Hは硬い(Hard)Bは黒い(Black)Fは締まった(Firm)
鉛筆の硬さを表すHやBは、H=Hard(硬い)、B=Black(黒い)の頭文字です。鉛筆の硬さを表すアルファベットはほかにFがあり、FはFirm(しっかりした、引き締まった)の頭文字です。現在、JISで定められている鉛筆の全規格は、芯が柔らかいものから順に6B、5B、4B、3B、2B、B、HB、F、H、2H、3H、4H、5H、6H、7H、8H、9Hの17種類です。
でも、「硬い」と「黒い」は対義語ではないし、Fに至っては意味もあいまいだし位置も変ですし、よく考えてみると謎だらけですよね。
実は鉛筆のHやBを初めて使い始めたのは、19世紀初めのロンドンの鉛筆製造業者ブルックマン社でしたが、その当時は硬さのレベルを重視する鉛筆の用途が大きく分けて二つあり、同社では、画家が求める濃い鉛筆のグループをB、製図者が好む硬い鉛筆のグループをHとして、濃さと硬さのランクを数字で表したそうです。なので最初から連続したグレードだったわけではなく、始めはそれぞれのニーズに合わせた2系統の単位だったと思われます。
やがて鉛筆を製造する会社が普及してくると、BとHの間に需要があることが分かり、HグループとBグループの間を埋めるようにHBができました。その後、さらにまた後付けでHBとBの間を埋めるFができたようです。。当時の鉛筆の硬さの単位は国や業者によってもバラバラで、BBやHHHという単位も存在したようですが、言葉通りに引き締まった?Fという一文字表記がわかりやすかったのでしょうか?単位はやがて現在のようなものに落ち着いたということです。
発明者が考えた規格は定着しなかった
鉛筆を考案したのはフランスの画家・科学者・発明家・気球操縦者で陸軍士官でもあったニコラ・ジャック・コンテ(1755年-1805)です。美術愛好者にとってはコンテと言えばむしろ彼の名前が付いた画材のほうが有名で、顔料が乗りやすい粗目の紙にチョークのような素材で書かれた石膏像のデッサンなどは誰もが目にしたことがあるのではないでしょうか?
コンテは当時筆記具として使われていたイギリス産の良質の黒煙が戦争で手に入らなくなったことから、国内の有力な政治家に代替品の筆記具の発明を依頼され、黒鉛と粘度と混ぜ合わせて焼き固めて木で挟む方法を思いつきました。
そのときに配合の比率によって硬さが変わることに気がつき、芯の硬さを番号で表しましたが、残念ながらこの呼び名は定着しませんでした。独自規格が多い米国では数字で硬さを表していますが、それもコンテが考えたものとは番号の付け方が異なるようです。結果的には、HardやBlackのほうがよりニーズに合っていて直感的にわかりやすいネーミングだったということになるのでしょうか。ちなみにコンテは片目を失明していますが、それは気球の実験中に起こったガス爆発によるものだそうです。
埼玉県民限定鉛筆?
ところで皆さんは、筆鉛筆と呼ばれる埼玉限定の10B鉛筆があるのをご存じですか?10Bという硬度はJISの規格外ですが、これは硬筆が盛んで今も硬筆展覧会が県下で一斉に行われている埼玉県で、より字を綺麗に書けるようにという硬筆関係者からの依頼により三菱鉛筆が2008年につくって販売しているものだそうです。Amazonでの商品名はその名もずばり「筆鉛筆 10B 埼玉限定 硬筆用」!埼玉県・群馬県の三菱鉛筆でのみ販売されていてカタログにも載っていないローカル商品らしいです。
Amazonでは「埼玉県民以外は発送して頂けないのでしょうか?」という質問も挙がっているようですが、決してそんなことはないようです。1本で590円という価格に一瞬目を疑ってしまいましたが、書きこごちは非常によく、究極の鉛筆というレビューもあるようです。筆鉛筆の名前の通り、筆のような書き味を鉛筆で体感でき、筆のトメ・ハネ・ハライの表現も可能とのことですよ。でも、埼玉県では小学校の硬筆の授業に本当にこれを使っているのかしら?実際には1本145円の12ダース入りも市販されているようなので、いつか現地の人に真相を尋ねてみたいものですね。
今回は鉛筆の硬さの単位の雑学でした。