会長のオススメ_3、絶滅の人類史 なぜわたしたちが生き延びたのか 

    2024-11-01

    絶滅の人類史 なぜわたしたちが生き延びたのか

    更科功 著 NHK出版新書

    ヒト(ホモ)属はなぜホモ・サピエンスしかいない?

    私たち人類には現在仲間がいません。

    生物学上のヒト属にはホモ・サピエンスと呼ばれる私たち一種だけ。

    例えば身近な動物ですと猫(イエネコ)が属するネコ属はスナネコなど7種で構成されてますし、イヌ属も5種。

    実は私たちのような、一属一種の生き物は結構珍しく、個体数は多いとはいえヒトってけっこう珍獣の部類に入るんです。

    しかし約4万年前に絶滅したネアンデルタール人(学名ホモ・ネアンデルターレンシス)を始め、私たちヒト族には10種類以上の仲間がいたんですよ。

    しかし彼らヒト属の仲間は、ことごとくこの本のタイトルのように絶滅して、残っているのは私たちホモ・サピエンスのみ。

    この本の序章「私たちは本当に特別な存在なのか」では、ヒト族の他の生き物にない変わった特徴である脳の大きさと、そのなかで特別に脳が大きかったわけでもないホモ・サピエンスだけが絶滅せずに生き残っている不思議に触れ、本章でそれらを深く掘り下げていきます。

    ヒト属は劣っていた?

    いま万物の霊長として地球でわがもの顔で振る舞っている私たちヒト属

    誕生したときからずーっとわがもの顔だったかというと実はそうではなくて

    著者はヒト属の祖先が劣っていたからこそ、力の強いヒヒなどから住心地の良い森林から追い出され、疎林(木がまばらに生える草原9に住むようになったと言います。

    ヒトは平和が好き?

    現在の私たちはたくさんの国際紛争を抱え、なんか殺し合いばっかりしている残酷な種に思えますが、

    これはヒトが農耕で食料や財を蓄えだしてからのことで、狩猟採集が主だった頃は食べ物をため込もうにもすぐ腐ってしまうので、分け合って暮らしていたそうです。

    また直立歩行で空いた腕に食べ物を持ち帰ることで、子供や、弱った仲間の生存に役立てたのだとも。

    実は他の類人猿などと比べても、ヒトの犬歯はとても小さく、噛んでもたいした傷を負わせることができないため、争いようがなかったようです。

    子だくさんが 生き残った?

    インドネシアにいた小柄なヒト属の仲間、ホモ・フロレシエンスは5万年前に、そして先ほど紹介したヨーロッパに多く住み、ホモ・サピエンスと混血の証拠があるネアンデルタール人は4万年前に絶滅してしまい、私たちホモ・サピエンスはヒト属のひとりっ子になってしまいました。

    過去には(残虐な)ホモ・サピエンスが、能力の劣る彼らを殺しまくって滅ぼしてしまったという説もありましたが、実はそうではないようです。

    実際、ネアンデルタール人は筋力も脳の大きさもホモ・サピエンスを上回り、ホモ・フロレシエンスはより少ない食料で生き残る能力を持っていました。

    私たちが他の人類との生存競争に勝ち残れたのは、特に優れていたというよりも、子孫をたくさん残せた、ということが大きいと著者は言っています。

    ヒトは母が娘の子育てを手伝うことで、毎年のように子供が産め(おばあちゃん仮説)、それがホモ・サピエンスが他のヒト属を凌駕し、地球に君臨する原因になった可能性を示唆しています。

    もしも仲間がいたら

    もし、ネアンデルタール人や、ホモ・フロレシエンス、デニソワ人、ホモ・エレクトスなどの絶滅したヒト属が健在だったら、どんな世の中になっていたんでしょう?

    少なくともネアンデルタール人は、文明を持ち、言葉も操れたと考えられています。

    著者の更科さんは、本書の最後にネアンデルタール人と共生しているそんな世界を書いています。

    「言葉はたどたどしいが、笑ってあいさつしてくれる優しい住人だ。計算などは苦手だけれど、時々あなたには思いもつかない素晴らしい能力を見せる隣人だ(中略・・・)そこであなたは思い出す。ああそうだった。ネアンデルタール人って、私たちより脳が大きかったんだっけ。」