当社会長(沢田元一郎)が連載していた、リチウムイオン電池の簡単解説『横からリチウム』の本文からテーマをピックアップして、リチウムイオン電池の小ネタを書いていく『リチウムの斜め下』シリーズです。今回はリチウムの産出場所についてです。(※このシリーズの全記事はこちら)
リチウムは塩湖のかん水からの産出が7割です
以下は、当社会長の沢田元一郎が書いた『第1回 だからリチウムってなに(怒)!』からの一文です。
主な産出国は、チリ、オーストラリア、中国など。オーストラリアでは、鉱石ペグマタイトからコンデンサに使われるタンタルを生成する際の副生物として回収されていますが、7割方のリチウムは塩分を含んだ塩湖(チリのウユニ湖など)の水が乾いて濃くなったもの(塩湖かん水)を精製して作られます。
今回は、上記の一節をテーマに取り上げ、
●リチウム南米事情
について、斜め下?から掘り下げます。
リチウムの産出方法は3種類
EVの普及に伴い、電池に必要なリチウムの需要は今後10年間で大幅に拡大すると予想されています。リチウムは地球上に広く分布していますが、非常に高い反応性のために単体としては存在していません。世界のリチウム資源は大まかに、①塩湖のかん水からの回収、ペグマタイト鉱床等に含まれるリシア輝石、葉長石(ペタライト)などの②リチウム鉱物からの回収、近年セルビアにおいて Rio Tinto により発見された③新鉱物「jadarite」からの回収の 3 種類に分類することができますが、③の新鉱物に関しては、回収技術の開発中でまだ手法が確立していないため、現実的には2種類と言えるでしょう。
①塩湖のかん水からの回収
チリ、アルゼンチン、中国、北米などで実施されています。
塩湖から塩水を汲み上げて濃縮させた後に炭酸リチウム精製を行う方法です。
②リチウム鉱物からの回収
主要国はオーストラリアです。
ブラジルやジンバブエ、ロシア、ポルトガルなどでも生産されています。
オーストラリアで採れたリチア鉱石(リチウムを含む鉱石)は、
中国へ出荷され、中国でリチウム電池などに使用される
炭酸リチウムへの精製が行われています。
世界最大の埋蔵量と言われるボリビアですが・・・
リチウムの埋蔵量の多くはアンデス山脈沿いに偏在しています。現在の最大の産出国はチリで、世界の産出量の3分の1近くを生産していますが、それにアルゼンチンとボリビアを加えると、世界の推定埋蔵量で6割~8割を占めると言われており、「20世紀の中東の原油の世紀」から「21世紀のリチウムの世紀」に時代は移ったと捉える人もいるほどです。
南米三か国の中で、データのない国があります。それがボリビアです。ボリビアはウユニ塩湖という世界で最大規模の塩湖を有しています。ウユニ塩湖はアンデス山脈が隆起した際に、大量の海水がそのまま山の上に残されて干上がり、世界でも類を見ない広大な塩原が形成されたものですが、世界の半分を占めるリチウム埋蔵量と言われながら、まだ開発がほとんど進んでいません。
その理由はボリビア政府の政策にあります。現在のエボ・モラレス大統領は先住民族の出身であることから、南米の富がスペイン人によって略奪されたという意識が強く、貴重な自国の資産が多国籍企業に奪われるのを避けるため、国家の基幹産業に成りうる可能性のあるものは全て国有化するという政策を取って来ました。
リチウムを埋蔵するウユニ塩湖の開発についても国有化し、開発は自国資本に限定するとして、外国からの資本参加を極力避けていますが、現在のボリビア政府にはそれを抽出する技術も資本も持ち合わせていないという現実があります。
そこに、テスラーモーターズが昨年、ボリビアで「バッテリーの生産工場を建設したい」という希望を同政府に伝えました。産出したリチウムをそのまま外国に輸出するというプランでは大統領は受け入れないと考えたからです。
ボリビア政府は、同じような申し出が「ロシア、オーストラリア、日本を含め5社からあった」ことを公表しました。
世界のリチウム推定埋蔵量は1300万トンと言われていますが、この中にボリビアの数字は含まれていません。ウユニ塩湖は果たしてテスラの”ブルーオーシャン”になり得るのでしょうか?リチウムのニーズの高まりと共に、ボリビアの動向に注目が集まっています。
(参考:需要急増のリチウム。南米でのリチウム覇権を狙う米国と南米産出国の動き)