リチウムイオン電池にとって代わると言われている新しい二次電池が現れました。安価で手に入りやすい亜鉛を使った亜鉛二次電池です。今回は亜鉛二次電池についてご紹介します。
ストックホルムで亜鉛二次電池の量産工場が稼働開始
今年(2024)リチウムの覇権を揺るがすのではないかといわれている新しい二次電池の量産が開始されました。スウェーデンのエナーポリー社がストックホルムに建設した亜鉛二次電池のメガファクトリーです。
エナーポリー社は亜鉛二次電池の優れた特性に着目し、その商業化を目的に2018年に設立された会社です。そのきっかけは同社の創業メンバーでもあるマイラッド・シャムーン博士が亜鉛を使った二次電池の開発に成功したことでした。
亜鉛は地球上で豊富に存在する金属で、コストが安く酸化反応が起きやすいため、乾電池ではすでに広く使われてきました。しかし何度も充電して使う二次電池には向かない化学的な特性があり、素材として有望視はされていたものの、今まで二次電池としての利用はされていませんでした。
しかし新しい技術が生まれたことで製品化が可能になり、世界初の亜鉛二次電池工場が9月4日に稼働を開始しました。エナーポリー社が目指しているのは、持続可能なエネルギーのために、電力貯蔵の分野で亜鉛二次電池を普及させることです。
亜鉛二次電池には、リチウム電池にはない長所が数々あるため、量産による普及が実現すれば、現在のリチウム電池がやがて亜鉛二次電池に置き換えられていく可能性も示唆されています。
リチウムイオン電池と比較して亜鉛二次電池がすぐれている点
亜鉛二次電池が注目されている理由は、環境に優しく、安全性が高く、低コストである点です。再生可能エネルギーの増加によってエネルギー貯蔵技術の重要性が増している現在、亜鉛二次電池が持つ以下の特長が、持続可能なエネルギーの重要な要素として浮上してきました。
環境負荷が低い:
リチウムイオン電池などと比べ、資源量が豊富な亜鉛を使用し、比較的環境負荷が低いとされています。
リチウムイオン電池の製造は、原材料の採掘(水資源の大量消費等)から製造工程(高温処理によるエネルギー消費)に至るまで環境負荷が高いとされるプロセスを経ますが、亜鉛は広範に分布している金属のため特定地域に過剰な環境負荷をかけることが少なく、製造工程でもリチウムほどエネルギーを消費しません。
リサイクルできる:
リチウムイオン電池のリサイクルはまだ十分に普及しておらず、コバルトなどの有害物質も含まれているため、使用済み電池の適切な処理が行われない場合、環境に悪影響を及ぼす懸念があります。
一方、亜鉛は非毒性で、リサイクルがしやすく、再利用へのプロセスが確立されているため持続可能な選択肢として期待されています
安全性が高い:
亜鉛二次電池は水系電解液を使用するため、燃焼や爆発のリスクが低く、家庭や公共の場での利用に適しています。また電気自動車や大規模なエネルギー貯蔵システムにおいても、この安全性が非常に重要に鍵になります。
低コスト:
リチウムやコバルトなどと比較して、亜鉛の市場価格は安定しており、電池の製造コストを抑えられるという大きなメリットがあります。
小物には向かないけど大物には向く亜鉛二次電池は電力インフラの救世主?
リチウムイオンが1価に対し亜鉛イオンは2価であるため、亜鉛二次電池は高容量化に適しているといわれています。
「1価」や「2価」は、イオンが電気を運ぶ能力の大きさを表していますので、同じ量のイオンが動く場合、2価の亜鉛イオンはリチウムイオンよりも多くの電気を運ぶことができます。つまり、亜鉛イオンを使うことで、同じ体積の電池でより多くのエネルギーを蓄えることが理論上可能になります。しかし現在はまだ、その特長を最大限に生かす技術の確立までは至っていないようです。
さらに亜鉛にはリチウムに劣る大きなデメリットがあります。それは「重い」ということです。単純に計算すると、同じ大きさでも亜鉛はリチウムの9倍もの重さがあるので、平均200g~500gといわれるノートPCのバッテリーを亜鉛にしたら、バッテリーだけでも1.8kg~4.5kgになってしまいます。
そのため亜鉛二次電池は、ノートPCをはじめ携帯電話などのモバイル系デバイスや移動体の電源には不向きです。(しかし電動自動車の分野では、重さがデメリットになる反面、安全性と大幅なコストの低減が見込まれるため、電動自動車の普及には一役買うという見方もあります。)
そういった理由から、亜鉛二次電池は大きさや重さをあまり問わない電力貯蔵用として一番に有望視がされています。
今年の4月には米企業のZNL エナジー社からも亜鉛二次電池の開発成功が発表されました。ちなみに同社も亜鉛二次電池の製造を目的に設立された会社です。
亜鉛二次電池は日本でも数社が開発競争に加わっていますが、電力インフラに変革をもたらすと言われ始めている亜鉛二次電池の世界で、テクノロジーのユニコーンとなる会社は出現するのでしょうか?
今後も要注目の話題と言えそうです。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用記事: 「亜鉛」を用いた蓄電池が注目!ついに量産化 | 電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞) など
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