リチウムイオン電池について、当社会長の沢田元一郎がまとめたリチウム電池ヒストリーから、毎月特定の項目をピックアップし、リチウムイオン電池のさらなる雑学を斜め下から掘り下げる連載です。(※このシリーズの全記事はこちら)
以下は、当社会長の沢田元一郎が書いたリチウム電池ヒストリー『第4回 めんどくさいけど触れないわけにもいかない・・リチウムイオン電池のバリエーション』の一文です。
2)マンガン系マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を正極材料に使用している電池で、負極は黒鉛です。結晶構造が比較的安定性を持つので熱暴走しにくい。また原材料もコバルトの約1/10ということから大型化しやすく、主に車載用途として使われています。
リチウムエナジージャパン、オートモーティブエナジーサプライ、LGchemなどEVメーカーに供給するメーカーが多く採用しています。
今回は、この記事からマンガン系リチウム電池についてピックアップしたいと思います。
マンガン系はコバルトより安価で安定性があり車載用に採用
リチウムイオン電池の性能を決めるのが正極材料といわれていますが、正極材の種類によって、コバルト系、マンガン系、ニッケル系、鉄系、三元系の5つのタイプに分けられます。そのうち、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を正極材につかったマンガン系リチウムイオン電池は、価格が安く(マンガンはコバルトの1/10)コバルトよりも安定性が高いため初期の電気自動車に多く採用されました。
現在のリチウムイオン電池普及の土台をつくったコバルト系リチウムイオン電池は、少量でも大きな電圧が得られるため、今も携帯電話やPC、カメラなどの小型モバイルバッテリーの主流ですが、重量が300~400kgにもなる電気自動車の大容量バッテリーとしては安全面に課題が残ります。
そこでコバルトよりは容量が小さいものの、比較的安定性があり価格も抑えられるマンガン系が日産リーフなど電気自動車の電池として採用されました。
マンガン系のリチウムイオン電池はスピネル構造という格子状の結晶構造を持ち、層状のコバルトやニッケルよりも頑丈で崩れにくいのが特徴です。そのため過充電安定性と熱安定性に優れます。半面、この構造によりリチウムイオンの数やを出し入れする効率が落ちるため容量が上がらないという短所があります。
マンガン系リチウムイオン電池はコバルト系と同じジョン・グッドイナフ博士によって1983年に提唱され、1996年にNECの系列会社により世界で初めて開発されました。
現在の電気自動車用バッテリーはマンガン系から三元系へ
昨年秋、日産の新型リーフが発売され、電池パックの容量が従来の30kWhから40kWhに引き上げられました。それに伴い1回の充電当たりの航続距離(JC08モード)も従来の約4割増の400kmに改善されたことは記憶に新しいと思います。
かつて電気自動車用リチウムバッテリーの主流だったマンガン系電池ですが、現在は続々と三元系といわれる新しい電池に切り替わっており、今回の新型リーフもリチウムイオン電池の極材をマンガン系から三元系に変えたものでした。
三元系(三元系リチウムイオン電池)とは、コバルト、ニッケル、マンガンの三元素の化合物をつかった電池のことで、いわば3つの元素のいいとこ取り。容量ではニッケル系(テスラ採用)に劣りますが、寿命、熱安定性に優れており、テスラ以外の日欧米の電気自動車メーカーは現在次々とシフトしてきている状況です。
ハイブリッドカーの分野でもニッケル水素電池からスタートしたトヨタのプリウスが第二世代から三元系リチウムイオン電池に切り替わり、現在の車載電池の主流はマンガン系から三元系に完全に移行したようです。2016年の調査では大型二次電池世界市場の50%以上を電気自動車をはじめとするエコカー向けが占めていますので、その中で主流となっている三元系は今後も伸びていくと思われます。
来年(2019年)石巻にて製造開始するマンガン系の用途は?
車載用としては今後の伸びが見込めないマンガン系リチウムイオン電池ですが、それ以外の用途を目指したトピックスを最後にご紹介しておきます。私達の宮城県の話題です。
<石巻・IDF>東北大開発のリチウム電池 来年量産へ 閉校した小学校を工場に改修
(「河北新報社2018.07.13」のアーカイブ)
記事によると、自動車用シートカバーなど製造のIDF(石巻市)が来年よりマンガン系リチウムイオン電池の生産を開始するそうです。三元系よりも安全性が高く、湿気に強いためドライルームが要らず、初期投資を抑えてスタートできるところがマンガン系選択のポイントだったようです。
素材は東北大未来科学技術共同研究センター(NICHe)が開発したもので、安全面などの観点から改良を進め、ドライルームなしで製造できるようにしたとのこと。
「ドライルームが不要になって初期投資が10分の1になり、億単位の年間電気代が減った。安全性が高まり、資金やノウハウのない中小企業でも製造できる」(白方雅人特任教授)
工場建設地は旧飯野川二小の跡地で校舎も活用予定です。先月11月5日には石巻市や宮城県と工場立地に関する協定を結び来年4月から生産を開始します。(河北新報社 2018.11.06)
乗用車で首位を譲ったマンガン系リチウムイオン電池ですが、中国のEVトラック向けでは需要が伸びているそうです。IDFで生産されるマンガン系リチウム電池の用途は、家庭や小規模医院向けの非常用電源、太陽光発電装置と組み合わせた蓄電式の街路灯、通信用のバックアップ電源などを見込んでいるとのことですが、マンガン系リチウムイオン電池が今後、今後どんな展開を見せていくのか宮城県民としてもぜひ注目していきたいです。