生き物に学ぶ「省エネの達人」たち:海の変身名人 コブシメ!光を操る技術(4)

    コブシメという生き物を知っていますか?聞き馴染みのない動物に思えますが、実はその正体は「イカ」です。世界最大級のコウイカ類で、日本には主に沖縄に生息しています。普段食卓に並ぶイカよりもインパクトのある見た目をしていますが、甘みがあり、味もよく、アオリイカに並ぶ高級食材なのだそう。

    水中を漂うコブシメ(画像:Photo AC

    コブシメの特徴は、周囲の環境に合わせて瞬時に色や模様を変えられるということです。
    この能力が注目されている理由は、生き物としての面白さだけではありません。研究者たちは、コブシメの皮膚に未来の材料開発のヒントを見出しています。

    海のカメレオン?

    コブシメは、海藻の近くでは緑がかった模様に、砂地では淡い色合いにと、周囲の環境に合わせて驚くほど素早く姿を変えることができます。一見するとカメレオンのようですが、実は仕組みは大きく異なります。

    カメレオンが色を変えるのに数分かかることもあるのに対し、コブシメはわずか数秒で体色や模様を変化させます

    さらに興味深いのは、コブシメ自身は人間のように色鮮やかな世界を見ているわけではないと考えられていることです。それにもかかわらず、周囲に溶け込む精巧な模様を作り出します。この能力は、天敵から身を守るだけでなく、獲物に気付かれず近づくためにも使われています。生き残るために進化した高度な生存戦略なのです。

    色を変える方法も興味深いものです。コブシメの皮膚の中には色素胞と呼ばれる小さな袋が並んでいます。主な細胞は以下の3種類です。

    • 色素を含む「色素胞(クロマトフォア)」
    • 光を反射する「反射細胞(イリドフォア)」
    • 光を散乱させる「白色細胞(ロイコフォア)」

    それぞれが組み合わさることで、多彩な色や模様を作り出しています。

    これらの細胞が広がればその色が目立ち、縮めば下にある別の層が見える。さらにその下には光を反射する細胞が存在します。

    特にイリドフォアは、色素ではなく光の反射によって色を生み出します。この仕組みは「構造色」と呼ばれ、シャボン玉やモルフォチョウの羽にも見られる現象です。

    コブシメから生まれる未来の技術

    研究者たちが関心を寄せているのは、コブシメを含む頭足類が持つ「光を操る仕組み」です。

    反射細胞では、光の反射によって色が生み出されるため、色素だけでは実現できない複雑な見え方をつくり出すことができます。  

    こうした仕組みは、「できるだけ少ないエネルギーで見え方を変える方法」としても興味深いものです。

    現在は、頭足類の反射構造や反射タンパク質の仕組みを参考にしながら、

    • 光の反射を制御できる機能性材料
    • 周囲の環境に応じて見え方が変化するスマートマテリアル
    • カモフラージュ技術
    • 光学センサーや光学コーティング

    などの研究が進められています。  

    もちろん、コブシメの皮膚をそのまま再現できているわけではありません。しかし、生き物が長い進化の中で獲得した高度な光制御の仕組みは、新しい材料開発のヒントとして活用され始めています。

    体色を瞬時に変え、周囲の環境に溶け込むその姿は、多くの研究者を魅了してきました。  その仕組みを完全に再現することは、今の技術でも簡単ではありません。
    しかし、自然界に存在するこうした優れた仕組みを学び、技術へ活かそうとする研究は世界中で続いています。

    海の中で進化したコブシメの不思議な能力は、未来の材料技術や光学技術に新たなヒントを与えてくれているのです。

    参考: コブシメ | 軟体 | 市場魚貝類図鑑 市場魚貝類図鑑 ぼうずコンニャク,美ら海生き物図鑑-コブシメ,コブシメの体色|鳥羽水族館 飼育日記,「インビジブル」イカのDNAをヒト細胞に組み込み透明化させることに成功!,

    (ミカドONLINE編集部)