
燃やしてもCO2を出さない水素は製造方法によってグリーン水素、ブルー水素、グレー水素に分けられます。再生可能エネルギーで生成されたグリーン水素が一番環境にいいわけですが、ここに来て新たに登場したホワイト水素が注目を浴びています。

三菱ガス化学、トヨタ、ENEOSが豪スタートアップに投資
三菱ガス化学は2025年7月3日、オーストラリアで地下にある水素を採掘する豪企業に出資することを発表しました。出資先の豪企業によると、トヨタ自動車やENEOSホールディングスの子会社もそれぞれ出資するそうです。
出資先は豪:スタートアップ企業のゴールド・ハイドロジェン社(Gold Hydrogen Limited)です。同社はオーストラリア南部で天然の水素と希少ガス資源を探査・開発するために設立された企業です。
ゴールド・ハイドロジェン社が天然ガスに着目したきっかけは、20世紀初頭に南オーストラリア州で行われた石油・ガスの掘削試験でした。当時のデータに「異常に高い水素濃度が観測された」という記録が残っており、近年の脱炭素化の流れの中で改めて注目され、新たな可能性が浮上したのです。
こうした情報を手がかりに、ゴールド・ハイドロジェン社は南オーストラリア州ヨーク半島の「ラムゼイプロジェクト」で調査を開始。2022年に豪州証券取引所(ASX)へ上場し、資金を確保して本格的な探鉱・評価作業を進めるに至りました。
天然水素(ホワイト水素)の魅力は価格が安いこと

地下から採掘して得られる天然の水素はホワイト水素と呼ばれており、今は各国が発掘調査に乗り出しています。
ホワイト水素:自然に地下から湧き出す水素。採掘するだけで得られる。
グリーン水素:再生可能エネルギーで水を電気分解して作る水素。CO₂を出さない。
ブルー水素:天然ガスから作り、発生するCO₂は回収・貯留して環境への影響を最小限に
グレー水素:天然ガスから作り、CO₂をそのまま排出する。
ホワイト水素は主に、地下にある水と花こう岩や玄武岩などの火成岩が化学反応を起こして生成され、石灰岩などの地層によってブロックされることで地中に溜まり、それが世界各地に埋蔵されていると見られています。
現在、世界で主流になっている水素の製造方法は 「グレー水素」 です。これは、天然ガス(主にメタン)を使った 「水蒸気改質(SMR: Steam Methane Reforming)」 という方法が使われ、技術的に確立されていてコストが安いことから世界の水素生産の 7〜8割以上 がこの方法を採用していますが、副産物として大量のCO₂を排出するのが課題です。
一方、グリーン水素は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで水を電気分解してつくられる水素で、製造時に二酸化炭素を出さないのが特徴です。けれど発電コストや設備投資が高く、量産や価格の安定が大きな課題でした。
近年新たに注目されているホワイト水素の最大の魅力は圧倒的に低い製造コストです。発掘している企業が独自に試算したところ、1キログラム当たり1ドルと、従来の水素の5分の1~10分の1のコストで生産できる可能性があるといいます。
ホワイト水素が秘めるこういった可能性に現在は世界各国が注目し始めており、米国のKoloma(コロマ)社もビル・ゲイツ氏などの投資家から9100万ドル、日本円で約140億円を調達して調査に乗り出していますし、日本でも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]がいち早い情報収集のために海外視察を始めています。
共同開発に名乗りを上げて先鞭をつけたい日本企業
上の動画は「$15M NatH2 Investment by Japanese Giants – Gold Hydrogen Interview – Natural Hydrogen Investment」(日本の大手企業による1500万ドルの天然水素投資 – ゴールド・ハイドロジェン インタビュー – 天然水素投資)と題されたインタビュー動画です。
動画ではゴールド・ハイドロジェンのニール・マクドナルド社長が日本の三社を「時間をかけて選んだ」と話しており(他の媒体によると選定期間は7か月)、投資希望者はほかにも複数いたようです。

ゴールド・ハイドロジェン 社の資料によれば3社の出資額合計は1450万ドルなので動画のタイトルにある「1500万ドル」というのはちょっと大きく言っている気もしますが、三菱ガス化学とトヨタがそれぞれ500万豪ドル(約4億7000万円)、エネオスが450万豪ドル(約4億3,500万)という金額は、世界の水素大型案件(数億〜数十億豪ドル)に比べれば小ぶりなのだそうです。
ですが、スタートアップ企業にとって現地資源の実証を一気に進めるには十分な金額とのことで、さらにこの三社は資金の提供だけでなく、天然水素の使い道や商業化に至る道筋まで、継続して共同開発をしていく予定です。(このように事業の下流にまで関わる投資を「戦略的投資」といいます)
とはいえ天然水素の活用はまだ未知数です。ホワイト水素には以下のような課題が山積しており、「理想的なエネルギー源」になる可能性を秘めているものの、現時点では研究開発の段階で、すぐにグリーンやグレーの課題を完全解決できる状況ではありません。
埋蔵量や分布がまだ十分に分かっていない(どこで安定的に採れるか不明)
採掘や貯蔵の技術が未成熟(商業規模での実績が少ない)
環境影響の調査不足(掘削で地盤や地下水に影響が出る可能性)
ですが、NHK「おはBiz」でインタビューを受けた日本総合研究所のコンサルタントによれば「採掘できる見通しが立ってからでは取り残される可能性が高い。今のうちから重要な情報を押さえていく必要がある」とのこと。
(参考)エネルギー革命? “ホワイト水素”を探せ|おはBiz|おはよう日本|NHK
新たなエネルギー源として期待が高まるホワイト水素は、開発者も投資者も先行者利益を目指して先陣争いが始まっていることを強く印象付けられました。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用記事: エネルギー革命? “ホワイト水素”を探せ|おはBiz|おはよう日本|NHK 三菱ガス化学、オーストラリアの水素採掘企業に出資 トヨタなども – 日本経済新聞 など
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