最近、自分の机の周りが配線だらけで非常に煩わしく「この線がなければどれほどすっきりするだろう?」と思ったりしますが、実は空気中に電波を飛ばして電気を送る方法は実用化が目前です。ただし効率が非常に悪いのが大きな課題で、導入の場も限られるようです。今回は法改正で実現しつつあるワイヤレス無線給電についてです。
ワイヤレス無線給電の実現に向けて法改正
上の写真はワイヤレス給電で模型飛行機を飛ばした1992年の実験です。地上を走る車から無線で電力を受け取った小型模型飛行機がその電気でプロペラを回し、350mの飛行に成功したという内容です。この実験は当時日本初、世界でも2例目だったそうです。
当サイトでは過去にも何度かワイヤレス給電について記事にしてきました。
➡ (過去記事)驚異のエネマネ新技術(03) ~ワイヤレスで走りながらEV充電!~(2019.4.15)
➡ (過去記事)コードレスは実現するの?~ワイヤレス給電の今とこれから~(2014.8.25)
しかしこれらは近接接合型と呼ばれる方式で、機器同士を離すことができません。モバイル充電ですでに実用化されている電磁誘導方式では給電範囲が数mm~10cm程度、EV車への給電が実用化目前の磁気共鳴方式でも最大で1m以内です。
これに対して冒頭の実験(写真)で使われているのはマイクロ波方式と呼ばれるもので、周波数が300MHzから300GHz(波長が1mから1mm)の電波(マイクロ波)で電気を送る空間伝送型です。
マイクロ波方式の給電範囲は最大20mですが、理論的には数万km以上の伝送も実現できるとされています。けれどこれまでの国内では、マイクロ波を用いた給電を実験以外で行うことができませんでした。電波法で規制されていたからです。
その電波法が2021年度内に改正される見込みです。この改正はマイクロ波方式などの空間伝送型ワイヤレス給電を可能とするために見直されるもので、920MHz・2.4GHz・5.7GHzの三つの周波数帯を無線給電に割り当てる方針です。
総務省ではその前段階としてこの2月まで意見募集を行っていました。
🌎電波法施行規則等の一部を改正する省令案等についての意見募集
マイクロ波方式ワイヤレス給電実用化の背景
周波数が3THz以下の電磁波が「電波」と総称されますが、電磁波は電界(電場)と磁界(磁場)が相互に作用して空間を伝播する波なので、電気が伝わっていくイメージはなんとなく持つことができます。
しかしマイクロ波の送電効率は非常に低く、送った電気に対し受け取れる電気はほんの数%だそうです。冒頭の1992年の実験でも送信電力1kWに対し受電電力が88Wですから8.8%の電気しか送電できておらず、その数字の低さは今でもほとんど変わりありません。
一見、省エネに逆行するようにも感じられるワイヤレス無線給電ですが、今後5Gの普及でIoTが推進されていくと膨大な数のIoTデバイスが社会に設置されるようになります。
これらのデバイスを稼働させるために、電池を定期的に交換することになると大きな手間がかかるため、通信と同じように電力も無線で離れた場所に届けることができればバッテリーの問題を気にせずIoTデバイスを気軽に設置できるようになるのです。
そして日本はこの分野では技術的に先行しているものの、商品化(実用化)が遅れているという現状があります。(ゆくゆくは宇宙太陽光発電にまでつなげて脱炭素への貢献も見込まれています)
➡ (過去記事)未来に向かう新しい発電技術② 宇宙太陽光発電(2015.3.27)
10年後に1.5兆円を超えると予想される世界市場をにらみ、無線給電の実用化で先行する米国や、関連特許の4分の1を抑えるとされる中国など海外と渡り合っていくためには「日本が技術とビジネス、制度の三位一体で動かなければ勝ち抜けない」と、無線給電研究の第一人者である京都大学の篠原真毅教授は断言しているそうです。
まずはセンサー用途から
今回の規制緩和でワイヤレス無線給電に割り当てられる帯域の伝送距離は920MHzで最大5m、2.4GHz・5.7GHzで最大10mとそれほど長くはありません。しかも2.4GHz・5.7GHzは無人の屋内での使用に限られています。
それでもケーブルや電池交換が不要になる10m級の無線給電が解禁となるインパクトは大きく、ソフトバンクのほか東芝やパナソニック、その他のスタートアップ企業などが新たな市場への本格参入に意欲を示しています。
10m級の無線給電だからこそ可能になるような活用事例も登場しつつあります。電子機器部品の製造販売を行うミネベアミツミは京都大学を共同で2020年に空間伝送型の無線給電を活用した実証実験を実施しました。トンネル内の電池レスIoTセンサーに無線給電し、トンネルのひずみデータを受け取るものです。
トンネル内の保守管理はこれまで人手による作業がほとんどでした。近接目視でトンネルの現状を確認しながら巡回すると半日もかかってしまいますが、このシステムを使えば車両が走行するだけでIoTセンサーから情報を受け取ることができるので数分に短縮できるそうです。
「無線で電気が送れる」と聞くと私は真っ先に家電製品への充電を想像してしまいますが、まずは人手による作業が困難な無人の場所で、小さな電力でも動作するセンサーのようなところからの導入になるようです。
金沢工業大学で世界最高の電力変換効率を達成
最後になりますが、昨年金沢工業大学ではマイクロ波(5.8GHz)を用いた無線電力伝送で92.8%という世界最高の電力変換効率を達成しました。こちらは屋外でのドローンや飛行船などの移動物体への送電や、ファクトリー・オートメーション機器などへの送電、さらには静止軌道上での宇宙太陽光発電での地上への送電など、より遠距離の伝送を目指すものです。
距離や電力が向上すると人体への影響も気になってきます。国は人体への影響や他の通信機器との電波干渉などを検証し、問題がなければ屋外や人のいる空間へと利用範囲を拡大するそうです。
極めて強い電波を放射する電子レンジなどと違い今回解禁になるマイクロ波は電波が弱く、しかも現状の用途が「無人の屋内」に限られるため日常生活とはあまり関連がなさそうですが、その辺も含めて今後の法整備がどうなっていくのか注目していきたいです。
(ミカドONLINE編集部)
参考/引用記事: 電波で電気を送るにはどうしたら良いだろうか ―カードから宇宙まで、無線電力伝送とは― レクテナを用いたモータ駆動試験とMILAX飛行実験(PDF) マイクロ波基礎知識 電磁波って何だろう? 無線給電が実現する未来の可能性に世界と日本はどう取り組む? 人体への影響や距離の課題も 「無線給電」実用化に動き出すニッポン、世界と1.5兆円市場争奪戦が始まった ソフトバンクも参入、10m級無線給電が21年度に国内解禁 京都大学 無線給電で社会実証試験開始、ミネベアミツミと共同国家戦略特区を活用 マイクロ波(5.8GHz)を用いた無線電力伝送で世界最高の電力変換効率を達成。 金沢工業大学伊東教授、坂井研究員らの研究グループ。遠距離を飛ぶドローンへの送電や、ファクトリー・オートメーション機器などへの高効率な送電、宇宙太陽光発電での地上への送電などの実用化にむけ研究が加速 電波の人体に対する影響 ■生体(人体)への影響に関する問題。
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