会長のオススメ_7、園芸家12カ月

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    カレル・チャペック著 小松太郎訳 中公文庫 770円

    チャペックを知ってますか?

    最近同じ名前の紅茶ブランドがあるそうですが、本家本元のカレル・チャペックは、小説『山椒魚戦争』、戯曲『R.U.R.』など古典的SFの名作を書いたことで知られる、チェコスロバキアの作家です。

    普段私たちが使っている「ロボット」という言葉は戯曲『R.U.R.』で初めて登場したので、「ロボット生みの親」と呼んでもいいくらいの偉人です。

    ノーベル文学賞にも7回ノミネートされた、という大作家ですが、ジャーナリストとしてヒトラーとナチスを強烈に批判したことで、ナチスからは常に狙われていていました。

    と、ここまで書くととても硬派な闘争心あふれるまじめな人、という印象を受けますね。

    チャペックのもう一つの魅力 ユーモア

    しかし彼は巧まざるユーモアの持ち主で、自身の飼い犬を主人公にしたエッセイと写真集『ダーシェンカ、子犬の生活』は大ヒット、のちに絵本やアニメーションも作られました。

    チャペックのもう一つの魅力 園芸に命を捧げた男

    そんなチャペックさん、じつは園芸家(というかマニア)としても知られていたそうで、1938年の冬に肺炎で亡くなるのですが、嵐で荒れた庭の手入れをしたことが原因で風邪をひいてしまったのが原因だそうです。

    その4ヶ月後ナチスはチェコに侵攻し、その死を知らないナチスの秘密警察ゲシュタポが彼を逮捕しようと、勇んで自宅に駆けつけたところ、チャペック夫人は夫が前年に死亡した旨、皮肉を込めて丁寧に返事したというエピソードがあります。

    そんな、園芸に命を捧げたとも言えるチャペックさんのことですからもちろん、園芸についての著作でも有名です。

    チャペックのユーモアエッセイ「園芸家12ヶ月」

    前置きがだいぶ長くなりました。

    ゲシュタポに逮捕される前に、園芸による幸せな(?)死を迎えた男、カレル・チャペック著「園芸家12ヶ月」をご紹介します。

    この本は、彼のように園芸にとりつかれた園芸家たちの1年を1月から順番にユーモラスに紹介した内容になっています。

    すこし抜粋して紹介しますと・・・

    「庭に水をまくくらい、かんたんなことだ、と思うかもしれない。ことにホースを使えば。ところで、使ってみればすぐわかるがホースというヤツは、人間が手なずけるまでは非常に陰険な動物でうっかりできない。

    中略 水をまこうとする人間に飛びかかってぐるぐる足に巻きつく。

    中略 やがて戦場をひきあげるときには、みんな耳まで泥だらけになり

    中略 庭はどうかというと、あっちこっちべたべたの水たまりができ、そうでないところは乾いて地割れがしている。(庭をつくるには より)」

    「ロックガーデンの絵画的にきれいに積み重ねてはあるが、ちょっと力を入れるとぐらつきそうな岩のあいだに、何か植えたり、耕したり、ほじくったり、草をぬいたりするには、脚ひらきや、ひざ曲げや、胴体の横ふり、前曲げ、後そり、直立姿勢、平均運動、跳躍運動、脚前出、ひじ上伸、胴体全倒などの勇ましい芸当をやらなければならない。(5月の園芸家 より)」

    「園芸人よ、まあ聞きたまえ。秋と言えばまだ移植のできる季節だ。まず最初に、ブッシュなり木なりのまわりを出来るだけすきで深く掘ってから、シャベルをもちあげる。するとたいがい、シャベルが二つに折れる。(11月の園芸家 より)」

    挿絵はお兄さん

    この文庫本にはところどころに軽妙洒脱でユーモラスな挿絵が入っているのですが、これを描いたのは画家で著作家でもあった、実の兄ヨゼフ・チャペック。

    弟ともに、ナチスから「敵」とみなされていたヨゼフは、残念ながら1938年に逮捕されてしまい、収容所が解放される3日前の1945年4月12日、ベルゲン・ベルゼン強制収容所で処刑されて亡くなったとされています。

    園芸もユーモアも未来のために

    この本の内容のユーモラスさと、彼らが歩まなければいけなかった運命には激しいギャップがあります。

    むしろ、大国から狙われる小国に生まれるという過酷な運命を背負っていたからこそ、この本にあるようなユーモアや、だれも考えつかない新しい概念であるロボット、家畜扱いしていたらいつの間にか勢力を拡大したサンショウウオとの全面戦争、などのアイディアが生まれたのかも知れません。

    最後に終章「12月の園芸家」から、園芸家の生涯について書かれたエンディングの抜粋を紹介しましょう。

    「われわれ園芸家は未来に生きているのだ。 中略 50年後にはこのシラカンバがどんなになるか見たい。本物、一番肝心なものは、私たちの未来のためにある。新しい年を迎えるごとに高さとうつくしさがましていく。ありがたいことに、わたしたちはまた1年歳をとる。」

    ぜひこれをお読みの皆さまも「シラカンバ」のところに、あなたが大切にしているものを入れて、考えてみてください。

    「自分」?「家族」?「ともだち」? あなたは何を入れてみましたか?

    人類の未来も「高さとうつくしさ」が増していくと良いですね。