2020年(令和2年)7月1日からレジ袋が有料になりましたが、有料化から除外されるものとして経済産業省のサイトで2番目に掲載されている海洋生分解性レジ袋は、実はまだ製品化されていません。今回はその海洋生分解性レジ袋についての解説です。
レジ袋以外の分野では海洋生分解性プラスチックがすでに実用化
生分解というのは、時間と共に化合物が微生物により分解されることです。レジ袋の原料であるプラスチックは時間が経っても容易に劣化しないのが特長ですが、環境への影響が問題になり始めた近年は、植物性の素材を使った生分解性プラスチックがいくつか開発されて実用化されています。
ですが、それらは微生物の数も種類も豊富な土中では有効であるものの、微生物が少なく環境もまったく異なる海中では機能しません。そこで先行するカネカが海でも分解する「カネカ生分解性ポリマーPHBH」を開発しました。
カネカのPHBHは昨年セブンイレブンのテイクアウトコーヒー(セブンカフェ)のストローに採用され、今月(9月)の7日には資生堂の化粧品容器にも採用されることがニュースで流れました。
(参考)カネカ生分解性ポリマーPHBH®製セブンカフェ用ストロー 導入エリアを拡大
(参考)カネカ、生分解性ポリマー「PHBH」が資生堂の化粧品容器に採用
また三菱ケミカルでも生分解性プラスチックの自社製品「BioPBS」に海洋生分解性を高めた開発中の素材が京急グループの清掃活動のごみ袋に採用されています。
(参考)三菱ケミカル、生分解性プラスチック「BioPBS」を用いたごみ袋が京急グループに採用
しかし残念ながらこれらはレジ袋としての開発ではないため、現時点では今回の話題と大きな結びつきはありません。
コロナのせいで世界初の認証が延期されてしまった日本製海洋生分解性レジ袋
そんな中で、愛媛県に本社を置く福助工業(足袋の福助とは別会社です)が、昨年レジ袋の素材となる海洋生分解性の単体フィルム(以後便宜上「レジ袋」と表記)の開発に成功しました。
もう一度整理すると、海洋生分解性レジ袋というのは海中で微生物が分解して最終的に水と二酸化炭素になるものです。国のルールではそれに適合する素材が100%使われているものだけが海洋生分解性レジ袋として有料化から除外されます。
国のレジ袋有料化から除外されるにはさらに条件があり、海洋生分解性プラスチックであることを証明する第三者機関の認証を受けていなければなりません。
それについても福助工業ではすでにTÜV AUSTRIA(テュフ・オーストリア)という海外の認証機関に「OK biodegradable MARINE」という認証を申請済みで、早ければこの7月に認証が下りてすぐに商用生産を開始するはずでした。
ところが新型コロナウィルスの影響で認証作業が大幅に遅れてしまったため、同社の認証取得も製品化もすべて来年になってしまったようです。
福助工業の海洋生分解性フィルムはレジ袋の素材としては世界初の認証だったため、世界で初めて商品化される日本発の海洋生分解性レジ袋として注目を集めていましたが、残念なことに実現は来年の3月以降に伸びてしまいました。
状況を考えると7月のレジ袋有料化の除外条件は、最初から同社の製品が7月に販売開始されることを前提に指定されていたようにも思えますが、あいにく海洋生分解性レジ袋は現時点では製品化されていないため、経産省が提示している2番目の条件はいまのことろ誰も適用できないものとなっています。
福助工業の海洋生分解性レジ袋の開発は無茶ぶりがきっかけ
TÜV AUSTRIA(テュフ・オーストリア:TÜV AUSTRIA Belgium NV)はベルギーにある民間会社で生分解性プラスチックでは最大手の認証機関です。2017年9月に草分け的な存在だった同国の Vincotte を買収して認証業務を引き継ぎました。(名前はオーストリアですがベルギーの会社です)
TÜV AUSTRIAが発行している生分解性プラスチック認証の中で、海洋生分解性プラスチックの認証は「OK biodegradable MARINE」と呼ばれるものですが、これを満たす要件は以下の通りです。それをレジ袋として世界で初めて開発したのが福助工業です。
- (1)水温30℃の条件下で
- (2)6ヶ月という期間内で
- (3)90%以上生分解する
福助工業はレジ袋の生産量では全国一を誇る軽包装資材のメーカーです。日本市場で流通しているレジ袋は7割が海外で生産されており、残りの3割が国産です。その国産の約6割を占めているのが福助工業の製品とのこと。
福助工業が海洋生分解性レジ袋に取り組むきっかけとなったのは、有力な顧客から「(近い将来)レジ袋の有料化は免れない。海洋生分解性のレジ袋の開発を考えてもらえないか」と依頼されたことでした。
半ば無茶ぶりの依頼でしたが、確かにレジ袋が有料化されれば販売量が3割程度に落ち込むことが予想されるため、福助工業では顧客の依頼を受けて開発に乗り出すことにしました。
そこで同社は真っ先に研究者の人選を開始し、漁網の生分解素材を研究していた群馬大学の粕谷健一教授を探し当てました。粕谷教授は、強度が必要な漁網が通常は分解されず、遺棄された後に海底のバクテリアだけに反応するという複雑なメカニズムの開発を手掛けていたため、まさに適任でした。
こうして群馬大学と福助工業の産学協同という形で研究体制が出来上がり、試行錯誤の末に早くもその年の末には製品化のめどが立ちました。原料はトウモロコシなどの植物です。
そして「海洋生分解」の基準が明確でない中、世界に認められているTÜV AUSTRIA社の「OK biodegradable MARINE」に認証を申請し、この夏には認証が下りる見通しでしたが、それがコロナのせいで先送りになってしまったのです。
日本ではすでにカネカが一部の製品で「OK biodegradable MARINE」を取得済みですが、福助工業の認証申請はレジ袋としては初めてのものでした。そのため注目を集めていたことは前述のとおりですが、やはりちょっと残念ですね。
有料化レジ袋の最大の目的は人々の意識が変わること
海洋生分解性レジ袋には疑問を呈する声もあります。「30度の海水で半年以内に9割分解する」という認証機関の要件が現実的ではないとする意見です。
30度の海水は熱帯地方に限られます。また、水より比重が重いレジ袋はやがて海の底に沈んでいきますが、海底では温度がさらに低くなり、微生物の数や種類も激減するので効果が薄いとする考えです。けれど一方では、ごみの分別やリサイクルシステムが浸透している日本ではなく、海外の途上国なら十分機能するので効果的という見方もあります。
私もそれらは真っ先に感じた事ですが、そもそもレジ袋自体が海洋ゴミのわずか0.3%(容積ベース)と言われており、大きくとらえるなら、これを有料化して消費を抑えても海洋ゴミ削減にはつながらないという論調が増えてきているのは事実です。
そのため現在の関連サイトでは「まず人々の意識が変わること」を前面に掲げているケースも多く、レジ袋有料化開始から2か月以上経ち、世論の雰囲気も少しずつ変化しているようです。
日本では昨年の5月に海洋生分解性プラスチック開発・導入普及ロードマップが策定され、「海洋生分解性プラスチック」の開発・導入
たとえ小さな効果であっても、意識が変わることは大事なことです。大きな一歩につながる技術が今後もどんどん日本から発信されることを期待したいですね。
(ミカドONLINE編集部)
出典/参考記事: 海外現地レポート 生分解性プラ認証のリーダーはベルギー? 世界初の〝海洋生分解性レジ袋〟でピンチをチャンスに 福助工業 など