驚異のエネマネ新技術(16) ~米国で加速する24時間稼働の太陽光発電事業~

    みかドン ミカどん⽶国で、太陽光発電事業者が蓄電池を導⼊する動きが相次いでいます。太陽光発電は日中にしか使えないという時代は終わり、仕事から帰宅した人々が自宅で利用する照明や、家電、エアコンなどに、夜でも電力を供給できる太陽光発電事業者が増えているそうです。今回は「驚異の新技術」から少し離れて、加速している米国の太陽光発電事情についてお伝えします。

    米国では太陽光発電への蓄電池導入が加速

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    再生可能エネルギーとリチウムイオン蓄電池をつかった電力貯蔵システムのイメージ図(画像:The Conversation)

    いま米国では、⼤規模なリチウムイオン蓄電池を備える太陽光発電設備の建設が各地で進んでいます。

    太陽光発電は石油などの化石燃料をつかわず、自然界に常に存在する太陽の光を活用するクリーンで持続可能なエネルギーですが、昼夜や季節による大きな出力変動や、その日の天候によって発電量が異なるなど、インフラとしては自然任せの不安定さが最大のネックでした。

    それを補うためには、発電システムに蓄電池を導入して、昼間に発電した電気をストックできる仕組みを実装すればよいのですが、それに見合う機能を持つ蓄電池(=リチウムイオン蓄電池)は、現時点では鉛蓄電池よりも割高なため、誰もが認める高性能でありながら、日本では太陽光発電への導入はそれほど進んでいないのが現状です。

    一方米国では投資が加速して、太陽光で発電した電気を大容量のリチウムイオン電池に貯める動きが活気を帯びてきました。こうした「太陽光発電+バッテリー(蓄電池)」のプロジェクトに多額の資⾦を投じているのはファンドマネジャー、電⼒⽣産者、電⼒会社のほか、⼤量のエネルギーを消費するテクノロジー企業などです。

    カリフォルニアからフロリダに⾄る⽶国の各州では、電力貯蔵施設を併設した太陽光発電所の計画が次々と発表されています。直近では2⽉中旬、テネシー川流域開発公社(TVA)が、50メガワット(MW)の蓄電池設備を伴う200MWの太陽光発電プロジェクトをミシシッピ州で開始すると発表しました。

    TVAは、⽔⼒発電ダムや⽯炭⽕⼒発電所、原⼦⼒発電所を運営する政府系電⼒会社です。同社では、このプロジェクトによって太陽光発電がより効率的になり、「需要が増える夜間にも電力を供給できる」としています。

    米国内では電力貯蔵システムを伴う太陽光発電設備の建設が急激に活発化しています。その背景には、太陽光発電の普及で生じる「ダックカーブ」の問題がありました。

    浮上してきたダックカーブの問題

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    (画像:ソーラージャーナル)

    ダックカーブというのは1日の実質電力需要量の推移をアヒルの背中やおなかの曲線になぞらえて表現したものです。「実質電力需要」は、その時点で必要な電力から太陽光発電で補填された分を差し引いた数値ですが、この曲線の振り幅が年々増大しているのです。

    duck_SJ19_p18_19_MVYつまりソーラーパネルがガンガン発電してくれる日中は、契約者の消費電力を上回る発電量になりますが、日が沈んで発電が停止する夜ほど電力ニーズが増えるので、太陽光発電が普及すればするほど、電力の供給過剰や供給不足が生じる懸念が出てきました。それを表すグラフの曲線がアヒルのシルエットによく似ているため、この現象はダックカーブと名付けられました。

    実際に米国で一番太陽光発電の普及が進んでいるカリフォルニア州では、2018年の5月後半に日差しの強い日が続き、太陽光による電力が送電網に溢れるという事態が発生しました。そこで州政府が電力の品質保持と電力料金の急落を防止するため、再生可能エネルギーによる発電量の制限を命じました。これによって廃棄され、無駄になったエネルギーは3,000万世帯の1時間分の消費電力に相当するそうです。

    電力の平準化に必須の大容量リチウムイオン蓄電池

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    カリフォルニア州大手電力会社SDG&Eによって2016年に導入された30MWのエネルギー貯蔵システム(画像:SDG&E)

    一般的な電力システムは、何を資源とする発電であっても、契約者が消費する電力の分だけ、事業者が同時に発電して供給するしくみです。水道やガスと同じように、契約者がつかわなければ供給量が減り、需要が増えればそれに合わせて電気を大量に送り出さなくてはいけません。

    ですが貯めて置おいたものを供給している水道やガスと違い、電気は発電で生じる見えないエネルギーなので、契約者の利用状況に合わせてリアルタイムに発電量を増減させる必要があります。

    従来は電力の安定運用に重要なその需給バランスの調整を、電力会社が高度な技術で行ってきました。ですが、太陽光発電などの再生可能エネルギーは気象条件に依存しているため、自然環境をコントロールできない限り、人の意思では制御することができません。そのため、導入が進んでいる地域ほど、昼夜のアンバランスが広がり、電力をストックして平準化する蓄電池(現状でそれに見合う機能を持つのはリチウムイオン蓄電池のみ)の設置が喫緊の課題となっています。

    こういった流れを受けて、いま米国では、企業に電気を売っている大規模な太陽光発電事業者に対して民間投資が盛んに行われ、大容量リチウムイオン蓄電池によるエネルギー貯蔵システムの導入が急激に進んでいるのです。

    電池とパネルのコスト低下で天然ガス発電と互⾓に

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    電力貯蔵システムの中のリチウムイオン蓄電池(画像:YouTube)

    ある調査によると、米国では過去10年間でソーラーパネルの価格が77%、リチウムイオン電池の価格が87%低下したそうです。これによって太陽光発電+蓄電池のプロジェクトが経済的に可能になりました。中には天然ガス⽕⼒発電よりも安価な電⼒を提供できるプロジェクトも出始めてきました。

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    グリッドストラテジーズ社ロブ・グラムリック社⻑(画像:YouTube)

    コンサルティング会社グリッドストラテジーズのロブ・グラムリック社⻑は現状について「太陽光発電と蓄電池による電⼒供給の市場は爆発的に伸びている」「この劇的な成⻑ぶりに誰もが驚愕している」と語っています。

    米国では政府が進める政策も投資を促進させています。再⽣可能エネルギー発電に蓄電池を併設すれば税額控除を受けられますし、2018年には米国連邦エネルギー規制委員会にの認可により、(発電事業者だけでなく)電池事業者も大企業向けに電力の卸販売ができるようになりました。

    こうした政府の後押しを受けて、米国の蓄電池の総容量は2020年末までに4,800MWに跳ね上がり、2025年までにな32,000MWを超えると予測されています。これは⽶国内で約2600万世帯に電⼒を供給できる規模です。

    サンシャインステート(陽光の州)といわれるカリフォルニア州ではいま、国内最⼤の蓄電池容量を目標に取り組みを進めています。現在の蓄電池の容量は263MWですが、それを引き上げて、今年中に1325MWを貯蔵できるように投資家保有の発電所に要請しています。また、エネルギー調査会社のブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)によると、将来のために3400MWを超える電力貯蔵システムを備えた太陽光発電の設備も発注されているとのこと。

    ⽶エネルギー情報局(EIA)によると、発電所並みの規模を持つ太陽光発電設備による発電量は2050年までに10倍に増え、再⽣可能エネルギーによる発電全体が市場の3分の1超を占めるようになると予測しています。そのために欠かせないのが大容量の電力貯蔵システムです。米国ではいま、昼でも夜でも悪天候でも電気を供給(=販売)できるの再生可能エネルギーを目指し、リチウムイオン蓄電池の市場が大きく活気づいています。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典:US solar industry powers ahead as investors back batteries Solar Battery Market Holds Great Potential: 5 Stocks to Gain