電池産業の軌跡(5) ~小型・軽量化を目的にNASAが開発したスイッチング整流方式~

    denshi-kiseki 電池産業の軌跡

    みかドン ミカどん産業用蓄電池や周辺装置の歴史をピックアップするシリーズです。前回はサイリスタ整流器についてお届けしましたが、今回はスイッチング整流についてです。

    スイッチング方式の整流は高品質で安定した電気に変換

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    GSユアサ製情報通信用直流電源装置「PROSTAR」

    現在当社で扱っているGSユアサ製直流電源装置の整流方式には、サイリスタ、トランジスタ、スイッチングなどいくつかの種類があります。そのうち情報通信用の直流電源装置にはスイッチング整流方式が採用されています。

    サイリスタ方式は大電力でも使用可能なしくみのため、電力会社や鉄道などで使われていますが、スイッチング方式は情報通信用など、より高品質で安定した電気を必要とする設備で使われます。

    電源装置というのは入力した電気に何らかの変換をして出力する装置のことですが、直流電源装置はシステム一式の中に蓄電池を含み、重要な設備で停電時のバックアップ電源として使用されるので、蓄電池を充電するための整流器が必ず搭載されています。

    電力会社から送られてくる電気は交流で、蓄電池の充放電は直流ですから、交流を直流に変換しなければ充電することができないからです。

    スイッチング方式はアポロ計画で開発されました

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    (画像:MATZ8

    このシリーズでは蓄電池や直流電源装置というストレージの進化から見た電池産業の歴史を書いてきましたが、スイッチング整流に関しては成り立ちが少し違います。スイッチング方式の整流は蓄電池への充電をどうするか?という視点ではなく、電源装置をそのものをどう小型化してどう品質を保つか?という発想で生まれてきました。

    そのためスイッチング電源扱うメーカーや企業さんは、私達の様に重電部門が中心の会社とは異なり、どちらかと言えば精密部品に関係するケースが多いようです。

    スイッチング方式を開発したのはアポロ計画の真っ最中だったNASAです。1950年代になると半導体素子であるダイオードやトランジスタが量産されるようになりましたが、電源の小型・軽量化はそれほど進行しませんでした。

    交流をまず電圧変換してから整流する従来方式では、重くて大きな電源トランスや大容量の電解コンデンサを必要としたからです。また、トランジスタは真空管とちがって熱に弱いため、トランジスタの発熱対策として大きな放熱器も必要とされました。けれどそんな装置は宇宙には持っていけません。

    そこで宇宙機器に搭載するための新たな電源が求められ、そういったタイミングで半導体の素材である高純度シリコンの単結晶量産などが始まり、高性能なトランジスタの出現によってスイッチング方式の整流が可能になりました。

    スイッチング方式は電源のON/OFFで切り刻む

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    (画像:ニプロメトロ電気

    スイッチング方式の整流は入力側の交流電流を電圧を落とさずに整流し、それをトランジスタのON/OFFで切り刻んだあとに降圧して再度整流する方式です。

    二回整流を行うので一見無駄に見えますが、電気の性質上、一次側の周波数が高ければトランスは小さくて済むため、この方式によって電源装置の小型化が可能なり、今ではスマートフォンなどの充電器にも採用されています。以前と比べてスマートフォンの充電器がかなり小型で軽量になったのは、スイッチング方式のお陰なのです。

    またスイッチング方式を実現するためには制御回路が必要なため、正確な安定化制御はもちろん、様々な保護機能なども提供されるので電気の品質も保てるというわけです。

    この仕組みが直流電源装置にも採用されて、より品質の高い電源が必要な設備の安心と安全を担っています。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典/参考記事: 直流電源装置 第4回スイッチング電源を誕生させたパワーエレクトロニクスの技術史 スイッチング方式AC/DC電源とは-動作原理、基本回路、部品と実装例 など