前回の記事で送電にはロスがあるということを書きました。発電所では損失を見越して昇圧機で電圧を上げ、損失率の小さい高電圧低電流で電気を送り出しているという内容でしたが、送電を資材の輸送にたとえるなら、砂利を積んだ軽トラックが高速で爆走する(高電流)よりも、最初から積載量の大きなダンプカーでゆったりと運んだほうが(高電圧)砂利の損失も速度も危険度も少なくて済むという感じでしょうか。
さて、送電に関する記事を読んでいると三相交流という言葉が頻繁に出てきます。三相交流とはそもそもいったいなんでしょう?ただの「交流」とどこが違うのでしょうか?
三相交流は3本線の送電
三相交流は大容量の電気を効率よく送るための送電方式です。簡単に言えば、一本のケーブル(または3本1組)で、「発電機で発電された電気を、発電機からそのまま」送る仕組みです。
電力会社の発電機が起こす電気は、電圧に波があるので交流と呼ばれ、この波の周期の高低をワンセットで位相と言います。発電所の交流発電機は位相のタイミングが異なる3つの電気を同時につくりだす構造になっています。それを3本の線にそれぞれつないで送電しています。ではなぜ、波ができるのでしょうか?
位相の違う3本の電気を発電するしくみ
私達は高校生のときに物理で電磁誘導を学び、磁石を回転させると電圧が発生することを習いました。逆に磁石のほうを固定して磁場の中でコイルを回転させても電圧が発生します。
発電所の発電機は、固定したコイルの中で磁石を回転させることによって電気を発電します。具体的には、3組のコイルを120度の間隔に配置することで、電圧・電流・周波数の周期(位相)が1/3ずつずれた3つの「単相交流」が同時に発生します。その3つの「単相交流」を3本の電線で送ることを「三相交流」といいます。
発電機の中では、どのコイルもN極やS極が近づいたり離れたりを高速で繰り返しています。そのため、送られる電気の電圧は周期的な波型になります。コイルは円の中に120°ずつ離れて3つ設置されているので、3つのコイルから送電される電気の電圧も、磁石の回転による接近と離反のタイミングを反映して、それぞれにきれいにずれている波型になります。
これをそのまま3本の線で送る送電方式が三相交流送電です。三相交流の電気は、一般の利用者に対しては、建物に届く前に専用の変圧器で単相にして家庭やオフィスに届けられますが、工場など大きな電力を必要とする場所では三相のまま需要家に引き込まれて、三相モーターなどの動力源になります。その場合は配電盤でケーブルを振り分けられ、ブレーカーを介して直接機械に接続されます。
三相交流が三相モーターに接続されると?
三相交流の電気が三相モーターに送られると、今度は発電機(運動→電気)と逆のパターン(電気→運動)になります。最大電圧のタイミングが均等にずれている3本の電線が同じ機械に接続されると、磁力の高い場所が円の中で次々と順番に移り変わるため、それを磁石が追いかける形で、結果的に回転エネルギーが発生します。
三相モーターにはコイル(鉄心溝)の数や極数の異なるいくつかの種類がありますが、基本の原理は皆同じです。三相交流は、3本の線でそれぞれに送られてくる単相の電気を3つ合わせてひとつの力にするので、大きな動力を動かすのに適しています。
三相交流送電の特長とデメリット
同じ電力を送るとき,「電圧を低く,電流を大きく」すると,「電圧を高く,電流を小さく」したときと比べて、送電線での発熱によるロスが増えます。それを避けるために、発電所では数十万 V という高電圧で電流を送り出し,消費地に近づくにつれ, いくつかの変圧器で電圧を下げていきいます。変圧器で容易に電圧を変えられるのが交流送電の利点であり、交流送電と言う場合は、現在の電力会社が電気を送っている三相交流方式を指します。
しかし交流送電にも欠点があります。家電製品のほとんどが直流電流で動いているため、実際は交流直流の変換装置が製品に内蔵されていたり、PCのように外付けのACアダプターで変換するなど再変換の無駄があること、そして、交流は電気をためておくこともできません。
また、電気を送るという点では、送電距離に限界があり海底を高圧送電できないこと、電力系統の消費量に合わせて発電量を細かく調整しないと周波数を一定に保てないことなどが短所として挙げられます。そのため近年では、直流送電が見直されつつあります。
次回は超電導直流送電について解説します。
◆2018.05.12 文章の一部に誤りがあったため修正いたしました。
◆2019.06.06 読者の方から誤字のご指摘をいただき修正いたしました。