メタンの抑制も大きな課題
先日、中央アジアのトルクメニスタンで火山調査していた科学者チームが、付近のガス製造施設からメタン(CH4)が大量に漏出しているのを偶然発見したというニュースがありました。
ガス製造施設のメタン漏出、火山調査で偶然発見 トルクメニスタン
火山の研究チームが赤外線画像技術を使って火山から放出されるメタンの調査を行っていたところ、近くのパイプラインから「異常に大きな」噴流が発生していることを発見したそうです。これまでのメタンの調査は50キロメートル四方の平均濃度しか検出できませんでしたが、研究チームの使っていた機器が最新技術を駆使したものだったため場所が特定でき、火山ではなくガス製造施設から発生していることを判別できたそうです。
地球を温暖化させてしまう温室効果ガスとしては二酸化炭素が知られていますが、二番目に影響があるのがメタンです。地球上のメタンの量は二酸化炭素ほど多くなく、温暖化効果もそれほど長期間には及びませんが、分子レベルで比較した場合、最初の20年間で二酸化炭素の84倍の熱を取り込むため、温暖化防止策としてメタンの抑制が短期的な効果につながるのではないかという見方も出ています。
メタンの発生源は石油・ガス施設や家畜のげっぷ、稲作、ごみの埋め立てなど、人間の活動によるものが全体の6割になっており、二酸化炭素だけでなくメタンの除去も地球規模の大きな課題になっています。
メタン監視ビジネス出現の背景
そこで近年新たにつくられたのがメタン監視衛星です。地上ではなく空の上からメタンの発生をモニタリングするのが目的ですが、なんとこれらは商用衛星をつかった民間資本のビジネスなのです。
先鞭をつけたのはGHGSatというカナダの会社です。同社では2016年に初めて概念実証用(アイデアの実現性の確認)の人工衛星Claire(クレア)を打ち上げ、地球上のメタンガス排出量を高い精度で監視することに成功しました。1日に地球をおよそ15周するClaireは、石油・天然ガスの精製施設や発電所、炭鉱、埋め立て地、牧場などさまざまな場所でモニタリングを行い、2019年4月の時点で4000点以上の観察データを取得し、現在も運用中です。
顧客は主に石油・ガスの精製施設や炭鉱と思われます。たとえばカナダではオイルサンドの採掘事業者が二酸化炭素とメタンの排出量を毎年測定する必要があり、従来は池や鉱山の表面に大きなフードをかぶせて一定期間に捕らえた上昇物を観測します。
しかしこの方法では時間と人手がかかるうえに精度も高くありません。日常的な測定ができないだけでなく、設備を設置する費用も高くつくため、衛星サービスを利用した方が確実で安価に測定できる可能性が出てきました。そこでカナダのオイルサンドイノベーションアライアンス(COSIA)では2015年にGHGSat社と提携を結びました。
また、米国のシェールガス施設では、これまで限られた気象条件でのみ効果的に動作する高価な機器を使用して、担当者が実際にガス井に行ってメタンを測定していましたが、これにはコストがかかるばかりでなく作業に危険も伴います。そのためGHGSat社ではシェールガス施設に対しても空から測定する多くのメリットを提示し、航空機による監視も提案しています。
他社も次々と参入
GHGSat社のモニタリング成功を受けて、ほかの企業や団体もメタン監視ビジネスに次々と参入を表明し始め、関係者の関心も高まりつつあります。
カリフォルニア州サンフランシスコに拠点を置くPlanet Labs社は、カリフォルニア州政府と協力して、石油・天然ガス施設、埋め立て地、牧場の牛から発生するメタンガスを特定するメタンガスモニタリングプロジェクトに取り組み始めています。
また、同じくサンフランシスコの企業であるBluefield社は、人工衛星はまだ打ち上げていないにも関わらず、すでにいくつかの石油会社や天然ガス会社の施設が排出するメタンガスを測定する契約を交わしているとのこと。なお、Bluefieldは2020年に人工衛星を打ち上げる予定だそうです。
米国の非営利団体である環境防衛基金(EDF)も監視衛星「MethaneSAT」の2022年打ち上げを目指して投資を募っており、これに対して今年の11月にニュージーランド政府が1600万ドルの資金提供を発表しました。
ニュージーランドは人口500万人の小さな国ですが、人間の数をはるかに上回る1000万頭の牛と、2800万頭の羊がおり、反芻動物である家畜のゲップから吐き出されるメタンが真剣な課題となっています。(今年の春に提出された温室効果ガス(GHG)排出量をゼロにする法案では、家畜のメタンを別扱いにして論議が起こっています)
実は日本にも温室効果ガス観測技術衛星があります。その名は「いぶき」。環境省、国立研究開発法人国立環境研究所(NIES)及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した、世界初の温室効果ガス観測専用の衛星で、2009年(平成21年)1月23日の打上げ以降、現在も観測を続けており、昨年10月29日にはいぶき2号も打ち上げられました。
北米の商用衛星が特定の場所を定点観測するのと異なり、日本の衛星は地球全体を見ていくものです。いずれにしても100年後には平均気温が4℃上がると言われている地球温暖化に大いに貢献してほしいものです。
ちなみに、いぶき2号に搭載されているリチウムイオン電池は、当社が代理店になっているGSユアサ製であることを最後に付け加えておきます。
(ミカドONLINE編集部)
出典:
ガス製造施設のメタン漏出、火山調査で偶然発見 トルクメニスタン
二酸化炭素よりもメタン回収が効率的温暖化対策で新提案
など。