エネマネことばの窓05~全個体電池がニュースになるワケ~

    エネルギーマネージメント「ことばの窓」

    みかドン ミカどんニュースや新聞記事で全個体電池という言葉を聞くことが多くなりました。全個体電池というのは、その名の通り、すべて個体でできている電池です。・・・と言われてもピンと来ませんし、想像もつきません。でも実は全個体電池もリチウム電池なのです。今回は全個体電池が話題になる理由を解説していきます。(※このシリーズのすべての記事はこちらです)

    乾電池にも蓄電池にも電解液が入っている

    液漏れした乾電池
    (画像:@beridox_tapeさんのTwitterより)
    マンガン乾電池の構造
    (画像:日本電池工業会

    電気製品の乾電池を交換しようと思い、久しぶりにフタを開けてみたら、乾電池から液が漏れていた、という経験はありませんか?重い金属の塊にみえる乾電池ですが、中には電解液と呼ばれる液体が入っています。マンガン乾電池の場合は、二酸化マンガンが混ざった電解液と亜鉛の化学反応で電気をつくりだしています。アルカリ乾電池も組み合わせる物質が違うだけで、構造は同じです。

    鉛蓄電池の構造
    (画像:日本電池工業会

     

    一次電池でも二次電池でも基本は同様で、簡単に言ってしまえば、性質の異なる二種類の金属を電解液に浸すことで電気を発生させています。ガソリン車の古いタイプの鉛蓄電池では電解液が減ってくると水を補充しますが、今も一般的な鉛の蓄電池では、正極に二酸化鉛、負極に鉛、電解液に希硫酸がつかわれています。(電解液をジェル化させた製品もあります)

     

     

    リチウム電池の弱点とは?

    リチウムイオン二次電池の構造
    (画像:日本電池工業会

    実はリチウム電池にも電解液がつかわれています。リチウム電池の場合は電解液に有機溶液を使用するため、従来の電池よりも安全のためにかなり複雑な構造になっています(この構造が発明されたことで実用化が可能になったともいえます)。

    けれど、リチウム電池の特性上、有機溶液を使用しなければいけないことで、現行電池の限界も今後のネックとなってきました。

    具体的には、
    ・高温や低温に弱い
    ・急速充電に限界
    ・小型化が難しい
    といった点です。

    可燃性に関しては、現在は様々な安全対策が取られ、一次電池(一回限りの捨て電池)はボタン電池として普通に売られ、二次電池(充電して何度も使用)としてもスマートフォンやカメラやノートパソコンなどはリチウム電池が当たり前(正確には「リチウムイオン二次電池」。以後はリチウムイオン電池と表記)になりました。

    ですが、今後、普及が見込まれる電気自動車(以下EV)の電池としては、これらの短所は大きな課題となります。温度変化に弱いリチウムイオン電池の動作温度は-30°C~+70°Cと言われており、元来これは通常の環境で使う分には全く問題がありません。ですがEVの急速充電などで電池が高温になった場合、電解液の沸騰や揮発の懸念があるため、現行のリチウムイオン電池では、今以上の高速充電が困難です。

    また、現行のリチウムイオン電池は急速充電時や高速走行時の発熱を逃がす目的で、電池の周囲に隙間を持たせたり冷却装置を搭載しています。そのため小型化にも限界があるそうです。

    全個体電池は電解液の役目を固体物質が担う

    現行LIBと全個体LIBの比較
    (画像:Forcus NEDO

    全個体電池は、そういった現行のリチウムイオン電池の弱点を補うものとして、注目され始めました。簡単に言えば、全個体電池は電解液を固体物質に置き換えたものです。研究そのものはリチウムイオン電池が実用化されるずっと以前から地道に行われてきましたが、EVの出現と共に状況が一変し、2017年10月の東京モーターショーで、トヨタ自動車が2020年代前半に商品化を目指すと発表したことから、急激に脚光を浴びました。それまでは全固体電池の実用化は2030年以降と思われてきたからです。

    「Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3」とその中のリチウムイオンの通り道
    (画像:科学と工業

    その大きなきっかけになったのが、2011年の東京工業大学 菅野了次教授による『超イオン導電性材料』の発見です。世界で初めて、個体でありながら電解液並みの導電率を持つ超イオン伝導体Li10GeP2S12(LGPS)が開発されたのです。これはリチウムイオンを通しやすい結晶構造になっている物質で、全個体電池のブレイクスルーとなりました。

    そしてこれを機に多くの研究者が開発に参入し、現在ではさらなる『超イオン導電性材料』の研究や正極・負極材料の組み合わせを模索して、実用化に向けた先陣争いに突入しました。菅野教授もその後「Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3」という新しい素材を開発し、室温(25℃)でのイオンの通り道がLGPSより三次元的に拡大している素材です。

    菅野教授は昨年(2018)NHKの科学番組「サイエンスZERO」に出演しましたが、「リチウムイオンが液体のように動く」という言葉が印象的でした。番組では全個体電池の特長を ①熱に強く安全 ②容量が3倍 ③充電時間1/3 と説明していました。一見、バラバラの特長に感じられますが、前述のようにこれらはすべて「熱」に起因する課題の解決と考えられます。

    小型用途ではすでにサンプル出荷開始

    全個体電池は全く新しい発明というわけではなく、体内の温度環境でも安定して動作することから、ペースメーカーの電池としてはすでに実用化されていました。最近では、電子部品のように小型チップ化された全個体電池がTDKやFDK、そして日立造船からサンプル出荷されています。日立造船では、低温にも強いことから宇宙開発での活用も念頭に入れているそうですし、TDKは今年中に量産体制に入る予定、村田製作所も今年度中の製品化が目標です。

    ですが、多くの人が待ち望んでいるのはやはり、EVに搭載できる全個体電池ではないでしょうか。前述のNHK「サイエンスZERO」では、電気自動車レースで予選と決勝の間に5時間半もの充電タイムがあることや、電池が高熱になるとスピードを抑えるしくみが働いたためか、残り3周で急激に減速してしまった車の様子が放送され、現行の電池の課題が示唆されました。

    ①熱に強く安全 ②容量が3倍 ③充電時間1/3の全個体電池が実用化されたら、それによってEVは大きく変わっていくと思われます。その過程を注意深く見守っていきたいものですね。

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