雑草:名もなき草の名(37)花の命は短いけれど「ノカンゾウ」は夏の野草の女王様

    みかドン ミカどん

    夏の野山や草むらでユリのようなオレンジ色の花をよく見かけることがあると思います。ユリのようでユリじゃなく、花姿だけ見るとニッコウキスゲにも似ています。それがノカンゾウです。

    一日限りの美しさと、たくましい生命力

    ノカンゾウ(画像:東京生薬協会

    ノカンゾウ(野萱草)は、ユリ科ワスレグサ属の多年草で、夏の野山や河原、あぜ道などでよく見られる野草です。

    近縁種のニッコウキスゲ(画像:光と風と薔薇と

    花の形だけ見ると近縁種のニッコウキスゲにもよく似ていますが、ニッコウキスゲは花色が黄色で冷涼な高原や湿地を好むので、同じ場所で見かけることはほとんどないと思います。

    ノカンゾウは鮮やかなオレンジ色のラッパ状の花を咲かせるのが特徴で、まるでユリのような華やかさを持ちながらも、草むらの中でひっそりと咲く姿にはどこか野趣があります。

    草丈は60〜100cmほどに伸び、開花期は6月から8月。ひとつひとつの花は「一日花(いちにちばな)」といって、朝に咲いて夕方にはしぼむはかない命を繰り返し、この潔い咲き方が、古くから人々の心を打ってきました。

    といっても、1本の茎に複数のつぼみをつけるので、よく見ないと、咲いている花が日々入れ替わっていることには気が付かないかもしれません。

    ノカンゾウは日本全土に分布しており、日当たりのよい湿った場所を好みます。山野の道端や土手など、人里近くの自然にもよく見られ、「野」に咲く「カンゾウ(萱草)」の意味でこの名がつけられました。

    繁殖力も旺盛で、地下茎を広げて群生し、一度根づくと毎年同じ場所に美しい花を咲かせてくれます。

    食べられる? 薬になる? 見た目と違う意外な一面

    春先の若芽(画像:JAいるま野「あぐれっしゅ川越」

    実はノカンゾウは「山菜」としても知られており、春先には若芽(おひたしや天ぷら)、花のつぼみ(酢の物や炒め物)などが食用になります。(食べるなら春がベストシーズンです)

    ほんのり甘く、クセが少ないため、野草の中では比較的食べやすい部類に入ります。といっても私は食べたことがないのですが、さっと湯がいて酢味噌や辛し和えにしたり、白い部分を生のまま「酢味噌和え」にしても美味しいそうですよ。

    また、乾燥させた花は中国で「金針菜」として食材や薬膳に使われ、中華料理や台湾料理の煮物などで登場するようです。

    さらに中国では古くから漢方薬にも使われ、「気持ちを落ち着ける」「利尿作用がある」といった効能が信じられてきました。このように、見た目の美しさだけでなく、食や薬にもなる実力派の野草なのです。

    ノカンゾウとヤブカンゾウの見分け方

    ヤブカンゾウ(画像:むなはく

    ちなみに、よく似た花で「ヤブカンゾウ」という種類があります。

    こちらも同じワスレグサ属の仲間ですが、名前のとおり、やや暗く湿った「藪」や林縁にもよく生え、ノカンゾウよりもやや遅い時期に咲く傾向があります。

    ノカンゾウとヤブカンゾウは花の色や大きさは似ていますが、決定的な違いは花の形にあります。

    ノカンゾウは一重咲きであるのに対し、ヤブカンゾウは八重咲き。つまり、花びらが重なり合ってよりボリュームがあり、豪華な印象を与えます。

    そのため園芸種としても人気があり庭に植えて育てている方もいらっしゃると思います。

    ノカンゾウもヤブカンゾウも、どちらも英語では「デイリリー(Daylily)1日ユリ」と呼ばれ、やはり花の命が1日で終わってしまうことが欧米の方にも印象的なんですね。

    (余談ですが、ニッコウキスゲも1日花なので英語では「Nikko Daylily」と呼ばれます)

    ノカンゾウとヤブカンゾウ。どちらも身近な風景の中で自然に生え、美しさと実用性を併せ持つ野草です。見かけたときは、花の形に注目して、「どっちのカンゾウかな?」と観察してみるのも楽しいかもしれません。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典/参考記事:珍しい野菜「ノカンゾウ」のご紹介 | あぐれっしゅ川越 | JAいるま野  など