産業用蓄電池や周辺装置の歴史をピックアップするシリーズです。前回は大きな真空管のアークで整流する、まるでタコのような水銀整流器について書きました。第3回の今回はその後に登場したセレン整流器についてです。
産業用電源装置の歴史は整流器の歴史
当社はインフラ設備、公共施設、病院、学校、銀行などの非常用バッテリーや電源設備を取り扱う会社です。そのうちの直流電源装置は、大きく分けると
「蓄電池」と(整流器から供給される直流電力を蓄える)
「その他の付属部品」(電気の品質を安定させる)
の3つで構成されています。
直流電源装置のコアな技術的要素を支えているのが整流器であったため、キャリアの長いベテラン技術者の中には、今でも直流電源装置を「整流器」と呼ぶ人もいますが、確かに直流電源装置の歴史は整流器の歴史と言えるかもしれません。
水銀整流器に代わりセレン整流器が普及
近年まで大きな変化がなかった蓄電池と比べると、整流器のほうは技術の進歩に伴って大きく姿形を変えてきました。
ガラス製のタコのような水銀整流器に代わって普及し始めたのがセレン整流器です
(参考:タコと呼ばれた水銀整流器)
セレンというのは原子番号34の物質で、半導体の性質を持ちます。そのセレンをニッケルメッキした鉄またはアルミ板に塗り、さらにその上にカドミウム-スズまたはカドミウム-亜鉛合金にタリウムなどを添加したものを塗布して整流性を安定させたものが整流器の素子として使われ始めました。
セレンに整流作用があることは1800年代の後半にはすでにわかっていましたが、当時は半導体という概念もなく、なぜそうなるのかわからないまま半世紀が過ぎ、研究が進んで初めてドイツで工業化されたのは1928年(昭和3年)のことでした。
国内では1945年(昭和20年)の終戦の頃から国産品の開発が始まり、安価で寿命が長いためまずラジオや拡声器などの小型家電製品に採用されました。
セレン整流器はその後、1950年代(昭和25年~)には直流電源装置などの高圧電流分野にも導入されて1960年代(昭和35年~)位までに最盛期を迎えました。
この時期はテレビの普及が追い風になり、家電用のセレン整流器を製造しているメーカーはおおいに売り上げを伸ばしました。
整流器はその後シリコンの時代へ
セレン整流器はやがて圧倒的に小さく軽量のシリコン整流器が登場すると、容量が低い・大型などの理由で姿を消すことになりました。しかもセレンは有害物質であったため、国内では製造されなくなってしまいました。
ですが昭和の半ばには大量に出回っていたものなので、小型の製品であれば今も中古市場などで見かけますし、ジャンク品として販売される古い電気製品の中にも使われていることが珍しくありません。
バイク用の古いセレン整流器などは比較的高値が付いているそうですが、耐久性に劣るため、いくらビンテージ仕様のオリジナルが好きな趣味人でも手を出さない方が賢明だそうです。(それに一応有害ですし・・・)
放熱板が何枚も連なる特長的な形のセレン整流器ですが、1970年頃には手のひらサイズのシリコンに置き換わっていきます。けれどセレン整流器が使われている直流電源装置はしばらくの間ずっと使われ続けていたので、昭和の頃は当社の社員がメンテナンスでご訪問したお客様の電源室で、古い製品を見かけることもあったそうですよ。
出典/参考記事: 半導整流器のABC(PDF) 直流電源の進歩(PDF) など