
太陽電池と聞くと、屋根や開けた土地に並ぶ黒いパネルを想像する人がほとんどではないでしょうか。ところが、そのイメージが変わる研究が発表されています。
大阪大学、東京大学、青山学院大学、artienceの共同研究グループが開発したのは、目に見えない光を利用する、無色透明な有機太陽電池です。外の景色を眺める窓が、同時に電気もつくる。そんな使い方につながる技術です。
透明なのに発電できる鍵は「見えない光」
太陽電池は、材料が吸収した光のエネルギーを使って電気を取り出します。光をすべて通してしまえば、その光で発電することはできません。そこで、通す光と、発電に使う光を分けて考えます。
太陽光には、私たちが明るさや色として感じる「可視光」のほか、目には見えない紫外光や赤外光も含まれています。今回利用するのは、可視光の赤よりも波長が長い「近赤外光」です。可視光をほとんど吸収せずに通し、近赤外光を選んで吸収することで、肉眼ではほぼ無色透明に見えながら発電できます。
目に見える光は通し、見えない光を発電に使う。普段はひとまとめに「日差し」と感じていますが、その中から使う光を選べるというのが面白いところです。
吸収する光を分子の設計で選び分ける
光を選び分けるために使ったのが、「有機半導体」という材料です。有機太陽電池は、この材料を光から電気を生み出す層に使っています。分子の構造を工夫して、吸収する光を調整できるのが特徴です。
従来のものは可視光も吸収するため色が付いて見え、窓に使う際の課題になっていました。
光を吸収すると、分子の中の電子は、よりエネルギーの高い状態へ移ります。どの波長の光でその変化が起こりやすいかは、分子の構造や電子の状態によって変わります。研究グループは、分子の対称性と光吸収の関係を説明する「ラポルテの規則」を手掛かりに、可視光による変化を起こりにくくし、近赤外光を選んで吸収する分子を設計しました。

研究グループは2024年に、この考え方を使った無色透明な材料を発表していました。今回はそこからさらに進み、分子内で電荷が移動する性質も組み合わせ、近赤外光に応答する新しい材料を開発しています。
光を吸うだけでは電気は取り出せない
光を吸収できる材料ができても、それだけで太陽電池が完成するわけではありません。
光を受けて生じた電子などの電荷を電極まで運び、外部の回路へ取り出す必要があります。
途中で電荷が再び結び付いて失われるなどすると、その分だけ取り出せる電流が減ってしまいます。
今回の研究では、開発した材料で近赤外光を受けて電荷が生じ、薄膜の中を移動することを確かめました。さらに、その材料を発電層に用いた太陽電池を作り、透明さを保ちながら動作させています。
東京大学の発表によると、近赤外光領域での「外部量子効率」は最大20%を超えました。これは、入ってきた光の粒、つまり光子の数に対して、電流として取り出せた電子の数がどの程度あるかを表す指標です。
近赤外光は、可視光よりも光子一つ当たりのエネルギーが小さく、発電に使うのは簡単ではありません。今回の研究では透明な材料をつくるだけでなく、そこから電気を取り出せるというところまで分かっています。「透明でも発電できた」と聞くと短い言葉ですが、その中にはいくつもの工夫が詰まっています。
部屋の明るさと窓からの景色をどちらも大切にする
この太陽電池は、建物や自動車の窓への応用が期待されています。発電できても、部屋が暗くなったり、外の景色の色が変わったりすると使う場所を選びます。
窓として普段通りに使えることを考えると、無色透明であることはとても重要なポイントです。
オフィスや家の窓を思い浮かべると、屋根以外にも日差しが当たる場所はたくさんあります。そこでも発電できるようになれば、太陽電池を置ける場所が増えます。どれだけ効率よく発電できるかに加えて、これまで使えなかった場所に設置できることにも価値がありそうです。
さらに研究グループは、近赤外光の一部を吸収することで、室内に入る熱を抑え、空調の消費電力を減らす効果も期待しています。
明るさは保ちながら発電し、暑さも和らげられるのなら、夏には特に嬉しい効果です。
窓として使うには、大きな面積でも透明さや発電性能を保てるか、長く日差しを受けても使い続けられるか、費用はどのくらいかかるか、などまだ実装化には至っていません。
それでも、普段見ている窓が発電するようになるかもしれない、というのは楽しみです。部屋の明るさや景色を大切にしたまま、日差しを電気にも使える。窓から外を眺めたときに、「今日はどのくらい発電したかな」と思う日が来るのかもしれません。まだ研究の段階ですが、いつか身近な場所で使われるようになるのが楽しみですね。
参考:東京大学物性研究所「見えない光で発電する 無色透明な太陽電池を開発」,大阪大学「近赤外光を選択的に吸収する 無色透明な有機半導体材料を開発」,赤外光を吸収する透明な太陽電池 窓ガラスへの利用に期待























