東北大学が国の卓越大学に認定!落選大学のNG項目と東大・京大が選ばれなかった意外な理由

    みかドン ミカどん

    今回はエネルギーとは直接関係がありませんが、広い意味でやがてエネルギーにも関連が出てくると思われる、大学の研究開発の話題です。今回は国の国際卓越研究大学に選ばれなかった各大学のNG理由から、国が目指している大学の姿や、秀逸だった東北大学のプランなどについて触れたいと思います。

    東北大学が「国際卓越研究大学」に認定

    東北大学が2024年11月8日付で文部科学省から「国際卓越研究大学」(卓越大学)に正式に認定されました。

    卓越大学は、日本の大学が国際競争力を失いつつある現状を打破し、世界トップレベルの研究力を持つ大学を育成するため、政府が2023年に創設した制度です。

    認定された大学には、政府が出資して設立された10兆円規模の大学ファンドから最大25年間にわたり、大学運営や研究活動の強化を目的とした資金が提供されます。(報道によれば初年度の助成は100億円)

    この制度の初回公募には、以下の10大学が申請しました。そして審査の結果、最終的に東京大学、京都大学、東北大学の3大学に候補が絞られました。

    東北大学東京大学京都大学早稲田大学東京科学大学(仮称)※統合予定の東京工業大学と東京医科歯科大学が共同申請、名古屋大学東京理科大学筑波大学九州大学大阪大学

    ちなみに候補に漏れた各大学に対する諮問機関の意見を、ネットから拾って個人的にまとめると以下のようになります。

    どこがダメ?選外大学への審査意見一覧

    大学名      諮問機関の意見
    早稲田大学カーボンニュートラル社会の実現に特化するのではなく、大学全体の変革に向けた構想とすることが望ましい
    東京科学大学統合後の大学を審査するに際し、現時点では計画の具体化が十分とは言えず、実行性を判断できる段階に至っていない
    名古屋大学法人と大学の関係など自律的運営に疑問。新たな組織と既存の部局との関係などが未整理
    東京理科大学より手厚いスタートアップ支援、執行部を含め多様な人材活用に取り組む必要あり
    筑波大学つくば地域の研究機関との連携強化、連携大学院の拡充だけでは不十分
    九州大学変革を学内組織に浸透させていく道筋が現時点では不明確。全学浸透や地域の国立大連携はまだこれから
    大阪大学研究特区の順次立ち上げや組織変革の体制を全学展開する道筋が不明瞭、工程の具体化が必要

    あくまでも外野からの印象ですが、これらの課題を眺めていると、各大学から提出された申請案は抽象的でリアリティに欠け、審査員を納得させるには至らなかったようです。

    予想外!東大・京大はなぜ選ばれなかったの?

    卓越大学の選定にあたっては、「具体性」「一体感」「柔軟性」「財務安定性」が特に重視されました。

    国は従来の延長上にある提案ではなく、全大学を挙げて斬新でユニークな組織改革に一体となって取り組む姿勢や、具体的で現実味のある実行計画、そして持続的に大学自体の収益を増やしていけるアイデアなど、小手先の改革にとどまらない根本的な路線変更を求めていたようです。

    その意図は、大方の予想を裏切り東大・京大が選ばれなかった理由にも反映されています。

    東大が選ばれなかった理由

    多様な部局による一体感の課題
    東京大学は学内に多くの部局を抱えていますが、それらが一体となって全学的な改革を進めるのが難しいと判断されました。

    成長戦略の具体性が不足
    東北大学が示したような「研究ユニット制の導入」や「スタッフ増員」などの具体策に比べ、東大の成長計画は抽象的で、実現性が十分に伝わらなかったとされます。

    規模が大きすぎることによる柔軟性の欠如
    東京大学の大規模さが、迅速な意思決定や組織改革を難しくしていると指摘されました。

    京大が選ばれなかった理由

    組織文化の独立性が強すぎる
    京都大学は、各研究室や学部が高い独立性を持つ「自由な学風」が特徴であり、それが全学一体の改革を阻んでいると評価されました。

    具体的な成長戦略の乏しさ
    京都大学も東京大学と同様に、他大学(特に東北大学)と比べて具体的かつ実行可能な成長計画が弱いと見られました。

    支援体制の強化が他大学より遅れていた
    研究支援スタッフの増員や産学連携の推進策が、競争相手と比較して不足しているとされました。

    特に東大の「多様な部局」や京大の「組織文化の独立性」は、それぞれの大学の強味であったはずですが、今回はそれが逆に障壁になってしまったようです。国は思い切った改革と大学全体の一体感を強力に求めているため、その条件には適合しなかったと言えるのかもしれません。

    東北大学が選ばれたのは秀逸なプランと大野英男前総長のリーダーシップ

    選に漏れた各大学への評価を一読してから東北大学の選定理由を確認すると、同学のプランが独自性、具体性などにおいて優れていたことがわかります。東北大学が評価された具体的な取り組みは以下のようなものです。

    東北大学が選ばれた理由

    研究ユニット制への移行
    ・従来の研究室体制を見直し、教授・准教授・助教がそれぞれ独立して研究を主宰できる「研究ユニット」を新設。
    ・これにより、現在約830の研究室を約1800のユニットに増やし、若手研究者も活躍できる環境を現在整備中。

    研究支援スタッフの大幅増員
    ・産学連携や事務サポートの専門スタッフ約1100人の増員を計画し、研究者が研究に集中できる仕組みを構築する予定。

    数値目標を掲げた成長計画
    ・論文数や外部資金獲得額などの具体的な目標を設定し、それを実現するための実行可能な計画を提示。

    全学一体の取り組み
    ・学内のすべての部局が協力し、大学全体として改革を進める姿勢を示した。

    東北大学が「国際卓越研究大学」に認定された背景には、大学全体の組織改革と明確な成長戦略が認められたこと大きな要因です。

    これには大野英男前総長のリーダーシップが重要な役割を果たしました。大野前総長は在任時に研究室の独立性を高める「研究ユニット」への移行や、研究支援スタッフの増員など、具体的な改革案を打ち出し、全学的な変革を推進しました。

    大野英男前総長は日本の物理学者で磁性半導体の第一人者です。日本のノーベル賞候補としても広く認知されている大野前総長は、温厚な人柄と国際的な視野を持つ学者として知られており、2018年に総長に就任してから2024年に退任するまで、柔軟な大学改革の立案と実践に取り組みました。

    「数値目標と具体的な計画とリーダーシップ」。ビジネスでも重要なこれらの基本項目がしっかりとかみ合っていたことが、東北大学に大きな成果をもたらしてくれたのかもしれません。

    (ミカドONLINE編集部)


    引用・参考 「国際卓越研究大学」制度で衝撃、東北大が唯一の候補に選ばれた理由|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 東北大、東大、京大…「国際卓越研究大」めざす各校へ 審査意見一覧:朝日新聞デジタル