置にも直流で電源を供給します。
そして停電が発生した場合、今度は蓄電池のほうから負荷へ瞬時に直流電源が供給されます。
実際にはもう少し複雑なしくみがあり、たとえば非常用発電機がある場合にはそちらの始動と系統の切り替えにも直流電気が送られ、発電機が安定して動き出すまでの予備電源としても使われたりしますが、まずはシンプルでわかりやすいのでこの図を掲載させていただきました。
直流電源装置の構成は施設の規模によって様々です。
大きいものは整流器が別になっていたり、小さいものは蓄電池と一体型だったり、お客様のご希望と用途に合わせてとても多様になっていますので、この図はあくまでも一例だそうです。
(余談ですが、直流電源装置はお客様からオーダーをいただいて個々に製造する受注生産品になりますので、納品までに数週間の日数をいただいおりますことをご容赦ください)
これにインバーターを付けて交流出力するのがUPS
一方、サーバーなど、コンセントに差し込んで使う精密機器は、コンセントから電源を取ることでもおわかりの通り、通常は交流で稼働しています。
非常時にサーバーの大事なデータを守る重要性が増していますが、サーバーやネットワーク機器への電源も停電時には蓄電池が供給します。
ですが、蓄電池の出力は直流のためそのままでは機器類と接続できません。そこで蓄電池の電気を再び交流に戻してくれるのがインバーターと呼ばれる装置(機能)です。インバーターがあれば、普段は交流をそのまま流し、停電の時だけ蓄電池の直流を交流に直して供給することが可能です。その装置をUPS(無停電電源装置)です。
ざっくり言えば、蓄電池の電気を直流で出力するのが「直流電源装置」、インバーターで再変換して交流で出力するのが「UPS(無停電電源装置)」という認識ですが、UPSもまた、1台のサーバーの手前に置いて使う小さなものから、電気室の中に設置して大きなシステムをバックアップするものまで様々です。
中でも電力の安定化能力を持つ中規模以上のUPSは、負荷装置に対して「定電圧・定周波数」の高品質の電気を供給する目的も兼ねているため、常に蓄電池からの電気が流れている場合もあります。
雷や送電線の事故など、もろもろのトラブルで電圧が一時的にふわっと落ちることを瞬低(瞬時電圧低下)といいますが、停電にいたらなくとも設備に影響が出るケースがあり、特定のモータでは、15%程度の電圧低下が 0.01秒程度継続すると停止などの影響が発生するそうです。
UPSは停電時の電源の確保だけでなく、そういった外部要因による電圧変動の影響を防ぐためにも、最近導入が増えています。
直流と交流の変換
今回は直流電源装置やUPSについてお届けてしましたが、電力会社の電気で蓄電池を充電するためには必ず「交流→直流」の変換機能が必要であることがおわかりいただけたと思います。
UPSの場合はさらにまた交流に変換するわけですが、実はサーバーやコンピューターなどのデジタル機器の内部は直流で動いています。
つまりデジタル機器の電源をバックアップするためには何度も変換を行わなくてはならず、そのたびに発生する電源損失や発熱を考えた場合、そもそも電気は直流で供給されたほうが効率が良く信頼性も高いのでは?という考え方も最近生まれてきています。
そのための実証実験もすでに北海道で始まり、やがて電源をバックアップする装置の構成も少しずつ変わっていくのかもしれませんね。
(➡次回:番外編 パワコンってなに?変換だけじゃない大事な機能)